『ソードアート・オンライン』シリーズで示されるLiSAの存在感
LiSAと『ソードアート・オンライン』シリーズが、久しぶりにタッグを組みました。
2021年10月15日、LiSAは配信限定シングル『往け』をリリース。
YOASOBIのAyaseが作曲を務めた本楽曲は、劇場版『ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』の主題歌となっています。
LiSAが『ソードアート・オンライン』シリーズのテーマソングを担当するのは、実に2年振り。
TVアニメ『アリシゼーション編』のエンディングテーマとなった楽曲『unlasting』以来の楽曲提供に期待が高まります。
ゲームの世界を中心に繰り広げられる壮大なストーリー。力強いLiSAの歌声がどう絡んでいくのか気になるところですね。
描かれるのは、『ソードアート・オンライン』シリーズのメインヒロインであるアスナを主役に据えた物語です。
ふとしたきっかけで命を懸けたゲームに挑むこととなる彼女。
運命に抗い、必至で生きようとする十代の少女が持つ迷いや強さを歌った、すがすがしい一曲です。
アニソン歌手としても名高いLiSAが作詞を担当した『往け』。
LiSAの歌声と共に、歌詞に込められた意味を解釈していきます。
流されるままの子供からサバイバーへ
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絡まる 絡まる想いはちぐはぐ 髪ほどきながら
「らしくない」
誰かが作り上げた私の自画像なんかで微笑みはしない
≪往け 歌詞より抜粋≫
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オンラインゲーム「ソードアート・オンライン」に出会うまで、流されるままに生きてきた少女・アスナ(結城 明日奈)。
良家の娘であり、まだ学生である彼女は、自分の意思で何かを決めるより両親の言うことに左右される、そんなどこにでもいる少女でした。
「らしくない」という歌詞からは、本心を出せないアスナの鬱憤やもどかしさ、気持ちを吐き出したいという思いが溢れているように感じます。
勝手に他人が評価した自分の姿。そんなものに合わせて微笑んだりなんてしない、というのは、彼女なりの抵抗なのでしょう。
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幾度となく"正しさ"は その形を変えるけど
この胸のときめきだけ信じているわ
「いけ、わたしよ 行け!」って
もう、誰も追いつけない場所まで 加速していけ
運命なんて気にしてる暇ないんだって
≪往け 歌詞より抜粋≫
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「正しさ」というのは強固なものに見えて、実は形の定まらない不確かなものです。
その時代、その状況に合わせてコロコロと姿を変えてしまうもの。
めまぐるしく変わっていく「正しさ」より、素直な自分の心やときめきに身を任せたいというのは、シンプルで自然な感情です。
正しさが揺らぐなら、自分の声に忠実に生きた方が後悔は少ないでしょう。
若さ故の単純さや素直さが垣間見えるフレーズです。
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やるせない やるせない孤独のシグナルさえ踊り明かそう
「悪くない」
何にもないあの夜も 何かに怯えたあの頃も全て私
≪往け 歌詞より抜粋≫
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ゲームの世界へ身を投じるまでのアスナは、自分の意思を表に出すことなく目の前の現実にただ流される少女でした。
若さも可能性もあるのに、親や周りの大人の意見に振り回されて自分というものを見失ってしまう。
それはおそらく、アスナに限らず多くの十代が経験することではないでしょうか。
しかし、流された自分も、やりがいや意味を見出せずにさまよった自分も、すべて自分自身。
過去の自分を否定するのではなく受け入れることで、人は前に進むことができるのではないでしょうか。
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戸惑いや裏切りに 行き場のない感情を
撒き散らした代償に 何を手にして来れたかな
≪往け 歌詞より抜粋≫
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「ソードアート・オンライン」の世界では、ゲーム内での死が現実の死に直結します。
突然命がけのゲームをさせられても、戦い慣れていない人たちは為す術もなく殺されていくでしょう。
生き残るための戦略、裏切り。
ゲームの中で繰り広げられる命のやりとりは、十代の少女には重すぎるもの。
そこに渦巻く感情を処理しきれず、自分の感情すら受け止めきれない残酷な世界。
その中で、彼女の心は疲弊していったはずです。
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「ここだよ」叫びながら
「愛して」と願いながら
駆け出したこの道を走り続けるだけ
≪往け 歌詞より抜粋≫
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「ここだよ」と必至で自分の存在を知らせながら、「愛して」と必至に願う姿はひどく痛々しいです。
どんなに苦しくて受け入れがたい理不尽も、受け入れるしかない現実。
その中で懸命に命を繋ごうとするアスナの願いが伝わってくるようです。
突如として、普通の世界で当たり前の毎日を過ごす少女から、命を懸けたサバイバーになったアスナ。
有無を言わさぬ現実や環境の変化についていけない戸惑いや迷いなど、言葉にならない感情が詰まった歌詞になっています。
「行け」は自分を奮い立たせる言葉
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昔から弱虫のくせに 気づかないふりをしてきたね
「ツラくない」
"大事"だって守りながら いつも「大丈夫」って笑いながら
「変わりたい」と泣いていた
≪往け 歌詞より抜粋≫
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弱音を吐きたい自分をごまかし、ひた隠しにして「大丈夫」と強がりながら本心ではずっと「変わりたい」と願っていた。
このような悩みを抱えている人はきっと、世の中にたくさんいることでしょう。
生まれつき、自分の気持ちを表に出すことが得意な人、不得意な人がいます。
アスナはきっと後者だったのでしょう。
周りに流されたり大人の顔色を窺ったりしている内に、自分というものを出せなくなってしまうのはよくあることです。
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「ごめんね」って やっと聞こえない残響になった
時を追い越して もう、そこにはいないの私
「置いて行け!」そうね
思い出に浸ることもない程 今に夢中
≪往け 歌詞より抜粋≫
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ここで歌われている「ごめんね」は、自分に対してでしょうか。
ずっと押し殺してきた自分の本心に対する「ごめんね」なのかもしれません。
変わることを願いながら、変わることもできずに自分を殺し続けて来たのだとしたら、きっとこの「ごめんね」は自分に対する懺悔。
過去の自分が自分に放った「ごめんね」は残響になり、耳から離れることはなかったのかもしれません。
その声がついに過去のものになり「置いて行け!」に変わった時、アスナはようやく一歩踏み出すことができたのでしょう。
なぜなら今、目の前にあるのはデスゲームだから。
気を抜けば次の瞬間にも命を失い兼ねない状況だからこそ、感傷に浸っている余裕も後悔している余裕もないのです。
ただ目の前にある「今」を懸命に生きるために、過去を振り切って「行け」と自分に言い聞かせているような歌詞です。
未来へと突き進む力を手に入れた「わたし」
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「いけ、わたしよ 行け!」って
もう、誰も追いつけない場所まで 加速していけ
運命なんて気にしてる暇ないんだって
≪往け 歌詞より抜粋≫
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アスナは、気遣いのできる少女です。それはつまり、人の顔色を気にしてしまうことにも繋がっているのでしょう。
自分の気持ちを押し通すことはせず、流れに逆らうことなく生きてきた彼女が強く未来を願う歌詞。
『往け』のサビの歌詞に「こう生きたい」という明確なビジョンはありません。
しかし、向かいたい方向ははっきりと示されているように思えます。
死と隣り合わせの世界で「運命なんて気にしてる暇ない」と言えるのは、「生きたい」「死にたくない」という感情よりも強い、「こう在りたい」という願いが彼女の中に芽生えたから。
なりたい自分になるなら、運命や目の前にある死の恐怖など乗り越えていかなければなりません。
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「いけ、わたしよ 行け!」って
もう、誰も追いつけない場所まで 乱気流さえ追い越して
まだ知らない私を見たい
≪往け 歌詞より抜粋≫
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「まだ知らない私を見たい」これこそが彼女を「行け」と突き動かす原動力なのです。
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「いま、わたしの今!」って
そう、確かに描いていた未来 やり遂げたいの
誰のせいにもしない
≪往け 歌詞より抜粋≫
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訳も分からず参加させられた死のゲーム。理不尽な死を突きつけられても、自由に生きる権利を奪われても、「今」という瞬間は紛れもなく「わたし」のものです。
「誰のものでもない『今』だけは奪わせない。自分の好きなように生きてやる」
そんな強い意志を感じます。
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「いま、わたしの今!」って
そう、あの日の涙からの未来 辿り着いたわ
嗚呼、まだみてみたいの
嗚呼、キミト アスへ 世界は万華鏡
≪往け 歌詞より抜粋≫
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自分を押し殺して流した涙。残酷な死を前に流した涙。
過去の弱い自分に別れを告げ、今はただ、大切な「キミ」と未来を目指すことを決意したのでしょう。
この「キミ」というのは、キリト(桐ヶ谷 和人)のことかもしれません。
キリトはゲームの世界、現実世界共にアスナと思いを通わせる恋人。
彼女の原動力になり、一緒に未来を目指したいと思うに足る人物です。
万華鏡は、筒の中という小さな世界の中にカラフルで無限の世界を感じさせます。
万華鏡を覗いたような胸のときめき。小さな世界に詰まった無限の可能性。
「世界は万華鏡」という歌詞には、見方次第で世界はいくらでも美しくなる、諦めなければ可能性は消えない、という生に対する非常に前向きで強いメッセージを感じます。
ミュージックビデオでは、迷いながらも光を目指すような、LiSAの力強い目線が印象的。
絶望的環境の中でも希望を見出して前へ進んでいく。
アスナとキリトの関係性や強さを彷彿させるような楽曲です。