空前のヒット作、映画「君の名は。」
「君の名は。」は、2016年8月26日に公開された長編アニメーション映画です。
新海誠が脚本・監督を務めたこの作品は、都会に住む少年「立花滝」と田舎に住む少女「宮水三葉」が入れ替わりを通して惹かれ合っていく純愛ストーリー。
本作の声優には、神木隆之介や上白石萌音、長澤まさみといった豪華俳優陣が起用され、新海監督ならではの”映像美”がさらなる話題を呼びました。
そして「君の名は。」の興行収入は250億円を超え、歴代ランキングでは第5位にランクインする等、社会現象になるほどの大ヒットとなりました。
そんな『君の名は。』の世界観を掘り下げた立役者が、RADWIMPSの音楽です。
この夢のコラボは、新海監督がプロデューサーから音楽について問われた際に、元々好きだったRADWIMPSの名前を挙げたことがきっかけでした。
RADWIMPSは映画制作の初期段階から携わり、『前前前世』『夢灯籠』『スパークル』『なんでもないや』といった主題歌・挿入歌4曲に加え、劇半音楽22曲の合計26曲を作曲。
これらは全て、2016年8月24日にリリースされたサウンドトラック『君の名は。』に収録されています。
今回とりあげる『なんでもないや』は、新海監督から「今になってようやく何かが分かった」というニュアンスを含んだ楽曲を作ってほしいという指示があったそうです。
その視点も踏まえて、歌詞の内容を見ていきましょう。
歌詞から得たインスピレーション
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二人の間 通り過ぎた風は
どこから寂しさを運んできたの
泣いたりしたそのあとの空は
やけに透き通っていたりしたんだ
いつもは尖ってた父の言葉が
今日は暖かく感じました
優しさも笑顔も夢の語り方も
知らなくて全部 君を真似たよ
≪なんでもないや(movie ver.) 歌詞より抜粋≫
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「二人の間」には、埋められない物理的な距離感が感じられます。
このAメロで一貫して伝わってくるのは、主人公の精神的な成長です。
客観的に見ると、いつの間にか物事の捉え方が多様化していることが分かります。
泣いた後に見上げた空がより透き通って美しく感じられるのは、自身の精神的な爽快感と目に映る風景を重ねているから。
いつもならどこかイラッとしてしまう父の言葉を今日は温かいと感じたのは、自身が少し大人になったことで父親が本当に自分の為を思って話していることに気づけたからではないでしょうか。
思春期ならではの敏感さや、日々変化する感覚の変遷を繊細に捉えています。
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もう少しだけでいい あと少しだけでいい
もう少しだけくっついていようよ
≪なんでもないや(movie ver.) 歌詞より抜粋≫
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movie edit.バージョンでは、何度も繰り返されるこの部分。
新海監督もこの歌詞にはとても思い入れがあったようです。
というのも、あまりに厳しい現実に対して、映画の中だけでも何か大きな奇跡を起こしたいと願っていたのだとか。
野田洋次郎が書いたこの二行の詩を受け取ったことで、新海監督は「奇跡を起こして、本当に終わりにしていいんだ」という確信を持てたと話しています。
この部分では冒頭と反して、2人の精神的な距離の近さがダイレクトに伝わってきます。
感情が理性を超越する瞬間
----------------この部分の例え方からは、まるで小学生視点のような純粋さが感じられます。
君のいない 世界にも 何かの意味はきっとあって
でも君のいない 世界など 夏休みのない 八月のよう
君のいない 世界など 笑うことない サンタのよう
君のいない 世界など
≪なんでもないや(movie ver.) 歌詞より抜粋≫
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”確かに存在するのに無意味に思える”という主人公の感覚が非常に分かりやすいですよね。
主人公は「君がいない世界」にも何とかして意味を見出そうとしているのですが、考えれば考えるほど虚しくなってしまいます。
君がいなくてても世界は回るのかもしれないけれど、主人公にとっては全く魅力のない世界になってしまうのです。
----------------映画「君の名は。」を見ていくと、次第に主人公の2人が時を超えて入れ替わっていることが分かってきます。
僕らタイムフライヤー 時を駆け上がるクライマー
時のかくれんぼ はぐれっこ はもういいよ
君は派手なクライヤー その涙 止めてみたいな
だけど 君は拒んだ 零れるままの涙を見てわかった
嬉しくて泣くのは 悲しくて 笑うのは
僕の心が 僕を追い越したんだよ
≪なんでもないや(movie ver.) 歌詞より抜粋≫
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このサビに凝縮されているのは、時空を駆ける疾走感と浮遊感。
「派手なクライヤー」からは、君が大泣きしている様子が浮かび上がります。
主人公は最初、君が悲しさから泣いているのかと思うのですが、零れ続ける涙を見て君の複雑な感情を感じ取ったのでしょう。
「嬉しくて泣くのは 悲しくて笑うのは」という1フレーズから、理性ではどうすることも出来ない感情の爆発が鮮明に描かれています。
「かくれんぼ はぐれっこはもういやなんだ」という歌詞を見るに、君と僕はこれまでずっとすれ違って会えていなかったのかもしれません。
ラストでは、2人がやっと出会えた瞬間の昂ぶりを、感情表現のみで描き出しています。
”簡潔な言葉選び”から派生する魅力
『なんでもないや』では、野田洋次郎の歌詞の秀逸さが際立っています。
言語化しづらい感情の起伏を簡潔にまとめたことで、聴き手が言葉に思いを馳せる余地を残しているのでしょう。
つまり、この楽曲に触れた人がそれぞれの想像力によって、楽曲の世界観をさらに広げられるのです。
『なんでもないや』は全体を通して聞いてみると、映画のシーンと重なり合う歌詞がたくさんあるので、ぜひ映画『君の名は。』とあわせて楽しんでみてください。