朝ドラ主題歌となった曲
NHKの連続テレビ小説「マッサン」主題歌である中島みゆきの『麦の唄』。
「マッサン」は言わずと知れた朝ドラ。夫婦でウイスキーを作る話です。スコットランドでエリーと会った政春は、エリーと結婚。エリーが政春を「マッサン」と呼んだことからタイトルがついています。
本場スコットランドで学んだ技術を活かして日本でウイスキー作りを始めまるマッサン。遠い異国から日本に来たエリーのことを歌ってる曲です。
ウイスキーは麦から作ることから、タイトルに「麦」を入れています。スコットランドのバグパイプの音を効果的に使っているこの曲。スコットランドから日本にやってきたエリーの視点で歌詞が進みます。
麦の唄
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なつかしい人々 なつかしい風景
その総てと離れても あなたと歩きたい
≪麦の唄 歌詞より抜粋≫
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冒頭の歌詞から、エリーが懐かしい故郷を離れて日本にやってきたことを歌っていることが分かります。そして、故郷の総ての思い出を離れてもあなた=マッサンと共に歩きたい。
「すべて」を「完全」な「全て」の字を使わず、あえて「糸で束ねる」意味の「総て」を使っています。麦を「束ねる」こととかけているんですね。
糸で束ねたような総ての人々や風景から離れて、新たな地で生きる決意。
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麦に翼はなくても 歌に翼があるのなら
伝えておくれ故郷へ ここで生きてゆくと
≪麦の唄 歌詞より抜粋≫
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ここでの「麦」は自分を指しています。自分に翼はなくても、歌は風にのせて自分の意思を故郷へ伝えていく。「歌」を故郷へのメッセージの意味で使っています。
ひたむきに頑張る人への応援歌
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私たちは出会い 私たちは惑い
いつか信じる日を経て 1本の麦になる
≪麦の唄 歌詞より抜粋≫
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ここでの「麦」は私たちのこと。「1本の麦になる」とは、私たちが「束ねられ」1つの家族となることを表現しています。
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麦は泣き 麦は咲き 明日(あした)へ育ってゆく
≪麦の唄 歌詞より抜粋≫
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麦とはウイスキーの材料であるだけでなく、私のことであり、私たちのこと。そして、麦は踏まれてもなお立ち上がる「総ての人」のことでもあります。
この曲は、泣くことがあっても、咲いて、育っていくすべての人への応援歌なんですね。
「明日」に「あした」とふりがながついてるのはなぜでしょう。これは自分で声に出してみると分かりますが、「あす」と発音するよりも「あした」と発音するほうがよりクリアに音が聞こえるからです。間延びせず、メッセージが伝わりやすいんですね。
また、「あすの世界」などと使われる近未来としての「あす」ではなく、「夕べ」の反対の意味で本来「朝」の意味で使われていた「あした」。より身近で日常的な意味を込めて「あした」を選んでいます。
歌い継がれていくように
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泥に伏せるときにも 歌は聞こえ続ける
「そこを超えておいで」 「くじけないでおいで」
どんなときも届いて来る 未来の故郷から
≪麦の唄 歌詞より抜粋≫
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「未来の故郷」とは、将来の自分や子孫、これから出会う人や風景を指します。泥に伏せるような困難があっても未来からの歌=メッセージは必ず心に聞こえてくるはずだ、と自らに言い聞かせている歌詞。
歌詞上では「歌」の字を使っているのに、この曲のタイトルがなぜ『麦の唄』で「唄」を使っているのでしょうか。
「唄」は民謡や俗謡を指します。口頭で唄い継がれていく民謡のように、麦を、人を育てていく。過去や未来のメッセージ総て束ねた麦への思いをタイトルで表現しているんですね。
中島みゆきが紅白歌合戦で歌い多くの人の心をとらえた今作。歌詞自体に壮大なスケールがあるんですね。
TEXT 改訂木魚(じゃぶけん東京本部)