『何食べ』×スピッツが届ける極上の幸せ
スピッツのニューシングル『大好物』が、劇場版『きのう何食べた?』の主題歌に起用されました。
『きのう何食べた?』(よしながふみ作)は、弁護士の筧史朗(シロさん)」と美容師の矢吹賢二(ケンジ)の同棲生活を中心に描かれる物語。
同性カップル故の難しさにも触れつつ、美味しい食卓をメインにした心温まるストーリーです。
2019年にテレビ東京系でドラマ化された際には、筧史朗を西島秀俊が、矢吹賢二を内野聖陽が演じて話題になりました。
原作のイメージに忠実なキャスティング。
実生活にも使えるレシピ情報などもあり、高い人気を集めたドラマですから、映画への期待値も高いことでしょう。
劇場版は11月3日に公開され、予告映像もYouTubeにてアップロードされています。
そんな作品の主題歌となったスピッツの『大好物』も、2021年11月3日リリース。
草野マサムネの歌声も然ることながら、優しく温かな作品の空気感を再現したかのようなメロディに心がほぐれます。
作詞作曲を手がけた草野マサムネによる同楽曲は、一度聴いたら耳から離れない心地よさが印象的。
作中にも料理のシーンが多いので『大好物』という曲名もしっくりきます。
これからの季節にぴったりな、心の底から温まる幸せソング。
その秘密を徹底考察していきましょう。
頑なな心を開いた先に生まれた世界
----------------
つまようじでつつくだけで 壊れちゃいそうな部屋から
連れ出してくれたのは 冬の終わり
ワケもなく頑固すぎた ダルマにくすぐり入れて
笑顔の甘い味を はじめて知った
≪大好物 歌詞より抜粋≫
----------------
「つまようじでつつくだけで 壊れちゃいそうな部屋」
冒頭から、草野マサムネワールド全開の歌詞です。
自分の殻に閉じこもったひとりよがりの世界が、実はいつでも出て行くことのできる場所だったと知ったのでしょう。
大切な誰かが、引きこもっていた自分を連れ出してくれた。その時の優しい気持ちや、新しい世界を前にした心のときめきを見事に表現しています。
人は、長年生きていると知らず知らずの内に頑固になってしまうもの。
頑なだった心を「ダルマ」と表現しているところにもセンスが光っています。
初めて笑顔になれた日、誰かを笑顔にできた日に、心がほっこりと温かくなる感覚。
それは甘くて魅惑的なものなのでしょう。
----------------
吸って吐いてやっとみえるでしょ 生からこんがりとグラデーション
日によって違う味にも 未来があった
≪大好物 歌詞より抜粋≫
----------------
誰かと過ごす日々は、モノクロではなくカラフルで、単色ではなくグラデーションになっていて。
きっとその日、その瞬間ごとに見える景色も表情も違うのでしょう。
「日によって違う味」は決して不安定でネガティブなものではなく、ころころと変わることで心弾ませてくれる楽しいもの。
「未来があった」その未来はきっと、史朗と賢二の2人がいるのです。
他人と暮らしていれば、ましてや恋人と暮らしているのなら、良い日も悪い日も、小さな衝突や大きな壁にぶつかる日だってあるでしょう。
幸せな日もそうでない日もすべてひっくるめて「グラデーション」であり、2人の未来がある空間なのです。
----------------
君がくれた言葉は 今じゃ魔法の力を持ち
低く飛ぶ心を 軽くする
うつろなようでほらまだ 幸せのタネは芽ばえてる
もうしばらく 手を離さないで
≪大好物 歌詞より抜粋≫
----------------
頑固なダルマを笑わせたように、「君がくれた言葉」は特別な作用を持っている。
スピッツには『魔法のコトバ』という楽曲もありますが、同じ様に、大切な人がかけてくれた言葉には力が宿ります。
低く沈んでしまいそうな心を軽くしてくれるような、小さな不安もかき消してくれるような力。
2人の何気ない日常に幸福感が漂っているように、目には見えなくても「幸せのタネ」はちゃんとあるのです。
互いを思いやり、寄り添って生きていく中で、そのタネは育っていくのでしょう。
凍えた心を溶かす温かさ
----------------
時で凍えた鬼の耳も 温かくなり
呪いの歌は小鳥達に彩られてく やわらかく
≪大好物 歌詞より抜粋≫
----------------
同性愛者である史朗と賢二は、他人の目を気にしなくてはならない時もあるでしょう。
特に、オープンにしている賢二と異なり、史朗は同性愛者であることを仕事仲間たちにカミングアウトしていません。
2人の関係にささやかな幸せを感じていても、オープンにすることには抵抗のある彼にとって、これまでの恋愛は平坦ではなかっただろうと想像できます。
それでも、賢二との出会いで心が安らいだり、日々の生活に彩りが生まれたりしたのでしょう。
心通わせる人が隣にいて、一つ屋根の下で生活できること。
常に愛しい人の存在を感じられること。
史朗は料理担当なので、愛しい人のために料理することも含めて、小さな幸せです。
些細で小さな幸せの積み重ねが、凝り固まった心を癒やし、開放してくれたのでしょう。
好きな人に染まっていく幸せを詰め込んだサビの歌詞
----------------
君の大好きな物なら 僕も多分明日には好き
≪大好物 歌詞より抜粋≫
----------------
『大好物』というタイトルが意味するところが、このフレーズにすべて詰まっています。
好きな人が好きなものは、自然と愛おしくなるもの。
食べられなかったものも、あっさり克服できてしまうかもしれません。
単純なようでいて、とても自然で大切な気持ちです。
人が人を好きになることを端的に言い表している『大好物』というタイトルに、作詞家としてのセンスとすごみを感じます。
----------------
君の大好きな物なら 僕も多分明日には好き
そんなこと言う自分に 笑えてくる
取り戻したリズムで 新しいキャラたちと踊ろう
続いてく 色を変えながら
≪大好物 歌詞より抜粋≫
----------------
全体的に可愛らしく幸福感漂うテンポで流れていく『大好物』。
そんな幸福感が最高潮に達するのが、サビのメロディです。
「君の大好きな物なら」このフレーズが耳に心地よく、心も頬も緩んでしまいそうです。
好きな人の大好物を好きになること。
それこそがシンプルな愛の形であり、『きのう何食べた』の世界を包み込む温かさなのです。
「新しいキャラ」は新しい自分。「続いていく色」は、流れ続ける2人の日常。
知らなかった感覚を知り、新しい表情を見つける度に、色を塗り重ねていく2人の世界は、誰が何と言おうと幸せな空間なのでしょう。
思わず覗き見したくなるような幸福のお裾分け。それを歌にしたのが『大好物』なのです。
映画館では作品の世界観に浸ることのできるフォトスポットもあり、スクリーンの外でも作品を楽しめる工夫がされているのだとか。
まさに『何食べ』の世界とリンクするような『大好物』。
人恋しい季節、耳から幸せを感じてみてはいかがでしょうか。
MVも公開されているので、ファンタジックでメルヘンな世界観を、ぜひお楽しみ下さい。