「プロジェクトセカイカラフルステージfeat.初音ミク」ぬゆり書き下ろし楽曲
ぬゆり制作でリリースされた『ロウワー』は、スマホゲーム「プロジェクトセカイカラフルステージfeat.初音ミク」のユニット「25時、ナイトコードで。」 のための書き下ろし楽曲です。
2021年10月31日より、MEIKOと「25時、ナイトコードで。」のメンバーの宵崎奏・朝比奈まふゆ・東雲絵名・暁山瑞希が歌うセカイVer.と、flowerが歌うバーチャルシンガーVer.がゲーム内で配信開始。
すでに大人気曲となっていて、歌詞の世界観を表現したMVにも注目が集まっています。
この曲は、新約聖書に描かれているイエスキリストに対するユダの裏切りか、それをモチーフにした太宰治の短編小説『駈込み訴え』をベースにしているのではないかと考察されています。
タイトルの「ロウワー」は英語のlowerのことで、「低くする・落とす」といった意味を持つ言葉です。
このタイトルの意味もふまえながら、歌詞を考察していきます。
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そう簡単な祈りだった 端から
段々と消える感嘆
今から緞帳が上がるから
静かな会場を後にさよなら
≪ロウワー 歌詞より抜粋≫
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主人公は「簡単な祈り」を捧げていたと歌っています。
モチーフと「25時、ナイトコードで。」のユニットストーリーを重ねてみると、その祈りは『自分自身を認めてほしい』という願いかもしれません。
「緞帳が上がる」ということは、客席から舞台を隠すためにある幕が開け、これから舞台が始まることを意味します。
それなのに「静かな会場を後にさよなら」とあるので、この先のストーリーに自分は必要ないと考えていると解釈できそうです。
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言いかけていた事が一つ消えてまた増えて
背中に後ろめたさが残る
従いたい心根を吐き出さぬように込めて
胸の中が澱のように濁る
受け止めたいことが自分さえ抱えられず
持て余したそれを守っている
霞んだ声はからからに喉を焼いて埋め尽くす
何を言うべきか分からなくて
≪ロウワー 歌詞より抜粋≫
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この部分の歌詞を見ると、誰かに何かを言いかけては言えなくて、また言いたい言葉が出かけるのを繰り返しているのがわかります。
うまく言葉にできないのは「後ろめたさ」を抱えているから。
本当は相手を誰よりも尊敬していて、どこまでも「従いたい」と思っていますが、その気持ちは必死に押し留めているようです。
矛盾した思いに「胸の中が澱のように濁る」のを感じ「何を言うべきか」迷っています。
自身ですら持て余す…そんな思いを守っているのは、相手を大切に思う気持ちが根本にはあるからなのかもしれませんね。
僕だけを愛して
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感じてたものが遠く放たれていた
同じ様で違うなんだか違う
何時まで行こうか 何処まで行けるのか
定かじゃないなら何を想うの
≪ロウワー 歌詞より抜粋≫
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「感じてたものが遠く放たれていた」というフレーズは、最初に相手に感じた純粋な気持ちが遠のき、変化したことを言い表しているように思えます。
その愛情は初めと同じようで「なんだか違う」のです。
「何時まで」「何処まで」と、今の複雑な気持ちのままついて行くことに悩んでいる様子も見えてきます。
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僕らが離れるなら 僕らが迷うなら
その度に何回も繋がれる様に
ここに居てくれるなら 離さずいられたら
まだ誰も知らない感覚で救われていく
≪ロウワー 歌詞より抜粋≫
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サビからは、自分から離れるとしても「その度に何回も繋がれる様に」君にはここに居てほしい…と願っている様子が伝わってきます。
「まだ誰も知らない感覚で救われていく」というフレーズは、その人の存在のおかげで人知れず心の中で救われていることを表していると解釈できそうです。
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平穏とは消耗を以て代わりに成す
実際はどうも変わりはなく
享楽とは嘘で成る
「綻ぶ前にここを出ていこうか」と
都合の良い願いを同じ様に同じ様に呟く
何処から聞こうか 何を見失うか
定かじゃないから此処を動けない
≪ロウワー 歌詞より抜粋≫
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ここでは、「平穏」は心を「消耗」した先にあるもの…と歌っているようです。
すでに心がすり減っているのであれば、平穏が訪れても心の状態は大して変わりないでしょう。
思いのまま快楽にふけることを意味する「享楽」。
「享楽」が「嘘で成る」という表現も、結局、心も現実も裏腹なものであることを意味していると考えられます。
関係が「綻ぶ前にここを出ていこうか」と思いながらも、相手の思いを「何処から聞こうか」離れれば「何を見失うか」かと考えて、動くことができないでいるようです。
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僕らが疲れるなら これ以上無いなら
その度に何回も逃げ出せる様に
心が守れる様に 奪われない様に
互いに託して 身体を預けてよ
≪ロウワー 歌詞より抜粋≫
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この部分は、自分を頼ってほしいという切なる想いを描いているよう。
主人公が複雑な気持ちでいるのは、敬愛する人が自分以外の人にも同じように愛を与えることに嫉妬心を抱いているからでしょう。
他の誰でもなく、自分だけを愛し全てを預けてほしいという熱い想いが垣間見えます。
タイトル「ロウワー」の解釈とは
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君と泣く 君と笑う 君と怒る
君と歌う 君と踊る 君と話す
何時まで続くだろうと同じ様に同じ様に呟く
いま忘れないよう刻まれた空気を
これから何度思い出すのだろう
僕らだけが
≪ロウワー 歌詞より抜粋≫
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この歌詞から、感情が動くのも何をする時も「君」と一緒だったことが分かります。
それは、主人公にとってかけがえのない時間だったのでしょう。
しかし、相手にとっては何気ない出来事のひとつで、それが特別でないと気づいたときの主人公の絶望は計り知れません。
flowerが歌うボカロ版のMVでは、傷つけられた労働者階級にいる主人公が裏切りを決意し、動き出すシーンが描かれています。
「いま忘れないよう刻まれた空気」のフレーズは、自分を傷つけたことさえきっと忘れてしまう「君」を自分から裏切ることで、決して忘れられない記憶を作りだそうとしている様子を表しているのではないでしょうか。
想いを返してもらえないなら、いっそ壊してしまいたい。
そうやって、どんな形であれ深く刻まれるような記憶を作り、二人の関係を永遠にしたい…という歪んだ愛が感じ取れます。
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僕らが離れるなら 僕らが迷うなら
その度に何回も繋がれる様に
ここに居てくれるなら 離さずいられたら
まだ誰も知らない感覚で僕の生きているすべてを確かめて
正しくして
≪ロウワー 歌詞より抜粋≫
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改めてサビの歌詞を振り返れば、自分から離れようとする相手に対する主人公の諦めの悪さを表しているとも解釈できるでしょう。
他の誰からも見えることはない心の中で、たった1人で、裏切った自分のことを考えてほしい…
存在を刻みつけたい…という願いが、最後の言葉に表されているように感じます。
これらの歌詞の意味を考えると、タイトルの「ロウワー」は、主人公が敬愛していた人を元の地位から引きずり下ろしたことを表しているのではないでしょうか。
もしくは、低い地位にいる自分と同じところまで引き寄せたとも言えるでしょう。
主人公の異常なまでの愛が伝わる、少しダークな歌詞に引き込まれます。
「ロウワー」の世界を感じて
ぬゆりの『ロウワー』は、人間関係のすれ違いや人の満たされない気持ちを見事に表現した楽曲です。歌詞を「25時、ナイトコードで。」のユニットストーリーと合わせて考えると、さらに違った印象を受けることになるでしょう。
ぜひ、バーチャルシンガーVer.とセカイVer.の両方から、歌詞の意味を考えてみてくださいね。