アーティスト・菅田将暉が生み出す等身大の歌詞が話題
菅田将暉の『ギターウサギ』は、2021年11月24日にリリースされた『ラストシーン』に収録されている楽曲です。
表題曲の『ラストシーン』は作詞作曲ともに石崎ひゅーいが担当し、ドラマ『日本沈没』の主題歌にもなりました。
『ギターウサギ』は作詞作曲を菅田自身が担当しており、俳優として第一線で活躍し続ける菅田将暉の感性がそのまま表現された歌詞には注目です。
MVには同じ事務所の後輩である近藤華が出演。
被写体としてだけではなく、MV中に登場するアニメーション制作も担当しているので、こちらも注目ポイントです。
そしてこのMVが、3月9日に発売されたアルバム『COLLAGE』初回生産限定盤Blu-rayディスクに収録。
音楽アーティストとしての菅田将暉から発せられる言葉や音。
そこから生まれる音楽に込められた思いと、事務所の先輩後輩コンピにも目を向けながら堪能したい一曲です。
ではさっそく、『ギターウサギ』の意味を考察していきましょう。
ウサギみたいに瞳は赤い
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揺れるピアス 邪魔な前髪
ふりきって なりふり構わず
凹んでいく指先
あぁ ピアノは習ってたのになぁ
白黒つかない濁った音色
≪ギターウサギ 歌詞より抜粋≫
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せっかくの休日、ひとりで爪弾くピアノの音は、軽快とはいかないようです。
長い前髪も、ピアスの揺れも気にせず、思い切って叩いた鍵盤から出たのは、美しくも不快でもない、中途半端な音色だったよう。
上手く弾けないのは、技が足りないのか、心の問題なのでしょうか。
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誰にも見せない 俯いた時間
ウサギみたいに瞳は赤い
誰とも会わない そう決めた日曜日
ウサギみたいに瞳は赤い
≪ギターウサギ 歌詞より抜粋≫
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「ウサギみたいに瞳は赤い」というのが意味深なこちらのフレーズ。
泣き腫らしているということは、何か辛いことがあったのでしょう。
休日に家から出ないと決めたのは、誰にも会えない事情があるのだと想像を膨らませると、少し胸の痛い歌詞です。
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されるがままに 拾いうつろう
すり減ってゆく 錆がまわる
あぁ かくれんぼはもう飽きたよ
はやく見つけてよ なんて言えないよ
≪ギターウサギ 歌詞より抜粋≫
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家の中に閉じこもっていると、庭先にウサギが現れます。
まるでかくれんぼをするように、鬼から逃げるように物陰へと消えていくウサギは、誰かに自分の気持ちを分かって欲しいと願う本心の表れなのかもしれません。
強がって、傷を隠して過ごす日々に嫌気が差して、「誰か分かってよ…」とぼやきたくなる、そんな日曜日の一幕ではないでしょうか。
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名前も知らない 四つのコード
爪弾いては 眠れない
うまくノラない 僕の体温
ウサギみたいに腰はふれない
≪ギターウサギ 歌詞より抜粋≫
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身軽に地面を駆けていくウサギのようになれない「僕」は、ピアノの音色だけでなく体温までもいまいち不調です。
「ウサギみたいに腰はふれない」という歌詞からは、ウサギのように身軽になりたいという切実な思いが伝わってくるようです。
理想と現実の狭間で揺れ動く思春期らしい葛藤
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何かとうるさい ふたつの恋愛
誰にも言えないけれど どうかするかい
≪ギターウサギ 歌詞より抜粋≫
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ここで初めて、どうやら「僕」が抱えている問題に恋愛が絡んでいることが分かります。
しかし、気軽に相談できる相手のない、誰にも言えない恋愛のようです。
冒頭から漂っている気怠く重い空気は、胸に秘めた葛藤からきていたのかもしれません。
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笑っちゃって歌えないよ ポップソングを
走り出したら止まれないような ゲームソングも
ガラにもなく飛び跳ねてしまう ヒップホップを
味わい尽くして酔いが回る ラバーズロックも
なんでもいいから
せめて一曲を 隅っこに
≪ギターウサギ 歌詞より抜粋≫
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誰もが心躍らせるポップソングにノることができず、笑ってしまうような性格の「僕」。
それでも、何か一つ、心の隅に音楽があれば、苦しい胸の痛みも癒えるかもしれません。
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誰にも見せない いつかこのギターの隣で
歌ったり 叫んだり ふたり その肌ざわりが
あぁ 眠らなきゃな
ウサギみたいに瞳は赤い
≪ギターウサギ 歌詞より抜粋≫
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ピアノの音色も、ギターの音色も、自分だけの秘密です。
しかしいつか大切な人と、一緒に歌ったり踊ったりできたら、こんなに幸せなことはないでしょう。
ふたりではしゃぐ様子を妄想して、ふと我に返ると、そこには静けさが漂っています。
「眠らなきゃな」という歌詞には、妄想から覚めた虚しさを感じさせますね。
空想に浸っている時間は楽しく、解き放たれたような気持ちになります。
しかしどれだけ空想にふけっても、現実にはなりません。
「僕」は現実世界で、ピアノの音色を、ギターを、隣で聞いてくれる人に出会えるのでしょうか。
「ギターウサギ」の意味をMVと共に考察
『ギターウサギ』は、MVに登場する空想上のウサギです。
近藤華演じる少女は、留守番をしながらひとりで退屈な時間を過ごすうち、赤いリボンをしたウサギを見つけます。
『不思議の国のアリス』が白ウサギを追いかけるように、彼女もウサギの行方が気になって仕方ない様子。
姿が見えたと思ったらすぐに消えてしまったり、そうかと思えばクローゼットの中から現れたり。
ギターは、MV中では本物のギターではなく、レコードに飾り付けをして作り上げたものです。
もちろん音はなりませんが、楽しそうにギターを奏でる近藤華の姿を見ていると、本当に音色が聞こえてきそうな不思議な空間。
自分だけのギターで、自分にしか聞こえない音を奏でているのだとしたら、密やかで贅沢な楽しみではないでしょうか。
ウサギは赤いリボンを彼女に手渡して去りますが、目覚めると、手の中には赤いリボンが。
夢と現実がつながる、不思議な演出です。
ギターをしょったウサギは、彼女にしか見えない、秘密の友達なのかもしれません。
恋に、人間関係に、将来への不安に。
何かと不安定になりがちな思春期のきらめきと、揺らぎを切り取ったような歌詞が秀逸です。
魂をぶつけるような力強い歌声が印象的な菅田将暉の、囁くような柔らかい歌声も必聴。
YouTubeでMVが公開されているので、ぜひ映像作品としての『ギターウサギ』も堪能してみてはいかがでしょうか。