心地よいテンポ感で、男女の揺れ続ける関係を歌う『ゆらりふたり』について、足立佳奈は「同世代のラブソング」と言った。自身の恋愛観に通ずる部分もあるという本作について、足立佳奈に語ってもらった。
Tani Yuukiとの出逢い
──アーティスト、Tani Yuukiさんにどんな印象を持っていました?足立佳奈:知り合う前から、もちろん楽曲は聴かせていただいていました。TikTokでもヒットしていましたし。「#アトリエプロジェクト」を通じて、知り合いになってからは、プライベートでもLINEで曲についてやりとりしたりしていましたね。そんな中、Tani Yuukiくんのライブを観に行かせてもらって、抜群の歌唱力に心を奪われてしまったんです(笑)。
それでTani Yuukiくんと一緒に曲を作ることが出来たらいいなと思ったんですね。これが去年の12月くらい。そこから、一緒に仕事がしたいって想いが強くなっていったんです。その気持ちをスタッフとも共有しつつ、自分の中で温めていって、今回、Tani YuukiくんにLINEしたら「是非是非、僕も一緒にやりたいよ」って言ってくれて実現しました。
──Tani Yuukiさんの魅力って?
足立佳奈:まず、中毒性のあるキャッチ―な曲作りがすごいなって。Aメロから聴く人みんなを虜にしちゃうところ。ライブを観て、あんなにもハイトーンで説得力ある声出せるんだとか、逆に男性独特のズドンと響くような音域も聴いていて心地よいし。ライヴのパフォーマンスも、めちゃくちゃカッコ良くて。なんかこう……観ていて前のめりになるような、引き付けられるパワーがある。すごく尊敬しますね。
──コラボレーションの決め手になったのはライブ?
足立佳奈:そうですね。あとは人柄です。Tani Yuukiくんがプライベートで見せる優しさだったり、言葉の選び方だったり。そういう部分に触れれば触れるほど「この人の引き出しはどれくらいあるんだろう?」って思って。「私が絶対にないものをたくさん持っているな」って思ったんです。韻の踏み方とか、自分ではやりたくてもなかなか出来ないことをやってる。しかも観ている側からしたら、サラッと出来ちゃうところがカッコいいなと思って。そういうプライベートな部分も全部ひっくるめて、一緒に曲を作りたいって思ったんです。
ワクワクしかなかった
──一緒に曲作りをするにあたり最初に考えたことは?足立佳奈:どういうテーマで作るか、でしたね。Tani Yuukiくんと話す前に、私自身がテーマをちゃんと持とう、と。いろいろ考えていく中で、Tani Yuukiくんもラブソングが上手なので、お互いがお互いを想うラブソングを作りたいなと思って。しかも背伸びするわけでもなく、昔に戻るわけでもなく、等身大の今の自分たちがラブソングを作るってなったら、どういう曲をかくかってところにフォーカスして、テーマを絞っていったんです。
そこから、自分の友達とかの話を思い出したりして。最近よく聞くのは、仕事が面白くなってきて仕事に没頭すればするほど、キャパが少なくなって、プライベートがどんどん削られているって話で。だったら、いろんな困難がある中でも恋愛して、2人でこれからも頑張っていこうねって曲が出来たら……同世代の方にも、ラブソングだけど、応援ソングとしても届くんじゃないかなと。
──今、友人の例を出してくれたんですけど、例えば、足立さんの世代は、仕事も恋愛も両方欲しいって思うのが当たり前だったりします? それともその中に別れるって選択肢はあるのかな。恋愛って、自分にとってどういうもの?
足立佳奈:好きな人がいること、付き合っている人がいることが結局、心の支えになっていると思うんです。いくら仕事が忙しくても、自分が安定してその仕事に向き合うことができるのは、恋人の存在があるからだと思うので。そういう話をきいて、別れる選択よりも、これからどういう風に寄り添っていこうかという形の方がいいのかなと思って、そこをテーマにしたんです。
──楽曲作りは具体的にはどのように進んだんですか?
足立佳奈:私とTani Yuukiくんが、それぞれ歌詞とメロディーを作る部分を設けたんです。まず初めに大枠として、Aメロとサビは全部私が考えさせてもらって、Bメロだけ穴あきにしておいて、Tani Yuukiくんに渡したんです。穴あきのところはTani Yuukiくんが思うようにかいてくださいって、お願いしました。
──トラックは全編通してあったんでしょうか?
足立佳奈:はい、トラックはありました。Carlos K.さんと一緒に曲を作っていく中で、トラックは出来上がっていましたね。Bメロとそこの歌詞が抜けている状態でTani Yuukiくんに投げたんですね。私、以前、Rude-αさんとも一緒に曲を作ったんですけど、その時と同じやり方ですね。
個人的には、このやり方がすごくワクワクして楽しいんですよ。どう返って来るか、想像がつかないところにワクワクする。この方法だと、不安に思う人もいるかもしれないけど、私にはその要素は一切なくて。それは、自分がこの人と作りたいと思ったから、信頼もあるし、尊敬の念もあるからだと思う。
──そうですよね。ある意味、部分的とはいえ丸投げですから(笑)。
足立佳奈:はははは(笑)。そうですね(笑)。
──それは、リスペクトがないと出来ないですよね。
足立佳奈:本当にその通りで。尊敬しているから、ワクワクする……というか、もうワクワクしかないというか(笑)。
Tani Yuukiからのアンサー
──楽曲をTani Yuukiさんに渡した後、本人からはどんなリアクションがありましたか?足立佳奈:まずLINEで「この女の子ってさぁ……」ってTani Yuukiくんが思う女の子の話をしてくれて。「佳奈ちゃんはどういう気持ちで、歌詞かいたの」とか質問も来て。そこからいろいろやりとりして説明して、「わかった」って。そしたら「わかった」って来てから、1日も経たずに歌詞が上がって来たんです。この歌詞が出て来たときに、Tani Yuukiくんの優しさが歌詞にすごく現れているなって思いましたね。
──Tani Yuukiさんが書いた<そうじゃなくてどうしたらいい?>って、すごいワンフレーズですよね。相手に対する優しさと真剣さが、このワンフレーズに凝縮されている。
足立佳奈:そうなんです。人って、なにかにいっぱいいっぱいになったりすると、シャットダウンしちゃうことの方が多いと思うんです。それは恋愛でもそうだと思うんですけど、Tani Yuukiくんは、じゃあどうしたらいい?って聞いてくれるっていう。
それから<「仕事と私、どっちが大事?」>って聞かれた時に<選べない自分が嫌い>って、そこを歌詞に出来る優しさがすごいなと思って。「そこで自分を責めるんだ」って驚いたんですよね。相手に当たるわけでなく、自分を責めるっていう。このフレーズには、女性目線からの悔しさも感じながら、アーティストTani Yuukiくんってやっぱり、素晴らしいなと思いました。
足立佳奈の恋愛観
──足立さんの中では、女性の立場からの我儘を書いてみたいって思いはあった? 足立さんのパートだけ拾ってみると、正直……なんだか面倒くさい女性だなって感じも否めないんですよね。足立佳奈:うん、面倒くさい(笑)……そうだと思います。女性の我儘はテーマにありましたね。これは、私のイメージなんですけど、女性が我儘を言って、男性が結構我慢しているカップルって、結構いるんじゃないかと思っているんです。ここからは私の恋愛観も入っているんですけど、そういう彼女の我儘も乗り越えて、男性が優しく包んでくれるから、結局2人は一緒にいるっていう。まさに私が描きたかった世界をTani Yuukiくんが歌詞でアンサーしてくれたことによって、描けたと思います。
──今おっしゃった、女性が我儘を言って、男性が結構我慢してるカップルって、足立さんにとっては、恋愛をする上での理想の関係?
足立佳奈:理想って言い切ることは出来ないけど……男性の立場からしたらすごくしんどいと思うんですけど、女性の立場だったらすごく安心出来ると思う。
──そこを考えると、付き合うのは年上じゃないと無理じゃないのと思うんですけど、でもこの曲の中の男性は同年代ですよね。だから一緒に考えようって言葉が出てくる。
足立佳奈:そうなんですよ! だからTani Yuukiくんの歌詞は本当にすごいなと思うんです。
──一緒に考えて答えが出るかもわかんないし、答えがでるまでどれくらい時間かかるかもわからない。でも、一緒にっていうのが…。
足立佳奈:すごいですよね(笑)。
──うん、すごいと思います。『ゆらりふたり』は、2人で歌い紡ぎ、サビで一緒に歌う部分もある。歌うにあたり、キーの調整はありました?
足立佳奈:ありましたね。キーは、私がちょっと苦戦しました。私が先にレコーディングして、その後にTani Yuukiくんがレコーディングしてくるって形だったので、Tani Yuukiくんだったら低すぎるかなと思って、男性スタッフさんに、「このキーで歌えますか」って聞いたんです。そしたら、「俺はこの低い音出ないわ」って言われて。逆に私がキーを上げれば上げるほど、Tani Yuukiくんもどんどん高くなっちゃうので。お互いの心地いいところを見つけながら、自分のレコーディングをして。このキーだったらTani Yuukiくんも大丈夫だなと思って決めていきましたね。
私が着いたら終わってた(笑)
──Tani Yuukiくんのレコーディングの様子を教えていただけますか?足立佳奈:じつは、私が着いたらTani Yuukiくんのレコーディングがもう終わってたんです(一同笑)。着いたら「あと、ハモとるだけだから、ハモあったら言って」って感じで。「ハモはこことここで」って言ったら、「わかったよー」って、ハモもサクッと終わって。あれ、私、着いてから30分も経ってないなって。もう、本当にスーパー早かった(笑)。私は結構レコーディングに時間がかかる方なので驚きましたね。
でもこの時、Tani Yuukiくんとも話したんですけど、Tani Yuukiくんの中にはちゃんとイメージがあって。歌詞は詰まっているんだけど、ちょっと余裕がある男性にしようと思っていつもより力抜いて歌ってるんだよね、とかって話をしてくれたんですよ。そんなところまで細かく考えてくれてるんだ、なのにそんなに歌入れ早いってどういうこと?(笑)って思っていましたね。
──Tani Yuukiさんは、表現としてアウトプットするとき、ぼんやりしたイメージのまま挑まない。自分の声の響きも想像出来ているんでしょうね。
足立佳奈:そうだと思います。頭の中でしっかり考えられてる。Tani Yuukiくんは、オクターブ下で歌っているんですね。だからサビとか、私とTani Yuukiくんの声の間に、ちょっと溝があったりしたんですけど、その溝をなるべくなくすように、近づけるような感じを想像しながら、マスタリングしたんです。だからサビの部分とか、私の声を少し落としているんです。
──そこまでこだわったんですね。2人の声が違和感なく溶け合ってる印象を受けるのは、そのこだわりがあったからだと今思いました。
足立佳奈:そう思っていただけるなら嬉しいです。どちらかが強すぎたり、弱すぎたりするのは違うと思ったんですね。2人で歩み寄っていこうねっていうのを、このままゆらりふたりつないでいこうよっていうのが1番大切にしたいところだった。支え合っている感じを出したかった。AメロとBメロで凸凹感がうまく出ていると思うので、サビは寄り添いたいと。
「ゆらりふたり」で描く距離感
――歌詞の中で1番、グッとくるフレーズは?足立佳奈:タイトルとサビに出てくる『ゆらりふたり』っていう言葉。このワードを思い付いた時に、なんか…ケンカしているわけじゃないんだけど、ほどよく距離感を保ちながらも過ごしていける2人なんだろうなっていうのが想像出来る。この2人にとって絶妙な距離感が現れていると思うんです。
──では<ゆらり>って言葉はどんなイメージですか?
足立佳奈:すごい柔らかいイメージもあるんですけど、その奥に潜んでいる……なんか卑怯さを感じたりもしますね。
──卑怯さ? それは新しい解釈ですね、詳しくお願いします。
足立佳奈:なんか…定まってない感じ……ちょっと宙ぶらりんな、お互いに責任がない感じ。芯がなくふらふらしている、その感じが、ちょっと卑怯だなと思うんですけど。そこも含めて好きな言葉ですね。
──<ゆらり>って、例えば<ゆらゆら>とはまた違うニュアンスがある言葉ですよね。
足立佳奈:そうですね、ゆらりは心のぶれを感じるかな。でもこの2人はお互い思いあっているから、その相手を思う気持ちは変わらないんだけど、終わりがよぎってしまうような……ちょっとときどきブレがあるんです。しかもそれを誰かのせいにしたくなるような危うさ。だからゆらゆらじゃなくて、ゆらり、なんですよね。1回、カタッってゆれる、みたいな。
──あぁ、わかってきました。そのカタッが2人同時にきたら、終わりが来るかもしれない危うさ。
足立佳奈:そうです、そんな感じです。
──でも歌詞の中に<まだ終わらないでいようよ>ってあるでしょう。どうなるの、このカップルって思う。でも幸せなんだよね。
足立佳奈:うん、今は、そうですね。
──その矛盾にリアリティーがありますよね。
足立佳奈:ありがとうございます。そう聴いてもらえるとすごく嬉しいです。
TEXT 伊藤亜希