映画「夜明け告げるルーのうた」主題歌
日本が誇るミュージシャン・斉藤和義の15thシングル『歌うたいのバラッド』。1997年にリリースされた、今なお愛され続けている斉藤和義の代表曲です。
『歌うたいのバラッド』は、これまで数多くのアーティストにカバーされてきました。
音楽プロデューサー・小林武史とMr.Childrenの桜井和寿が主導するバンド・Bank Bandのカバーアルバム『沿志奏逢(そうしそうあい)2』にも名を連ねています。
リスナーのみならず、アーティストからも愛されている名曲です。
また2017年には、『犬王』で話題の湯浅政明が監督したアニメーション作品『夜明け告げるルーのうた』の主題歌にも起用されました。
ちなみに曲名にある「バラッド」は、バラードと同様、素朴な言葉で歌った物語詩、ゆったりしたテンポの感傷的な曲といった意味です。
今回は、そんな素朴でエモーショナルなラブソング『歌うたいのバラッド』の歌詞の意味を考察していきます。
飾らない気持ちを「あなた」へ
まずは1番の歌詞から見ていきましょう。
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嗚呼 唄うことは難しいことじゃない
ただ 声に身をまかせ 頭の中をからっぽにするだけ
嗚呼 目を閉じれば 胸の中に映る
懐かしい思い出や あなたとの毎日
≪歌うたいのバラッド 歌詞より抜粋≫
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冒頭は「嗚呼 唄うことは難しいことじゃない」。
『歌うたいのバラッド』では、一貫して「うたう」という行為が「唄う」と書かれます。
「唄」は「子守唄」や「手毬唄(てまりうた)」など、「歌」よりも素朴なイメージを喚起する漢字です。
もちろん主人公は「歌うたい」なので、洗練された感情表現もお手の物なのでしょう。
しかし、目を閉じると心の中に映し出されるほど大切な「あなた」については、しゃれた言い回しに頭を使わず、ただ声に身を任せて「唄う」ようです。
思い出いっぱいの「あなた」のことを唄うのは、主人公にとって自然体で心地の良いことなのかもしれませんね。
次の歌詞に入りましょう。
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本当のことは歌の中にある
いつもなら照れくさくて言えないことも
≪歌うたいのバラッド 歌詞より抜粋≫
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飾らない気持ちというものは、ストレートであるがゆえに「照れくさくて言えない」ことが多いです。
主人公は、そんな小っ恥ずかしい素直な気持ちをメロディやアレンジを駆使して「唄」から「歌」へと昇華しているのかもしれません。
「歌の中にある」本当の気持ち。
サビでは、それが語られているようです。
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今日だってあなたを思いながら 歌うたいは唄うよ
ずっと言えなかった言葉がある 短いから 聞いておくれ
「愛してる」
≪歌うたいのバラッド 歌詞より抜粋≫
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「今日だって」という表現からは「この間も、昨日も、今日だって」というように「いつでも」のニュアンスが読み取れます。
いつだって「あなた」を思って素直な気持ちを唄っている主人公。
完成された歌の中で、ずっと照れくさくて言えなかった「愛してる」を伝えることができたようですね。
苦境でも愛を唄う「歌うたい」
ここからは2番以降の歌詞に入ります。
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嗚呼 唄うことは難しいことじゃない
その 胸の目隠しを そっと外せばいい
空に浮かんでる言葉をつかんで
メロディを乗せた雲で旅に出かける
≪歌うたいのバラッド 歌詞より抜粋≫
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このパートでは、主人公の作曲のプロセスが語られているようです。
「その胸の目隠しを そっと外せばいい」というのは、物事を色眼鏡で見ず、ありのままを直視するといった意味合いではないでしょうか。
「空に浮かんでる言葉」は、宙に浮いたようなぼんやりした言葉や、曲としてはまだ成立していない荒削りな歌詞のことだと推測できます。
続く「メロディを乗せた雲で旅に出かける」は、荒削りな歌詞にメロディを加えて新しい何かを見つけ出そうとする「冒険的な創作の過程」を表していそうです。
続いて、サビの歌詞に入ります。
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情熱の彼方に何がある? 気になるから行こうよ
窓の外には北風が
腕組みする ビルの影に吹くけれど
≪歌うたいのバラッド 歌詞より抜粋≫
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高まる気持ちの向こう側へ「気になるから行こうよ」と誘う主人公。
ここでの「情熱」は、「あなた」への愛情か創作への熱情か、あるいはその両方だと考えられます。
ただ、そんな情熱を冷まそうとするかのように「窓の外には北風」が吹いているようです。
これは、二人だけの世界から一歩外へ出たときの、「歌うたい」に対する社会からの冷遇を表しているのではないでしょうか。
「腕組みする ビルの影」は、大きく威張って見える「普通の働き方」と比べた「歌うたいの日の当たらなさ(報われなさ)」を表現しているのかもしれません。
しかし、そのような苦境の中でも主人公は前向きです。
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ぼくらを乗せて メロディは続く…
今日だってあなたを思いながら 歌うたいは唄うよ
どうやってあなたに伝えよう 雨の夜も 冬の朝も そばにいて
ハッピーエンドの 映画を今 イメージして唄うよ
こんなに素敵な言葉がある 短いけど 聞いておくれよ
「愛してる」
≪歌うたいのバラッド 歌詞より抜粋≫
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「ぼくら」二人の思い出や気持ちを乗せて「メロディは続く」。
主人公は「歌うたい」をやめず、今日も「あなた」を思って唄います。
嬉しいときや楽しいときだけでなく、冷たく寂しい「雨の夜」や「冬の朝」も共有したい。
そんな愛しさや恋しさのようなものを「どうやって伝えよう」と考える主人公。
どうやら「ハッピーエンドの映画」をイメージしながら唄うことにしたようです。
1番では「短い“から” 聞いておくれよ」と、「簡単に済むから聞いてほしい」という雰囲気でした。
しかし今回は「短い“けど” 聞いておくれよ」。
「この気持ちを届けるには十分ではないかもしれないけど聞いてほしい」というように解釈できますね。
1本の映画に比べると、1つの楽曲の長さはとても短いものです。
主人公が伝えたいのは、そんな1曲の中でも「愛してる」の一言。
そのたった一言に映画1本分の彩りを与える「歌うたい」自身もまた、十分に素敵なアーティストですね。
素直な気持ちを届ける尊さ
今回は、斉藤和義『歌うたいのバラッド』の歌詞の意味を考察しました。たった4文字の言葉にたくさんの思いが詰まった、非常にエモーショナルなラブソングでしたね。
普段は照れくさくて言いづらい、愛する気持ちや感謝の気持ち。
そんな素敵なこそばゆい心情をストレートに届ける尊さが伝わってきたのではないでしょうか。
この機会に、大切な人に素直な気持ちを届けてみるのもいいかもしれませんね。