映画「アキラとあきら」主題歌を解釈
『水平線』や『高嶺の花子さん』など、ラブソングを中心に多くの名曲を世に送り出している back number。映画「8年越しの花嫁」の主題歌『瞬き』や JR SKISKI CMソング『ヒロイン』など、さまざまな映像作品のテーマソングを担ってきた、大人気バンドです。
そんな back number が、2022年8月26日に新曲『ベルベットの詩』を配信リリース。
この楽曲は、池井戸潤原作、竹内涼真と横浜流星がW主演を務める映画『アキラとあきら』の主題歌として書き下ろされたものです。
作詞を手がけたボーカル・清水依与吏(しみずいより)は、楽曲制作にあたって「言葉」に特に苦戦したとコメントしています。
傷も癒えないまま歩き続けてむき出しになった「中身」のような自分を、本能のままに叫ぶのではなく、美しいものだと願って歌う。
そんな楽曲に仕上がったとのこと。
今回は、そんなありのままの自分を肯定する『ベルベットの詩』の歌詞の意味を考察します。
青くさく、自分らしく
まずは1番の歌詞から考察していきましょう。
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心が擦り切れて
ギシギシと軋む音が
聞こえないように
大きな声で歌おう
理不尽が多すぎて
いつの間にかそれに慣れて
僕は自由だと
もう忘れてしまいそう
ああ うるさく つたなく
産声のように遠く響け
≪ベルベットの詩 歌詞より抜粋≫
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『ベルベットの詩』の主人公は、心がギシギシと軋(きし)むほど精神的に疲れているようです。
会社や学校といった社会の中にいると、誰でも何かしらの理不尽に遭遇することでしょう。
たとえそれに慣れたとしても、心は少しずつ擦り減ってしまうものなのかもしれません。
そんな状況で限界を感じていながら、主人公は「僕は自由だ」と自分に言い聞かせているようです。
弱って疲弊しつつも、そんな自由の叫びが「うるさく つたなく 産声のように遠く響け」と願う主人公。
かつての情熱や初心を強く意識することで、心の疲れに対処しようとしているかのようですね。
そんな主人公の願いの核心が、おそらく次のサビで表現されているのでしょう。
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あるがままの姿で
自分のままで生きさせて
決して楽ではないが
きっと人生は素晴らしい
青くさい
なんて青くさい
綺麗事だって言われても
いいんだ 夢見る空は
いつだって青一色でいい
≪ベルベットの詩 歌詞より抜粋≫
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「あるがままの姿で 自分のままで生きさせて」。
自分らしく生きることは簡単ではありません。
「青くさい」と馬鹿にされることもあるでしょう。
それでも「きっと人生は素晴らしい」。
どんなに現実に影が差そうと、理想は澄み渡った「青一色」で構わない。
「一点の曇りもない、まっすぐな自分のままでいこう!」という決意が感じられます。
「下らない」と言われても、まっすぐに
続いて、2番の歌詞を考察していきます。
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恐れない 人はいない
追いかけて来る震えを
振り解くように
誰もが走っている
人がさ 繊細で
でもとても残酷だって事
僕もそうだと
実はもう知っている
ああ 嫌だ 悲しいね
痛みを抱き締めて進め
≪ベルベットの詩 歌詞より抜粋≫
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1番と比較すると、やや客観的な視点が綴られているようです。
苦悩や恐怖を感じるのは自分だけではなく「震えを 振り解(ほど)くように 誰もが走っている」とあります。
また、主人公は「人は繊細で残酷である」と心得ているようですね。
小さなことで傷ついたり、保身のために裏切ったり、人の繊細さや残酷さが垣間見える場面は数多くあることでしょう。
そして主人公は「僕もそうだ」と自覚しています。
自身の弱さや浅ましさからは、誰でも目を背けたいもの。
しかし、主人公は「痛みを抱き締めて進め」と鼓舞します。
人としての弱さを自覚する苦しみさえ受け入れて、前を向こうとしているようです。
美しい部分ばかりに目を向けず、弱さや醜さに向き合うことも、1つの自由の在り方なのかもしれませんね。
サビの歌詞に入ります。
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あるがままの姿で
自分のままで生きさせて
正直者は馬鹿をみるが
きっと人生は素晴らしい
下らない
なんて下らない
無駄な事だって言われても
いいんだ 下を見ないで
ひたすら登って行けたらいい
≪ベルベットの詩 歌詞より抜粋≫
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「正直者は馬鹿をみる」という言葉は、よく耳にすることがあると思います。
「正直は良いこと」というのは、幼い頃から教わることです。
ただ、社会と関わっていけばいくほど正直でいることが馬鹿らしく感じられ、葛藤することも増えていきます。
主人公は知ったふうな人々に「正直なんて下らない、意味がない」と言われたのかもしれませんね。
しかし、そんな吐き捨てられた「下らない」には見向きもせず「ひたすら登って行けたらいい」と、自分を励ます主人公。
青一色の夢見る空へと、ひた向きに歩みを進める気のようです。
「ベルベット」は生き様の象徴?
いよいよ終盤の歌詞に入っていきます。
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心が擦り切れて
ギシギシと軋む音が
聞こえないように
大きな声で歌おう
あるがままの姿で
自分のままで生きさせて
努力は実りづらいが
きっと人生は素晴らしい
泥くさい
なんて泥くさい
だからこそ綺麗な綺麗な虹を
見つける権利がある
≪ベルベットの詩 歌詞より抜粋≫
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たくさんの理不尽に心が傷つきながらも「大きな声で歌おう」と、主人公は前向きです。
最後のサビには「努力は実りづらいが きっと人生は素晴らしい」とあります。
泥くさい努力というものは、誰にでもできることではありません。
そしてそれが必ずしも実るとは限らないのも、どうしようもない現実です。
しかし「だからこそ綺麗な綺麗な虹を 見つける権利がある」。
ひた向きで泥くさい努力家には、簡単に誰かを馬鹿にしたり否定したりする人には見えない美しい景色が待っているのかもしれません。
続いて最後の歌詞を見てみましょう。
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音がさ 外れても
たとえ口塞がれても
僕は僕だと
自分の声で歌おう
代わりはいないと
自分の声で歌おう
≪ベルベットの詩 歌詞より抜粋≫
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やり方が不器用でも、人に邪魔をされても「僕は僕だと 自分の声で歌おう」。
良いところも悪いところもある「ありのままの自分」を肯定しようと、気持ちを固めているようです。
どれだけ疲れて、弱っていても、「代わりのない自分を認め続けて理想の生き方を追求しよう」という意志が伝わってきます。
ちなみに曲名にある「ベルベット」は滑らかで光沢のある美しい織物ですが、水に弱かったりアイロンがけに注意が必要だったり、とても繊細な代物です。
主人公が目指している青一色の天空は、ベルベットのような弱さと美しさを兼ね備えた人間の生き様のことなのかもしれません。
弱くも美しい人生の賛歌
今回はback number『ベルベットの詩』の歌詞の意味を考察しました。疲れた心にすとんと落ちるような、ストレートで優しいフレーズに満ち満ちた歌詞でしたね。
何かと縛られていると感じやすい昨今、自分を見失いがちな人も多いかもしれません。
青くさくても、下らなくても、泥くさくても、本来的な確かな自分を肯定して自分のペースで生きていけたら素晴らしいですね。
『ベルベットの詩』は、そんな弱くも美しい人生の賛歌だといえるのではないでしょうか。
Vocal & Guitar : 清水依与吏(シミズイヨリ) Bass : 小島和也(コジマカズヤ) Drums : 栗原寿(クリハラヒサシ) 2004年、群馬にて清水依与吏を中心に結成。 幾度かのメンバーチェンジを経て、2007年現在のメンバーとなる。 デビュー直前にiTunesが選ぶ2011年最もブレイクが期待でき···