『3636』のMVではClassic 6と初タッグ
『3636』は、シンガーソングライター・あいみょんが、4枚目のアルバムとしてリリースした『瞳へ落ちるよレコード』に収録されている楽曲です。
ドラマ『コントが始まる』の主題歌にもなった『愛を知るまでは』を含め、主題歌に起用された楽曲など13曲を収録したこのアルバム。
あいみょんの表現する世界を堪能できる1枚になっています。
アルバムリリースは8月17日でしたが、『3636』は、アルバム発売に先駆けて、7月29日に先行配信されました。
MVも作成され、監督を務めたClassic 6とは初タッグ。
アルバム曲で在りながら存在感のある楽曲に仕上がっています。
タイトルが印象的な『3636』に込められた意味を、さっそく考察していきましょう。
同棲の先にある現実
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嫌になったの?
私と過ごす日々を
飽きてしまったの?
なんのアレンジも効いてない日々に
つまんなくて 嫌になったのかな
今日の帰りは何時?
≪3636 歌詞より抜粋≫
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付き合いたての初々しさもトキメキも消え失せ、よどんだ空気。
『3636』に流れているのは、そんな諦めの感情です。
この曲の主人公である「私」は、どうやら同棲していた彼と上手くいっていない様子。
好きな人と朝起きて夜眠るまで一緒にいられる幸せは、とっくに薄れてしまったのでしょう。
同棲すると、相手の嫌な部分も見えてくるといいます。
ありのままの姿をさらけ出せる新鮮さはやがて、退屈な日々へと変わってしまったのかもしれません。
帰りの時間すら分からない、すれ違い続ける2人の冷めた関係が目に浮かびます。
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嫌になったの?
私の無駄な早起きとか寝癖
うざったくなったの?
なんのアレンジもしてない髪も
ダマになってて 嫌になったのかな
女の子は大変だ
≪3636 歌詞より抜粋≫
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「早起き」という歌詞に、同棲生活の生々しさを感じます。
早起きと寝癖。
アレンジできない髪。
『3636』で描かれるのは、同棲を始めたばかりのキラキラした風景ではなく、色褪せた日常の風景です。
もしかしたら、同棲したての頃は気合いを入れて、かわいくあろうとしたのかもしれません。
しかし時が経つにつれて、だんだん素の姿が出てくるもの。
早起きはできても、髪型にはこだわれない彼女。
生活リズムや価値観のズレは、積み重なると大きな亀裂を生むことになります。
生活感の漂う歌詞だからこそ、少しずつ心が離れていく恋人との距離感が一層切ないですね。
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宅配ボックスの5番のとこ
いつもの暗証番号で
閉じ込めてる 2人の思い出
≪3636 歌詞より抜粋≫
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思い出を閉じ込める場所に宅配ボックスを選んでいるところにセンスを感じます。
『3636』は、あいみょん本人が開かなくなった宅配ボックスから妄想したもの。
宅配ボックスの中身は、あまり関係ないのかもしれません。
昨日まで開いていたものが開かなくなる。
そこに深い意味はなくても、大切な荷物がなくても、拒絶されたような気がして悲しくなるのが人情というものです。
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宅配ボックスが開かないのです
私が固く閉ざした
その扉 簡単には開かないのです
≪3636 歌詞より抜粋≫
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「私」が思い出を閉じ込めた宅配ボックスの扉は、「私」自身の意思で固く閉ざされました。
大切な思い出が逃げていかないように。
たとえ過去の時間であっても、確かに流れていた幸せな時間を閉じ込めておきたい。
そんな心の声が聞こえてきそうです。
宅配ボックスに閉じ込めた思い出への執着
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苦手だったの?
私の作る朝ごはんの味も
飽きてしまったの?
なんのアレンジも効いてないからさ
≪3636 歌詞より抜粋≫
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アレンジができないのはヘアスタイルだけではありません。
料理は作れても、アレンジ料理は作れない。
毎日一緒にいるのに、刺激が薄れていくばかりの日々に、彼の心は離れていったのでしょうか。
相手が何を想って去って行ったのか、「私」には知るよしもありません。
置いて行かれた側は、ただ自分を責め、悪いところを挙げていくしかないのです。
まるで懺悔のような歌詞が心に刺さります。
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胃が苦しくて 嫌になったのかな
今日はカレーライスだよ
≪3636 歌詞より抜粋≫
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「今日はカレーライスだよ」という歌詞には、「だから帰って来て欲しい」という切実な願いが込められているようです。
精一杯のアレンジで、カレーライス。
どうあがいても届かないものを、どうにか呼び戻そうとする姿が健気でもあり、痛々しくもあります。
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宅配ボックスの2番のとこ
いつもより小さいその部屋に
閉じ込めてる あなたの面影
宅配ボックスが開かないのです
あなたが固く閉ざした
その心 簡単には開かないのです
≪3636 歌詞より抜粋≫
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「私」の日常から姿を消した「あなた」は、宅配ボックスの中で生きています。
けれど心は閉ざされ、開けることはできません。
2人の間にできた深い溝は、簡単には越えることができないのでしょう。
幸せな思い出を閉じ込めた宅配ボックスも、心を閉じ込めた宅配ボックスも、「私」と「あなた」、それぞれが固く閉ざし、誰にも開けることができません。
思い出にしがみつく「私」にはもう、「あなた」の心を開くことはできないのかもしれません。
『3636』が意味するもの
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毎日の楽しさに 自惚れすぎたね
幸せの海で 浮かれすぎたよ
≪3636 歌詞より抜粋≫
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幸せの味付けを調べてみたんだけど
それぞれの "さじ" 加減らしいからさ
≪3636 歌詞より抜粋≫
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幸せは、その中にどっぷりと浸っている時には気づかないものです。
「自惚れ」という自虐的な言葉で、過去の自分を笑っているのでしょう。
あまりにも楽しくて、浮かれて、幸せが零れ落ちていくことに気づかなかった愚かさ。
いくら悔やんでも、時間も、大切な人も戻ってきません。
幸せの定義は人それぞれ違うから、レシピ通りに作れば誰でも幸せになれるということもないのです。
自分なりに努力したけれど、幸せを取りこぼしてしまった「私」。
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いつの間にやら2人の合言葉も
合鍵も相槌もなくなったね
静かになってしまったこの部屋は
2人の恋を詰めていた箱になったね
≪3636 歌詞より抜粋≫
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2人の部屋には当初、2人だけにしか分からない、合い言葉のようなものがあったのかもしれません。
言葉にしなくても通じ合える心や、暖かい空気。
それらはいつしか冷ややかな空気へと変わり、交わす言葉も減り、2人の距離は修復不可能なほどに離れてしまったのでしょう。
2人の愛が溢れていた部屋はいつしか、「2人の恋を詰めていた箱」になり、その箱もまた、宅配ボックスのように固く閉ざされたのです。
宅配ボックスを閉ざしているのは暗証番号ではなく、「私」の心。
まるで心に鍵がかかったように別々の宅配ボックスに閉じこもる「私」と「あなた」。
2番と5番の間には、到底埋めることのできない心の隙間が空いてしまったようです。
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宅配ボックスの5番のとこ
いつもの暗証番号で
閉じ込めてる 2人の思い出
宅配ボックスが開かないのです
私が固く閉ざした
その扉 簡単には開かないのです
≪3636 歌詞より抜粋≫
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同棲とは、2人の心が通い合っていてこそ成り立つもの。
部屋からただの箱になりさがった場所ではもう、愛情のかけらを拾い集め、きれいな思い出のまま閉じ込めるしかありません。
だからこそ「私」は宅配ボックスをしっかりと閉め、簡単には開かないように封印したのではないでしょうか。
「あなた」の心を閉じ込めた2番と、2人の思い出を詰め込んだ5番。
それぞれの隣にある3番や6番には、一体何が詰まっているのでしょうか。
宅配ボックスから広がる物語に、続きはあるのでしょうか。
MVでは電車のボックス席や宅配ボックスに囲まれた空間で歌うあいみょんの姿も登場。
懐かしさ漂う映像や、どこか不安げなあいみょんの表情が、曲の切なさを一層引き立てます。
タイトルにもなっている『3636』は、2番や5番に閉じこもった2人には、他の可能性があったことを暗示しているのかもしれません。
閉じこもらなければ、2番や5番の隣を開ければ、明るい未来があるかもしれない。
開かなくなった宅配ボックスに留まり続ける「私」にとって、新たな希望が見つかることを願いたくなる曲です。