「プロセカ」Vivid BAD SQUAD コラボ曲!
『反重力の街』などのライトな曲から『狂う獣』などのダークな曲まで、幅広い曲調のボカロ曲を手がけているMisumi。鋭いサウンドと親しみやすいメロディーラインでリスナーを魅了する大人気ボカロPです。
今回考察する『オルターエゴ』は、誰もが知るボーカロイド・初音ミクをフィーチャリングした1曲。
「プロセカ」の愛称で知られるスマートフォンリズムゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」に追加されたことでも話題になりました。
さらに2022年12月23日には、プロセカに登場するストリートユニット・Vivid BAD SQUAD(小豆沢こはね、白石杏、東雲彰人、青柳冬弥)と初音ミクがコラボした full ver. MVも解禁され、その人気が再燃しています。
「オルターエゴ(alter ego)」とは、別人格や分身を意味する言葉です。
原曲もプロセカver.も、一貫して闇深い雰囲気が漂う『オルターエゴ』。
難しそうなテーマを掲げたその歌詞には、果たしてどのような意味が込められているのでしょうか。
自我を脅かす孤独な夜明け
まずは1番の歌詞を考察していきます。
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現在時刻午前4時
有象無象にもう飽き飽きだよ
存在 形なんて もはやミュータントさ
白に黒に馴染めず 曖の昧な色して
息を吸って 息を吐いて
死んでるようなものだな
実際音頼りにぎりぎり生きていた
≪オルターエゴ 歌詞より抜粋≫
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時刻は「午前4時」。
序盤からダークでネガティブな雰囲気が漂っていますね。
「有象無象にもう飽き飽き」からは、雑多な人や物に対する嫌悪感が伝わってきます。
そして続く歌詞は「存在 形なんて もはやミュータントさ」。
「ミュータント」とは、突然変異した個体や細胞のことです。
『オルターエゴ』の主人公は、自分自身の存在を一般法則から外れた「ミュータント」に重ねているのかもしれません。
また「白に黒に馴染めず 曖(あい)の昧(まい)な色して」からは、日中も夜間も活動的になれない落伍者の様相がうかがえます。
ちなみに「曖」という漢字には「日がかげって暗い」という意味があり、「昧」には「夜明け」という意味があるそうです。
一般的な生活サイクルに溶け込めない主人公は、午前4時、夜明けの薄暗がりのなかで「音頼りにぎりぎり」生きているのでしょうか。
「音頼り」については後述しますが、いずれにせよ自分を「死んでるようなもの」と考えているらしい主人公には、どこか人生を諦めているような印象を受けますね。
次の歌詞を見てみましょう。
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もうどうなっていいんだって
恐れなんかは全くないって
沈む夕日が最後は地平に
堕ちてゆくことだけ知ってる
≪オルターエゴ 歌詞より抜粋≫
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「もうどうなっていい」や「恐れなんかは全くない」からは、より一層、自暴自棄な雰囲気が感じ取れます。
「沈む夕日が最後は地平に 堕ちてゆく」というのは、「今この瞬間にたった1つしかない代物でさえ、いずれは存在しなくなってしまう」という諦観のようです。
続いて、サビの歌詞に入ります。
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それでもいい お前だけは灰になって消えてくれ
静かに狂ったその姿に呑み込まれてしまう前に
零でも果てでもない 無数の目 頭の中
ぐだぐだうだうだああうるせえな
≪オルターエゴ 歌詞より抜粋≫
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「それでもいい」とは、存在が消えてしまっても構わないという意味でしょうか。
ここでの「お前」は、ひとまず主人公の「オルターエゴ(別人格)」だと仮定してみます。
「静かに狂った」という表現は、「孤独のなかでじわじわ廃人になっていった」というような解釈ができそうです。
そんな「お前」に対して「灰になって消えてくれ」と突き放す主人公。
「お前」に人格を乗っ取られ、自我を失うことを恐れているのかもしれません。
そして、そんな主人公の頭の中には「零でも果てでもない 無数の目」があるとのこと。
消えることなく増減を繰り返す、不完全な別人格のようなイメージでしょうか。
そんな得体の知れない「無数の目」は、主人公にとっては非常にわずらわしい存在のようです。
「ぐだぐだうだうだ」は死への衝動?
ここからは2番の歌詞に入ります。
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人間なんて辞めちまえ
アダムとイヴが犯した罪の実
善も悪も同じ つくりものなんだよ
後ろの正面で誰か教えてくれたんだ
何者にもなりたかった 何者にもなれないから
≪オルターエゴ 歌詞より抜粋≫
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「アダムとイブが犯した罪の実 善も悪も同じ つくりもの」という部分は、「倫理やルールなどは他人が勝手に作り上げた虚像に過ぎない」といった解釈が可能です。
そしてそのような視点を与えてくれたのは「後ろの正面」にいる「誰か」。
この「誰か」は、1番で「不完全な別人格」と考察した「頭の中の無数の目」と同類のものかもしれません。
ちなみにMVのイラストでは、座っている男性の背後の壁に、目や口、ドクロなどの絵が掛かっているように見えます。
男性がメインの人格だと考えると、その「背後に見える不気味な存在」が主人公にあれこれ語りかけているとも考えられそうです。
そんな「誰か」が、なりたい者にことごとくなれなかった主人公に「人間なんて辞めちまえ」とそそのかしている様子。
もしかしたら、この「誰か」の正体は、主人公の頭の中にある「死への衝動」なのかもしれません。
次の歌詞に入ります。
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本当はもう気づいている
許される日がこないことなんて
咲いた花弁が最期は地上に
堕ち塵になって風に舞ってく
≪オルターエゴ 歌詞より抜粋≫
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主人公は「許される日がこない」と気づいているとのこと。
善悪が「つくりもの」であると認識してなお、自ら死を選ぶことは許されないと直感しているのでしょうか。
また、続く歌詞では花びらの最期が綴られています。
1番で述べられた「夕日の最後」よりも、やや美しく終わりを表現している印象です。
許されることではないと理解しながら、主人公の意思は「死」へと傾いてしまっているのかもしれません。
続いて、サビの歌詞です。
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それでもいい お前だけは哀に犯され消えてくれ
偽り纏ったその笑顔に呑み込まれてしまう前に
色即是空の世 無数の手 頭の中
ぐだぐだうだうだああうるせえな
≪オルターエゴ 歌詞より抜粋≫
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ここでの「それでもいい」は、儚く散って塵(ちり)になっても構わないという意味に解釈できそうです。
「哀(あい)に犯され消えてくれ」は、別人格「お前」が何者にもなれない悲哀にやられることを主人公が望んでいるように聴こえます。
そうならなければ、1番と同様、主人公は偽りだらけの「お前」に人格を乗っ取られてしまうのかもしれません。
続く歌詞は「色即是空(しきそくぜくう)の世 無数の手 頭の中」。
「色即是空」は形ある物質は全て「空(くう)=実体のないもの」であるという意味の仏教用語です。
この世が色即是空だというのに、主人公は形がないはずの脳内に「無数の手」を感じ取っている様子。
普通から外れた「ミュータント」にとっては、色即是空のことわりさえ通じないのでしょうか。
相変わらず脳内の不完全な別人格からネガティブな影響を受けている様子の主人公。
わずらわしさから、再び言い放ちます。
「ぐだぐだうだうだああうるせえな」
「お前」の正体は少年少女?
ここでは、Cメロの歌詞を考察します。
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孤独抱え期待なんてされなかった少年
裏切られて傷を負った未成熟な少女も
あぁそうか僕のことだったね
君も僕で君も僕
一人には戻れないんだよ
笑ってみせてくれ
≪オルターエゴ 歌詞より抜粋≫
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不意に登場する少年少女。
それぞれ闇を抱えたこの2人は、主人公の別人格だと解釈できるでしょう。
また「孤独な少年」は、1番の「沈む夕日」や「静かに狂った」という表現と親和性が高いといえます。
太陽は1つだけで、静けさは孤独につきものだといえるからです。
一方「裏切られて傷を負った少女」は、2番の「咲いた花弁」や「偽り纏(まと)ったその笑顔」に通ずるものがあります。
花は女性的なイメージが強く、人間不信は本心を秘めさせると考えられるためです。
ちなみに「咲」と「笑」にはともに「わらう」という意味があり、これらは同じルーツを持つ漢字になります。
以上を踏まえると、1番の「お前」は「少年」の人格、2番の「お前」は「少女」の人格を表していたのかもしれません。
そんな彼らを統合できず、「一人」に戻れない「僕」。
この「僕」は主人公のメインの人格だと推察できます。
廃人のような「少年」と自分を偽る「少女」に、せめて本心から笑ってみせてほしいと望んでいるようですね。
フィナーレ!「きみがすきなうた ながれはじけた」の解釈
それでは最後のサビに入っていきましょう。
ここでは、前半の「お前」を「少年」の人格、後半の「お前」を「少女」の人格と仮定して考察したいと思います。
まずは前半のサビです。
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それでもいい お前だけは青さに溺れて消えてくれ
悲しみに満ちたその瞳に呑み込まれてしまう前に
零で割れ世界を 嗄れた唄口ずさんで
フィナーレの音が鳴り響いてる
≪オルターエゴ 歌詞より抜粋≫
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「笑ってみせて」に対して「少年」が無反応だったのか、再び「消えてくれ」と吐き捨てている主人公。
「青さに溺れて」の「青さ」は、日中の空の青か夜間の群青か、はたまた恐れを知らない青臭さのことか。
普通への適応ができないまま「消えてくれ」と望まれる「少年」の目は、どうやら悲しみに満ちているようです。
続く歌詞は「零で割れ世界を」。
「世界を3で割る=3つの人格に平等に世界を体験させること」だとすれば、「世界を零で割る」は「どの人格も存続させないこと」すなわち「メインの人格もろとも死ぬこと(=自殺)」と捉えることが可能です。
また、曲を聴いてみると、この前半パートの終末部分では、銃の撃鉄を起こす「カチャッ」という音と発砲する「バン!」という音が組み込まれています。
なので「嗄(しゃが)れた唄」は発砲の準備をする乾いた音、そして「フィナーレの音」は発砲音とその残響であると読むことができそうです。
そう解釈すると、1番の考察で後回しにしていた「“音頼り”にぎりぎり生きていた」とは、自分を劇的にぶっ壊す瞬間を望んでいたというニュアンスだと考えられます。
もしかすると主人公は、頭の中で「僕(メインの人格)」を殺すことによって普通でない人生に決着をつけようとしているのかもしれません。
最後に、後半のサビです。
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最期の日 僕によく似たお前の生きた証を
奪って壊して祈って焼べるよ 今日でもう終わりなんだ
灰に咲け 全てが朽ち果ててしまう前に
笑顔を浮かべてお辞儀をしましょう
きみがすきなうた ながれはじけた
≪オルターエゴ 歌詞より抜粋≫
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「最期の日」や「今日でもう終わり」という歌詞から、頭の中だけでなく現実の主人公も死に近づいていることが読み取れます。
「僕によく似たお前(=少女)」という表現から察するに、「少年」の人格よりも「少女」の人格の方が主人公のアイデンティティーに近かったのかもしれません(MVのイラストを見ると、両者には左利きであるという共通点もあります)。
そんな「お前」の「生きた証」とは、おそらく「偽りの笑顔」のことではないでしょうか。
メインの人格「僕」を殺したことにして「少年」の人格を灰にした主人公は、続いて「少女」の人格を自我に取り込んでしまうつもりなのかもしれません。
「奪って壊して祈って焼(く)べる」という描写には、どこか儀式めいた雰囲気が感じられます。
そして「全てが朽ち果ててしまう前に(=現実の体が息絶える前に)」、灰になった「少年」を尻目に「少女」に「咲け(=笑え)」と伝えている様子の主人公。
「笑顔を浮かべてお辞儀をしましょう」は、主人公が「少女」の「生きた証(=偽りの笑顔)」を我が物にして満足し、うなだれて死んでいくさまを表しているのではないでしょうか。
最後の歌詞の1行は「きみがすきなうた ながれはじけた」。
平仮名表記なのは、死への何らかのアプローチをとった主人公の体が虫の息だからだと考察できます。
Cメロの「君も僕で君も僕」という歌詞を考慮すると、「きみ」はこれまで抱えていた少年少女の人格のことでしょう。
瞳に悲しみをたたえた「少年」、自分を偽って哀(あい)に迫られる「少女」。
両者に共通するのは、残酷なほどに悲哀と相性が良いことだといえます。
となると「きみがすきなうた」は「涙」を表しているのかもしれません。
作り笑いを浮かべてうなだれている主人公が、死に際に流した悲哀の涙。
「ながれはじけた」は、その涙がぽたりぽたりと落ちるさまのことで、主人公が見た最期の情景を表現しているのではないでしょうか。
プロセカver.も聴いてみよう
今回は、Misumi feat. 初音ミク『オルターエゴ』の歌詞の意味を考察しました。別人格という難解なテーマ性もさることながら、語彙力をフル稼働させられるような濃厚な歌詞でしたね。
一貫して「死」の匂いが漂うダークな世界観も、どこか中毒性があって魅力的でした。
楽曲を堪能するにあたっては、初音ミクが歌うオリジナル曲はもちろん、人気声優が歌い手を演じ務めるプロセカver.の方も聴きごたえ抜群です。
この機会に2つのバージョンを聴き込み、そして聴き比べ、自分なりの『オルターエゴ』のイメージを膨らませてみてはいかがでしょうか。