新進気鋭のアイドル「NewJeans」
NewJeansは、2022年8月1日に1stミニアルバム『New Jeans』でデビューした5人組女性アイドル。韓国出身のミンジ、ヘリン、ヘインをはじめ、オーストラリアと韓国のハーフであるダニエル、そしてベトナ厶系オーストラリア人のハニで編成された国際色豊かなグループです。
デビュー前から逸材としてそれぞれ注目を集めており、ミンジとハニはBTSの『Permission to Dance』のMVにも出演しました。
英語力に長けたメンバーも多く、グローバルな活動が期待されています。
2021年に設立されたHIBE LEBELS傘下の新レーベル「ADOR」に所属するNewJeansをプロデュースしているのは、同レーベルのCEOを務めるミン・ヒジン氏です。
かつてSMエンターテインメントに所属していたミン氏は、EXO、Red Velvet、NCT、SHINeeといったアーティスト達のアルバムコンセプトを手がけてきた名プロデューサー。
その経験値は、NewJeansのサプライズに富んだデビュー活動からもうかがえます。
そしれ2022年7月22日、NewJeansとして初のMV『Attention』がサプライズ解禁されました。
K-POPグループがデビューする際には、ティザー映像の公開やメンバー構成の予告が慣例とされてきました。
しかし、彼女達の場合はグループの情報を一切出さず、突如としてMVがYouTubeに公開されたのです。
翌日の7月23日には『Hype Boy』のMVを公開。
2本のOfficial MVに加え、メンバー名をタイトルに掲げたバージョンを公開すると、これらのMVを名刺代わりとしてグループの認知度を一気に高めました。
さらに7月25日には『Hurt』のMV、8月1日には『Cookie』のMVが公開される等、CDデビュー前から精力的にアーティスト活動を展開してきました。
このような画期的な活動を見ても、NewJeansはK-POPの新時代を担うグループといっても過言ではないでしょう。
今回取り上げる最新曲『OMG』にも、NewJeansの型破りなセンスが凝縮されています。
それではさっそく、MVに落とし込まれたメッセージを考察してみましょう。
精神病院を舞台に考える「アイドルの意義」
『OMG』のMVは、終始異様な雰囲気に包まれています。
病棟の一角に集められたNewJeansの5人。
彼女達の様子から感じられる違和感も相まって、さながら精神科病棟を彷彿とさせます。
グループ治療の一環として、彼女達はそれぞれに自身の置かれた状況を語り合っているようです。
ハニが「私はIPhoneでした」と語り始めると、スマホの中のアプリを行き来しながらタスクをこなすハニの様子が映し出されます。
彼女が冒頭で放つ「他人が話す私と本当の私が混乱するようになりました」というセリフには、深く考えさせられるものがあります。
アイドルは才能に溢れた素晴らしい職業である反面、時に他人から自身のイメージを勝手に強要されてしまうこともあるからです。
もしハニが本当に「IPhone」だと仮定すると、そこには使う側と使われる側という明確な支配関係が浮かび上がります。
彼女はMVの中で「あなたが私に望んでいるものは何ですか?」という問いで頭がいっぱいになっていること、そして自分が何者であるかはどうでもよくなっていることを明かしています。
これらは決して非現実な話ではありません。
アイドルを商品として消費する人たちと、消費される側のアイドル。
そんな関係性が引き起こされてしまっているのもまた事実なのです。
アイドルであろうと他人を喜ばすだけのために生きていては、作中で描写されている通り、無意識のうちにアイデンティティを失っていくでしょう。
特にK-POPの世界では、高いパフォーマンス能力が当然のように求められる上、コンセプトの維持や厳しい体型管理も求められます。
その結果、心や体を病んでしまうアイドルも少なくありません。
NewJeansは『OMG』のMVを通して、K-POP業界を取り巻く現実に一石を投じているのではないでしょうか。
想像と現実が入り混じる本作は、実際にMVを見ている視聴者をも混沌とした世界観に引き込んでいきます。
結末に込めたNewJeansの決意
先程ご紹介したように、作中で自身を「IPhone」だと思い込んでいたハニ。
他のメンバーも同じ問題を抱えており、へリンは猫、ダニエルはNewJeans、ヘインは童話の中のお姫様だと思い込んでいるようです。
そして、冒頭で患者の1人としてテーブルを囲んでいたミンジは、後に精神科医として随所に登場します。
へリンが自身を猫だと思い込んでいるのは、デビュー当時から話題となった特徴的な瞳に起因しているのでしょう。
まるで猫のような瞳は、彼女のミステリアスな魅力を引き出しています。
ダニエルは唯一、自分が「NewJeans」であると自覚しており、他のメンバーに「私達、今MVの撮影中でしょ?」と投げかけます。
その場にいるスタッフにも正否を問いますが、返ってくるのは虚ろな瞳だけ。
何が本当で何が嘘なのか、謎はさらに深まっていきます。
ヘインは「マッチ売りの少女」「白雪姫」「シンデレラ」といった童話の主人公に扮して登場。
空想の中だけで生きている事を表すならば、プリンセスとして登場するだけでも良いように感じますが、ここであえて「マッチ売りの少女」の要素を盛り込んだのは何故でしょう。
これはアイドル像の理想と現実のギャップを表現しているのではないでしょうか。
日常の自分とステージに立つ自分。
どちらも同じ人間なのに、別世界の住人のように感じているのかもしれません。
毒リンゴを食べて一度眠りについたヘインですが、目が覚めると目の前には巨大なクマが仁王立ちして雄叫びを上げています。
アイドルとして完璧であろうとすればするほど、気になるのが周りの目ではないでしょうか。
昨今、SNSの普及によってトレンドに上がりやすくなったのと同時に、炎上するのも簡単な時代になりました。
やや大げさかもしれませんが、美しいドレスに身を包んだヘインがクマに怯える描写は、彼女達を取り巻く人々の反応にアイドルとしての生命線を握られているという比喩表現なのかもしれません。
メンバー1人ひとりを見守るように登場する精神科医のミンジ。
それもまた、グループ最年長の彼女に寄せる私達のイメージに過ぎないのかもしれません。
MVの最後には「MVの題材が不快なのって私だけ?顔とダンスを見せるだけでもよかったで...」と否定的な意見を書き込む女性の姿が。
そこへミンジが登場すると彼女に「行こう」とだけ声を掛け、本作は幕を閉じるのでした。
この演出から浮かびあがるのは、何をしたところで万人に受け入れられることは難しいという教訓ではないでしょうか。
ならば好きなことを思い切り表現し、「NewJeans」らしさを自由に確立させていこうという彼女たちの決意が表れているのかもしれません。
奇抜なシナリオと監督の想い
今回は、NewJeans『OMG』のMVの内容を考察しました。本作のシナリオ・監督を務めたのは、前作『Ditto』のMVも手掛けたシン・ウソク監督。
彼は『Ditto』や『OMG』のMV制作を通して、NewJeansの素直さや囚われない感性に魅了されたそうです。
だからこそ、彼女達に対する他者からの評価やイメージによって、彼女たち自身が将来的に表現や考え方に制約を置くことを危惧していたそう。
そんな未来が現実にならないようにというシン監督の願いが、『OMG』のシナリオに深く影響を与えていたのでした。
さらに本作を通して感じられたのは、ファンに対してどこまでも素直でありたいというNewJeansの想いです。
一番近くで応援してくれる存在だからこそ、偽りでなく等身大の自分達を魅せていきたいという気持ちが根底にあるのではないでしょうか。
新曲が発表されるたび、想像を超えたクリエイティブな世界を見せてくれるNewJeans。
これからも彼女たちの活躍から目が離せません。