谷村新司作詞作曲のヒット曲を徹底解釈
CMやドラマ挿入歌、電車の発車メロディとしてなじみ深い昭和の名曲で、山口百恵の代表曲である『いい日旅立ち』。
トランペットの音色が効いたイントロから惹きつけられる雄大な音楽に深みのある歌声が重なり、哀愁と温かみを感じる楽曲ですよね。
谷村新司が作詞作曲を務め、JRの前身である日本国有鉄道(国鉄)の旅行誘致キャンペーンのために書き下ろされたキャンペーンソングで、24枚目のシングルとして1978年11月にリリースされました。
シングル累計売上が100万枚を記録した山口百恵最大のヒット曲で、同年リリースのアルバム『曼珠沙華』にも収録されています。
これまで数々のアーティストがカバーしてきた楽曲ですが、2003年には谷村・山口共に歌声を認められた鬼束ちひろがJR西日本のキャンペーンソングとしてアレンジされた『いい日旅立ち・西へ』をリリースしています。
『いい日旅立ち』というタイトルは楽曲プロデューサーの酒井政利が考案し、スポンサーである日本旅行と日立製作所にちなんでつけられたそう。
この明るいイメージのタイトルと旅立ちというテーマから結婚式や卒業式でも多く用いられてきましたが、実はその歌詞には全く印象の異なるストーリーが描かれています。
本当の意味を知るため、歌詞を徹底考察していきましょう。
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雪解け間近の
北の空に向い
過ぎ去りし日々の夢を
叫ぶ時
帰らぬ人達
熱い胸をよぎる
せめて今日から一人きり
旅に出る
≪いい日旅立ち 歌詞より抜粋≫
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冬の終わり、主人公は北国へ向けて一人旅に出ようとしています。
しかし、これからの旅への期待や楽しみではなく「過ぎ去りし日々の夢」に想いを馳せているようです。
さらに「叫ぶ」という表現から、主人公の苦しい胸の内が垣間見えるでしょう。
続く「帰らぬ人達」の歌詞で、その理由が家族や恋人といった大切な人を失ってしまったことだと解釈できます。
つまりこの旅は、悲しい現実から逃れるためのものなのです。
厳しい冬を越え春を迎えようとしている北国は、もしかしたら主人公にとって大切な人の思い出が詰まった故郷を忘れるための希望の象徴なのかもしれません。
だからこそ「せめて今日から一人きり 旅に出る」と、孤独に打ちひしがれながらも何とか行動を起こそうとしているのでしょう。
日本のどこかに私を待ってる人がいる
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あぁ日本のどこかに
私を待ってる人がいる
いい日 旅立ち
夕焼けをさがしに
母の背中で聞いた
歌を道連れに…
≪いい日旅立ち 歌詞より抜粋≫
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この楽曲で特に印象的な「あゝ日本のどこかに私を待ってる人がいる」という歌詞は、故郷にはもう自分を待つ人はいないけれど日本のどこかにはきっと出会う時を待っている人がいるはずだという気持ちを表現しています。
旅の途中で思い出すのは、母親の背中におぶられて見た夕焼けの光景。
おそらく母親は亡くなっていると考えられます。
「夕焼けをさがしに」とありますが、本当に探しているのは雄大な夕焼けを一緒に見られる大切な人や、好きな人と美しいものを見る時の穏やかな気持ちなのではないでしょうか。
この旅では母親が歌ってくれた歌を「道連れ」にするという表現も特徴的です。
自分と母親を繋ぐ思い出の曲をお伴にして、新たな土地を目指します。
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岬のはずれに
少年は魚釣り
青い芒の小径を帰るのか
私は今から
想い出を創るため
砂に枯木で書くつもり
“さよなら”と
≪いい日旅立ち 歌詞より抜粋≫
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旅立つ前「岬のはずれ」では、少年が魚釣りをする様子が見えます。
「青いすすきの小径を帰る」後ろ姿はどこか寂しさを感じさせるため、主人公はその姿に自分の孤独な身の上を重ねたと考察できそうです。
それから「今から想い出を創るため」に旅に出る決意を新たにしていることが分かります。
そして“さよなら”の言葉を「砂に枯木で書くつもり」という歌詞は、しばらくは故郷に戻るつもりはないことを感じさせるでしょう。
文字を刻み想いの強さを示そうとしながらも、強い風に吹かれれば消えてしまいそうな砂の文字は、主人公の秘めた不安を表しているようにも思えます。
歌と共に幸福を探しに行こう
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あぁ日本のどこかに
私を待ってる人がいる
いい日 旅立ち
羊雲をさがしに
父が教えてくれた
歌を道連れに…
≪いい日旅立ち 歌詞より抜粋≫
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まだ見ぬ出会うべき相手を求める主人公。
次に思い出されるのは、今は亡き父親と見た「羊雲」のようです。
羊雲とは、小さな雲がかたまり状に集まっている姿が羊の群れのように見えることから名づけられた高積雲のことです。
春から秋にかけて見られるため、まだ冬の只中にいる主人公が未来に目を向けていることを示す描写といえるかもしれません。
そして父親との間にもまた、母親と同じように忘れられない大切な歌があります。
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あぁ日本のどこかに
私を待ってる人がいる
いい日 旅立ち
幸福をさがしに
子供の頃に歌った
歌を道連れに…
≪いい日旅立ち 歌詞より抜粋≫
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最後のサビでははっきりと「幸福をさがしに」行くと歌われています。
大切な人たちは自分を置いて旅立ってしまい、それまで感じていた幸福もどこかに消えてしまいました。
だから愛し合えるほかの誰かを見つけ、新しい幸福を手にしたいと願っています。
「子供の頃に歌った歌」と両親が歌ってくれていた歌は、どれも同じ歌なのかもしれません。
そう考えると歌は家族の絆を表していると解釈できます。
主人公は故郷とは決別しますが、両親との思い出を胸に抱き共に旅立ちます。
寂しさや恋しさに襲われる中、心を満たしてくれる人を見つけたいという切実な願いが伝わってきますね。
心に残る昭和の名曲を聴こう!
人気絶頂の最中に歌手を引退した山口百恵ですが、名曲は変わらずずっと人々の心の中に根づいています。『いい日旅立ち』は誰もが必ず経験する大切な人との別れが描かれているため、主人公の切ない感情や愛を求める気持ちに共感できるのではないでしょうか。
時代を経ても色褪せない昭和の名曲の魅力をぜひ味わってください。