大ヒットスマホゲーム「グリムノーツ」テーマソング
2016年にSQUARE ENIX(スクウェア・エニックス)により配信され、全世界1700万ダウンロードを記録した大ヒットゲーム「グリムノーツ」。
「グリムノーツ」は、童話の世界を旅するスマホRPG。
英雄でもプリンセスでもない「役割のない主人公」が、不調をきたした世界を正すべく自身の運命を切り拓いていくというストーリーです。
そんな「グリムノーツ」のテーマソングが、2022年9月17日に再配信された『忘れじの言の葉』。
松岡美弥子と砂守岳央(すなもりたけてる)を中心とする音楽ユニット・未来古代楽団が、沖縄出身のシンガー・安次嶺希和子(あしみねきわこ)をフィーチャリングした1曲です。
静かで壮大な『忘れじの言の葉』は、「グリムノーツ」の世界観ともピッタリ重なります。
果たしてその歌詞には、どのような意味が込められているのでしょうか。
今ここにある物語の尊さ
まずは1番の歌詞から見ていきましょう。
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言の葉を紡いで
微睡んだ泡沫
旅人迷いこむ
御伽の深い霧
差し伸べた掌
そっと触れる予感
受け止めて零れた
光の一滴
≪忘れじの言の葉 feat.安次嶺希和子 歌詞より抜粋≫
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「グリムノーツ」の主人公の1人・エクスは、「運命の書(キャラクターの運命が綴られた書物)」の通りに生きる者とは異なり、役割のない空白の人生(「空白の書」)を享受しています。
「言の葉を紡いで 微睡(まどろ)んだ泡沫(うたかた)」とは、自ら「空白の書」に言葉を書き入れるしかない、ぼんやりとした「定めなき人生」のことだと解釈できそうです。
そしてここでの「旅人」は、そんな定めなき人生を背負って冒険に繰り出す主人公たちのことなのではないでしょうか。
続く歌詞「迷いこむ 御伽(おとぎ)の深い霧」は、ゲームに登場する「沈黙の霧(童話の世界の狭間に広がる霧に満ちたエリア)」を連想させます。
アイデンティティが試される深い霧のなか、互いの存在を確認し合いながら旅路を歩く主人公一行。
「受け止めて零(こぼ)れた 光の一滴(ひとしずく)」とは、彼らがお互いを意識することで見えてくる、希望にも似た「存在意義」を表しているのかもしれません。
次の歌詞です。
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面影虚ろって微笑んだ幻
想いの果てる場所
まだ遥か遠くて
≪忘れじの言の葉 feat.安次嶺希和子 歌詞より抜粋≫
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「面影虚(うつ)ろって微笑んだ幻」とは、ぼんやりと揺らぐ自身の虚像のようなニュアンスでしょうか。
「想いの果てる場所」が「物語の終わり」を意味するとすれば、この虚像「微笑んだ幻」とは、旅の目的を達成したハッピーエンドのイメージだと想定できそうです。
旅が始まったばかりの一行にとっては、その瞬間は「まだ遥か遠く」なのでしょうね。
続いて、サビの歌詞です。
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求め探して彷徨って
やがて詠われて
幾千幾万幾億の旋律となる
いつか失い奪われて
消える運命でも
それは忘れられる事なき物語
≪忘れじの言の葉 feat.安次嶺希和子 歌詞より抜粋≫
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「求め探して彷徨(さまよ)って」という歌詞には、空白の人生に意味を見出そうとあがく主人公たちの姿が重なります。
また「やがて詠(うた)われて」という部分は、主人公の1人・レイナの詠唱(不調をきたした世界を元に戻す行為)と結びつけて解釈できそうです。
世界中のたくさんのプレイヤーが、1つの童話世界を詠唱によって修復する。
その過程にはきっと限りないパターンが存在し、それぞれのストーリーがあることでしょう。
そのストーリーの集大成が「詠われること」だとすれば、ここでの「旋律」は「完成した物語」のことかもしれません。
そしてその「物語」とは、今まさに存在している「童話」のことだと推測できます。
書物が焼かれようとデータが失われようと、童話はいつまでも人々に語り継がれ、そうそう忘れられることはないはずです。
「グリムノーツ」の主人公たち、引いては彼らと旅をするプレイヤーたちが救おうとする「物語」。
その尊さを強く認識させられる1番ですね。
定めある物語、定めなき旅路
ここからは2番の歌詞を考察していきましょう。
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指先を絡めて
触れる誰かの夢
刻まれた想いの
こだまだけが響く
言の葉を紡いで
微睡んだ泡沫
旅人の名前を
御伽噺と云う
≪忘れじの言の葉 feat.安次嶺希和子 歌詞より抜粋≫
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「指先を絡めて 触れる誰かの夢」は、童話のページをめくり、会ったことのない作者のファンタジックな世界に接触するようなイメージでしょうか。
そう仮定すると、「刻まれた想い」は「完成された物語」のことだと解釈できそうです。
そんな物語の「こだまだけが響く」というのは、ひとたびページをめくれば同じストーリーが繰り返し展開されるという意味かもしれません。
続く歌詞は「言の葉を紡いで 微睡んだ泡沫」で、これは1番の冒頭部分と同じです。
定めなき人生を歩む「旅人」一行。
定めのある主役・白雪姫は童話『白雪姫』として、同じく桃太郎は『桃太郎』として、自身の名を冠したお話が現存しています。
それらの童話を救おうと奮闘するのが、紛れもない「グリムノーツ」の主人公たちです。
そのメタ的な世界観はとても現代的に思えますが、遠い未来から見れば立派な「御伽噺(おとぎばなし)」といえるかもしれません。
そう考えると、今まさに冒険の最中である「旅人」の名も、最後にはいつかの「御伽噺」になるのではと思えてきますね。
さて、いよいよ最後のサビです。
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求め探して彷徨って
やがて道となり
幾千幾万幾億の英雄は行く
いつか失い奪われて
消える運命でも
それは忘れられることなく
此処に在る
求め探して彷徨って
やがて詠われて
幾千幾万幾億の旋律となる
いつか失い奪われて
消える運命でも
それは忘れられることなき物語
≪忘れじの言の葉 feat.安次嶺希和子 歌詞より抜粋≫
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旅人たちの奔走の果てに「やがて道となり」とあります。
この「道」は、王道のような「物語のシナリオ」のイメージ、あるいは唱道のような「となえる」イメージとして解釈できそうです。
詠唱によって童話の運命が正常に戻ることで、英雄やプリンセスなどは繰り返し王道を進むことができます。
そんな当たり前のシナリオをたどる「物語」が、今「此処(ここ)に在る」。
「此処」とは、私たちの心のなかのことなのかもしれません。
たとえ記録が朽ち果てようとも人々が忘れないだろう物語の数々。
そして、それを守ろうとする主人公たちの勇姿も、プレイヤーの心に残り続けることでしょう。
「忘れじの言の葉」とは、そんな「グリムノーツ」の主人公たちが救おうとしている物語の数々、そして何より「定めなき彼らの長い旅路そのもの」を表しているのではないでしょうか。
「忘れじの言の葉」は「グリムノーツ」の全て
今回は、未来古代楽団 feat. 安次嶺希和子『忘れじの言の葉』の歌詞の意味を考察しました。ゲーム内の設定を思い出させる部分も多く、「グリムノーツ」のファンにとっては想像力をくすぐられる尊い歌詞だったのではないでしょうか。
安次嶺希和子の清澄な歌声で紡がれる壮大な歌詞には、聴く人の心を安らかにする不思議な力があるようにも思えます。
すでに「グリムノーツ」のサービスは終了しましたが、そのシナリオや主題歌は今でも視聴可能で、多くの人の心のなかに生き続けているはずです。
もはやそれら全てを引っくるめて「忘れじの言の葉」であると言い切っても、きっと過言ではないでしょう。