ミスチル24thシングルの歌詞解釈を考える
『HERO(ヒーロー)』はMr.Childrenが2002年12月11日に発売した24thシングルで、「NTT DoCoMo Group 10th Anniversary」キャンペーンのCMソングです。
桜井和寿が小脳梗塞から復帰した後にリリースされたシングル曲ですが、楽曲自体は病気休養前にほぼ完成していたのだそう。
アメリカ同時多発テロ事件の際にアメリカ独特のヒロイズムに疑問を抱いたことをきっかけに、親の目線で書いたとのことです。
涙を誘う歌詞の意味をさっそく考察していきましょう。
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例えば誰か一人の命と
引き換えに世界を救えるとして
僕は誰かが名乗り出るのを待っているだけの男だ
愛すべきたくさんの人たちが
僕を臆病者に変えてしまったんだ
≪HERO 歌詞より抜粋≫
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『HERO』の歌詞は、強いヒーロー像とはほど遠い主人公の独白から始まります。
Aメロでは「誰か一人の命と引き換えに世界を救える」状況に置かれたとしても「僕は誰かが名乗り出るのを待っているだけの男だ」と語っています。
しかしこれはこの主人公が特別弱いのではありません。
きっと誰もが同じで、世界のために自分の命を投げ出せる人はほどんどいないでしょう。
「愛すべきたくさんの人たち」が増えれば増えるほど死が怖くなり「臆病者」になった主人公は、この曲を聴く全ての人が共感できる姿と言えるのではないでしょうか。
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小さい頃に身振り手振りを
真似てみせた
憧れになろうだなんて
大それた気持ちはない
でもヒーローになりたい
ただ一人 君にとっての
つまずいたり 転んだりするようなら
そっと手を差し伸べるよ
≪HERO 歌詞より抜粋≫
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このサビの歌詞に伝えたいメッセージがはっきりと記されています。
幼い頃、テレビの中で活躍するヒーローの変身ポーズを真似ていた人は少なくないでしょう。
少しでも憧れの存在に近づきたくて、もしくはそうなれると信じて真剣に身振り手振りを真似ていたものです。
大人になると「憧れになろうだなんて大それた気持ち」はなくなりますが、その頃の気持ちを全く失ったわけではありません。
今は多くの人にとっての憧れではなく、「ただ一人 君にとっての」ヒーローになりたいのです。
この曲が親目線の曲であることを考えると、「君」は主人公の子どもであると解釈できます。
自分の命を投げ打って世界を救う存在にはなれない臆病者でも、愛する子どもが「つまずいたり転んだりするようならそっと手を差し伸べる」ことはきっとできるはずです。
ヒーローとは子どもを優しく助ける親のように、その人にとって本当に安心して頼れる存在のことを言うのかもしれませんね。
人生をフルコースで味わうために
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駄目な映画を盛り上げるために
簡単に命が捨てられていく
違う 僕らが見ていたいのは
希望に満ちた光だ
僕の手を握る少し小さな手
すっと胸の淀みを溶かしていくんだ
≪HERO 歌詞より抜粋≫
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「駄目な映画」を盛り上げるためだけに、捨てられるかのように簡単に失われる人々の命。
確かに人が亡くなる展開は大抵の映画につきものです。
しかしここでは本当に観客が観たいのは「希望に満ちた光」だと訴えかけています。
そして自分にとっての希望は子どもの存在であることが、Bメロの歌詞に綴られています。
手を繋いだ我が子の「少し小さな手」への愛おしさが「すっと胸の淀みを溶かしていく」ように、世の中には心を温かくしてくれる希望がもっとあるべきだと感じていることが伝わってくるでしょう。
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人生をフルコースで深く味わうための
幾つものスパイスが誰もに用意されていて
時には苦かったり
渋く思うこともあるだろう
そして最後のデザートを笑って食べる
君の側に僕は居たい
≪HERO 歌詞より抜粋≫
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2番のサビは人生を料理に例えた歌詞が秀逸です。
フルコースにはそれぞれの料理を最大限美味しく味わえるように多くのスパイスが使われています。
単体では美味しく感じられないような苦味や渋味も、食材やほかのスパイスの美味しさを引き立てるために重要な役割を果たしますよね。
同じように人生の中で直面する苦しいことや悲しいこともなくてはならないものと言えます。
なぜなら、つらい経験を通してでなければ知ることができない感情や得られない成長が必ずあるからです。
そして、そうした経験の後に感じる幸せは、フルコースの「最後のデザート」のように大きな幸せとなって自分を癒してくれるでしょう。
これからそんな様々な経験をしていく我が子の側にいて見守っていきたいという親の優しい想いが示されています。
繰り返す日々が嬉しくて愛しい
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残酷に過ぎる 時間の中で
きっと十分に僕も大人になったんだ
悲しくはない 切なさもない
ただ こうして繰り返されてきたことが
そう こうして繰り返していくことが
嬉しい 愛しい
≪HERO 歌詞より抜粋≫
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時間は残酷なほどあっという間に過ぎていき、その中で人々は大人になっていきます。
次第に憧れのヒーローにはなれないことを理解し価値観も変化していきますが、主人公はそれを悲しいとも切ないとも感じていません。
心にあるのは「嬉しい 愛しい」という気持ちだけ。
いくら平凡で退屈に思えても今日まで日々が「繰り返されてきた」ことは、当たり前のようでいて実はとても尊いことです。
そして「繰り返していくこと」のフレーズには自分のこれからの人生だけでなく、子どもの人生のことも含まれているのでしょう。
自分がこうして生きてきたように愛する我が子もこれからの日々を生きていくということは、愛の連鎖を示しているようでもあります。
映画のような盛り上がりはなくても、毎日を愛する人と共に生きられることが嬉しくて愛しいのです。
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ずっとヒーローでありたい
ただ一人 君にとっての
ちっとも謎めいてないし
今更もう秘密はない
でもヒーローになりたい
ただ一人 君にとっての
つまずいたり 転んだりするようなら
そっと手を差し伸べるよ
≪HERO 歌詞より抜粋≫
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いくつ歳を重ねても我が子にとって「ずっとヒーローでありたい」というのが主人公の願いです。
テレビの中のヒーローのように正体を隠して謎めいているわけでも、何か特別な秘密があるわけでもありません。
時には恥ずかしくて情けない姿を見せてしまうこともあるでしょう。
いつもかっこいい自慢のヒーローではいられなくても、子どもが悩んだり挫折したりする時に一番近くにいてすぐに手を差し伸べられる存在でありたいと真剣に思っています。
幼い頃に憧れた男らしいヒーロー像とは違いますが、愛する人を守れるヒーローになりたいというシンプルかつ切実な想いに心が温まります。
あなたは誰のヒーローになりたい?
『HERO』は様々な名曲を世に送り出してきたミスチルらしい共感性の高い等身大の歌詞が魅力的です。親子関係だけでなく、夫婦や恋人、友人など誰であっても大切な人のヒーローになり得ます。
自分は誰にとってのヒーローになりたいか、この機会にじっくり考えてみませんか?
1992年ミニアルバム「EVERYTHING」でデビュー。 1994年シングル「innocent world」で第36回日本レコード大賞、2004年シングル「Sign」で第46回日本レコード大賞を受賞。 「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」「しるし」「足音 〜Be Strong」など数々の大ヒット・シングル···