人生の迷路で迷子になるニーゴ
スタイリッシュなボカロ曲を生み出すことで人気のツミキ制作の『キティ』は、リズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat.初音ミク』のゲーム内ユニット「25時、ナイトコードで。」への書き下ろし楽曲です。イベント「ボク達の生存逃走」で描かれた朝比奈まふゆと母親の関係をメインに、ニーゴのメンバーたちが抱える想いが表現された楽曲となっています。
ツミキからニーゴへのどんなメッセージが込められているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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味気の無い夜に熔けた雪が、
言葉を枯らすのは何故?
伝わらない想いだけがこころ染めて、
かなしみに溺れたような、
泡沫の爆ずバラッド。
≪キティ 歌詞より抜粋≫
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ここで出てくる「雪」はまふゆのハンドルネームです。
母親に音楽活動を制限されているために唯一の楽しみであるニーゴの一員として活動できない日々は、まふゆにとって「味気のない夜」のようなもの。
言いたいことはたくさんあるはずなのに本音を言えないでいるまふゆをメンバーが心配している様子が垣間見えます。
まふゆの音楽をやりたいという想いは母親に伝わらないまま、心の中に蓄積していくばかりです。
「バラッド」とはイギリスなどで伝承されてきた物語や寓話のある歌のこと。
泡が弾けて消えてしまうように儚く、哀しみを帯びたまふゆの物語の顛末をメンバーたちも気にかけています。
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日月さえも孤独な天下で、
絡まって解いてを輪廻する愚者の群。
まるで、一様に独りと識った反射で
調和を謀る、本能の儘のキティ。
≪キティ 歌詞より抜粋≫
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まふゆは優等生として周囲から慕われる一方で、本当の自分を知ってくれている人がほとんどいないため「孤独な天下」にいると言えるかもしれません。
近づいては離れていく人たちを「愚者の群」と評しても仕方がないでしょう。
これはほかのメンバーにも言えることで、理解者が少ない彼女たちを取り巻く環境は決して良好とは言えません。
そんな周囲の反応に一喜一憂してしまう自分たちを「愚者」と皮肉っているとも考えられます。
「一様に独りと識った反射で調和を謀る」というフレーズは、ニーゴのメンバーがそれぞれの事情を知って誰もが独りなのだと知ったことにより、グループとして結束しようとしていることを示していると解釈しました。
「謀る」は良くないことを企んだり騙したりすることを表す言葉なので、根本的な事情を解決しないままニーゴを拠り所として自分自身を騙しているという意味で使われていると考えられます。
タイトルでもある「キティ(kitty)」は子猫のことで、迷子の子猫を連想させます。
どうすれば理想に近づけるのか、人生という迷路で迷子になっている自分たちのか弱さが表現されているように感じますね。
劣等と焦燥に揺れ動く心
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嗚呼、何処にも新世界なんて無い。
独りで愛し、愛されて居たい。
果たして今日は凶なら昨日は如何?
詰まり永遠に不幸ってこと?
其れなら、如何にかしたい次第。
其れでも直視なんて出来ない。
また、劣等と焦燥が睨み合って居る。
≪キティ 歌詞より抜粋≫
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本当の自分のことを受け入れてくれる「新世界なんて無い」。
いっそ自分以外誰もいない世界で「独りで愛し、愛されて居たい」という孤独を願う言葉を出してしまうほど、彼女たちが追い詰められていることが窺えます。
今日という悪い一日を「凶」と表現するなら昨日だって変わりなかったから、「詰まり永遠に不幸ってこと?」と自分の苦しい現状に唖然としている様子が伝わってきます。
そして現状を「如何にかしたい」けれど「直視なんて出来ない」と、行動したいと思いながらも問題に向き合うことができないというジレンマに陥っているようです。
自分の想いを優先して母親に反抗しようとする自分への劣等感と、今変わらなければこれからもずっと本音を言えなくなってしまうことへの焦燥感が、まふゆの心の中で睨み合っています。
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午前一時、警鐘亂打に起こす瞼。
あたしは「何がしたい」「何がしたい」と逡巡の間、
余計なことばかりが頭の中絡まっていた。
丹精凝らしたペイパークラフトは着火剤と化した。
≪キティ 歌詞より抜粋≫
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「午前一時」はニーゴの活動時間のこと。
メンバーやバーチャルシンガーたちが、いつまでも母親の顔色を伺うまふゆの目を覚まさせようと様々なことを言います。
それに対してまふゆは自分の夢や親の提示する目標など、あれこれ考えて決断に踏み切ることができずにいます。
「丹精凝らしたペイパークラフト」は、歌詞の内容からまふゆが自分自身のことを表現したフレーズだと考察しました。
母親のために作り上げた良い子の自分を、紙のように薄っぺらい存在であると思っているようです。
そしてそんなまふゆのためにメンバーたちが行動を起こしたことは、「着火剤」としてメンバーの心に火をつけていると言えますね。
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劣等感、実感、悲観で、勝手に喰らってパッシヴィティ。
演奏家皆皆で喝破する生態系?
それでは、変光星から没個性で
劣化する才が惜しくなってしまう。
不都合等蹴飛ばして
銘銘に踊れや。一、二、三、四。
≪キティ 歌詞より抜粋≫
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「パッシヴィティ(passivity)」は消極的で無抵抗な様子を表します。
自分の弱さを実感して物事を悲観し、そうした悪感情に圧倒されて無抵抗になっているということでしょう。
「喝破」は堂々と論じて人が気づかない真理を明らかにするという意味です。
まふゆがほかのメンバーたちの言葉を聞いて、やっと自分の家庭環境が世間一般とは違うものだということに気づいたことを表していると考えられます。
次の「変光星」とは見かけの明るさが時間と共に変化する恒星のことなので、日中は優等生として、夜はニーゴの一員としての顔を持っているまふゆを象徴していると思われます。
自分自身を取り戻しかけていたまふゆを失ってしまうのはニーゴにとって惜しいというメンバーたちの気持ちが表れているのではないでしょうか。
だから都合の悪いことは一蹴して何にも縛られずそれぞれ好きなように行動しようと、互いの心を奮い立たせている様子が読み取れます。
迷ったなら逃げ出して!
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逃れることと、眼を逸らすこと、
何方に価値が有るだろう?
ただ此処で問答・瞑想
じゃあ、突立っても迷走。
さあ点と点を結ぶように、
≪キティ 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞をまふゆ視点で見ると、自分の想いを実現するために母親から「逃れること」と良い子であり続けるために自分の想いから「眼を逸らすこと」では「何方に価値が有るだろう?」と自問していると解釈できます。
この二択は、ほかのメンバーを含め夢を持つ誰もがぶつかる選択肢ではないでしょうか?
多くの場合夢を叶えるためには何かを犠牲にしなくてはならないため、それを犠牲にしてまでこの夢を叶える価値があるのだろうかと考えることがあるでしょう。
しかしいくら自分に問いかけて答えを考え続けても、この結論を出すのは難しいことです。
ニーゴのメンバーはそうした悩みを抱える少女たちが集まっています。
だから「点と点を結ぶように」孤独だった彼女たちがひとつのグループとして結びつき、共に進んでいこうとする姿がここに描かれているように思えます。
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確かな愛が視たいなら、音に成って今逃げ出して!
偽らなくたって叫んだ旋律がひかりと化して伝うのさ。
この歌が間違いでも構わないわ。声を枯らして!
掻鳴らせ、ブルウスドライバ・アンド・テレキャスタ。
答えは音の中。そして、あたしの中。
≪キティ 歌詞より抜粋≫
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まふゆの母親が見せる愛情は、完全な悪ではないものの純粋な愛ではありません。
それで自分の想いを否定する歪んだ愛ではなく、その想いを尊重して支えてくれる「確かな愛」を感じたいのなら「今逃げ出して!」と歌われています。
問題にぶつかった時、壁を乗り越えたり壊したりして前に進むように励まされることがあるでしょう。
しかしここでは問題に立ち向かうのではなく、思い切って問題から逃げるという新たな選択肢を与えています。
プロセカの登場人物たちは、現実世界とキャラクターの想いから生まれた「セカイ」と呼ばれる空間を行き来し、自分たちの本当の想いを見つけた時に歌が生まれます。
「音に成って」という表現から、現実から離れて自分が本当に落ち着ける場所“セカイ”に逃げ込んでもいいんだというメッセージが込められていると考察できます。
さらに続く歌詞からは、偽らず本音を伝えたところで涙という「ひかりに化して伝う」だけだから、もし逃げ出すことが間違いだとしても今の自分のためになる選択をしたいという意思が感じられますね。
「ブルウスドライバ」はギターの音を歪ませるエフェクターで、「テレキャスタ」はエレキギターの一種です。
ギターの音をブルースドライバーを通して歪ませるように、自分の想いも真っ向から伝えるのではなくもっと違う方法で示してもいいということを表しているのかもしれません。
この選択の結果は音楽活動を続けた先に分かるでしょう。
とはいえどうするべきかは「あたしの中」、つまりそれぞれ自分自身の心の中に答えがあるのです。
だから逃げようと立ち向かおうと、自分の思いのままに行動すればいいのだと訴えかけてきます。
ツミキが描くニーゴの世界に浸ろう
『キティ』では自分らしくいるために時には逃げ出すことも勇気だというメッセージが感じ取れました。イベントストーリーに沿いつつ、ツミキらしい言葉選びで表現された詩的な歌詞に引き込まれます。
ニーゴのメンバーと鏡音レンの力強い歌声の調和にも注目しながら、じっくり聴いてみてくださいね。