舞台は、海割れで有名な「珍島(チンド)」
2022年にデビュー50周年を迎えた演歌歌手・天童よしみ。ノーベル製菓「VC-3000のど飴」のCMキャラクターとしても長年愛される、日本を代表するシンガーです。
2020年には公式YouTubeチャンネル「天童よしみのなめたらアカンちゃんねる」を開設。
昭和、平成を経た令和時代においても幅広い分野で活動を続けています。
また2021年には『道頓堀人情』や『残波』などの人気曲を収録した『天童よしみ2022年全曲集』もリリースされました。
今回考察する『珍島物語』は、同アルバムのラストを飾る名曲。
1996年にリリースされ、日本有線大賞「有線音楽優秀賞」や日本レコード大賞「最優秀歌唱賞」などを受賞した、天童よしみの代表曲とも言える1曲です。
曲名にある「珍島(チンド)」は、朝鮮半島西南部に位置する島の名前。
潮の干満によって茅島(モド)という島との間に砂の道ができる「海割れ現象」が有名で、春になると毎年多くの観光客が「珍島」に集います。
リリース翌年には、天童よしみ本人が珍島を訪問して『珍島物語』を熱唱したこともあったそう。
そんな「珍島」を舞台にした大ヒット曲の歌詞には、果たしてどのような意味が込められているのでしょうか。
愛しい「あなた」との再会を祈る
まずは1番の歌詞から見ていきましょう。
----------------
海が割れるのよ
道ができるのよ
島と島とが
つながるの
こちら 珍島から
あちら茅島里まで
海の神様
カムサハムニダ
≪珍島物語 歌詞より抜粋≫
----------------
珍島郡と芽島里(モドリ)がつながる「海割れ」。
「〜のよ」という語尾や「こちら珍島」というフレーズから、1番の視点は「珍島にいる女性」だと考えられます。
そして彼女は、島と島をつなげてくれた「海の神様」に「カムサハムニダ」と感謝の意を表しているようですね。
続くサビの歌詞も見てみましょう。
----------------
霊登サリの
願いはひとつ
散り散りになった
家族の出会い
ねえ わたしここで
祈っているの
あなたとの
愛よふたたびと
≪珍島物語 歌詞より抜粋≫
----------------
「霊登サリ(ヨンドンサリ)」は、珍島で行われる伝統的な儀式の名称です。
この儀式は「かつて虎に襲われて家族とはぐれてしまった珍島の女性が、竜王の助けにより海割れの道で家族と再会を果たした」という伝説から生まれたと言われています。
その女性の魂が天に昇った日ということで感謝の意を込め、毎年ご法事が執り行われるのだとか。
そんな「家族の再会」が背景にあるお祭り「霊登サリ」。
『珍島物語』の主人公も「あなたとの愛よ ふたたび」と、愛しい誰かとの再会を祈っていることがよくわかりますね。
散り散りになっても想い合う二人
続いて後半の歌詞を見ていきます。
まずは、2番の歌詞をサビまで一気に見てみましょう。
----------------
遠くはなれても
こころあたたかく
あなた信じて
暮らします
そうよ いつの日か
きっと会えますね
海の神様
カムサハムニダ
ふたつの島を
つないだ道よ
はるかに遠い
北へとつづけ
ねえ とても好きよ
死ぬほど好きよ
あなたとの
愛よとこしえに
≪珍島物語 歌詞より抜粋≫
----------------
「そうよいつの日か きっと会えますね」には、1番サビの「あなたとの愛よ ふたたび」という望みに対する応答のようなニュアンスが読み取れます。
海割れの道に向かって「北へとつづけ」と願っている点も踏まえると、2番の視点は「芽島にいる女性」だと解釈できそうです。
また『珍島物語』には「朝鮮半島の南北分断によって離れ離れになった家族の願いが込められている」という話もあります。
この歌には、そうして離れ離れになった母と娘の物語が綴られているのかもしれません。
そう考えると、1番で綴られた再会への願いがしっかり相手に伝わっていること、そして相手もまた同じように再会を切望していることがよくわかりますね。
それでは最後のサビも見てみましょう。
----------------
霊登サリの
願いはひとつ
散り散りになった
家族の出会い
ねえ わたしここで
祈っているの
あなたとの
愛よふたたびと
≪珍島物語 歌詞より抜粋≫
----------------
歌詞は1番と同じですが、これまでの考察を踏まえると「離れ離れになっている両者」目線での願いのようにも読めてきます。
神の所業たる海割れにあやかって願いを掛け合う「わたし」と「あなた」。
散り散りになっても互いを想い合う双方が、きっと『珍島物語』の主人公なのでしょう。
再会を願う全ての「わたし」へ
今回は、天童よしみ『珍島物語』の歌詞の意味を考察しました。誰の人生にも訪れる、大切な人との出会いや別れ。
「あなた」との再会を切に願う歌詞には、きっと多くの人が共感できたのではないでしょうか。
ふたたびの愛や、永遠の愛。
これらの強力な愛を抱く『珍島物語』の主人公、ひいては再会を願う全ての「わたし」に海割れの道が開けるといいですね。