浜崎あゆみのカバーも話題になった2ndシングル
1998年12月リリースのデビューシングル『Automatic/Time will tell』が大ヒットを記録し、15歳の若さで彗星のごとくトップアーティストの座に躍り出た宇多田ヒカル。以降、今なお歌い継がれる名曲『First Love』や映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の最終ED曲『Beautiful World』など、話題作を続々と世に送り出しているアーティストです。
今回考察するのは、1999年2月にリリースされた2ndシングル『Movin' on without you』。
作詞作曲はもちろん、宇多田ヒカル本人が手がけています。
『Movin' on without you』は日産自動車・テラノのCM「我が道をゆく」篇のテーマソングとして起用されました。
また、自身初のオリコン初登場1位を獲得したことでも知られています。
のちに浜崎あゆみがカバーしたことでも話題を呼んだ、スピード感あふれる伝説的名曲。
そんな『Movin' on without you』の歌詞には、はたしてどのような意味やストーリーが見出せるのでしょうか。
PHSの着信を待つ「私」
まずは冒頭の歌詞から見ていきましょう。
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Nothing's gonna stop me
Only you can stop me
≪Movin' on without you 歌詞より抜粋≫
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以後、このフレーズは何度も繰り返されます。
和訳すると「私はもう止められない あなた以外には」といったニュアンスになりそうですね。
ひとまずここでは深掘りを避け、1番の歌詞に入っていきましょう。
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夜中の3時am 枕元のPHS
鳴るの待ってる バカみたいじゃない
時計の鐘が鳴る おとぎ話みたいに
ガラスのハイヒール 見つけてもダメ
≪Movin' on without you 歌詞より抜粋≫
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「夜中の3時am 枕元のPHS」。
PHSとは、ガラケーが普及する前の90年代後半、若い世代を中心に流行が始まった安価な通信機器のことです。
彼から連絡がくるのを夜中まで待っている主人公は、そんな自分自身に飽き飽きしている様子。
続く「時計の鐘が鳴るおとぎ話」からは、ディズニー映画『シンデレラ』が連想されますね。
ガラスの靴を見つけ、そのサイズがピッタリ合う女性を探す王子様。
「ガラスのハイヒール 見つけてもダメ」というフレーズには、「後になって私を追いかけてきてももう遅いわよ」と強がるような雰囲気が読み取れます。
続く歌詞はこちらです。
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構うのが面倒なら 早く教えて
私だって そんなに暇じゃないんだから
I'm movin' on without you
≪Movin' on without you 歌詞より抜粋≫
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どうやら主人公は、釈然としない彼の態度にやきもきしているようですね。
また同時に、もやもやした状態のまま関係を続けていく気はなくなったようです。
「I’m movin’ on without you」は「あなたなしで前に進むって決めたの」という意味に解釈できます。
彼との決別の意志が垣間見えたところで、サビの歌詞です。
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フザけたアリバイ 知らないフリはもう出来ない
こんな思い出ばかりの 二人じゃないのに
せつなくなるはずじゃなかったのに どうして
いいオンナ演じるのは まだ早すぎるかな
≪Movin' on without you 歌詞より抜粋≫
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「フザけたアリバイ 知らないフリはもう出来ない」。
仕事が…友達が…親が…など、きっと主人公はこれまで何度も彼のあやしい「アリバイ」を受け入れてきたのでしょう。
そのたび「本当は自分に気持ちがなくなったのでは…」や「本当は別の女と一緒なのでは…」と、不安で眠れない夜を経験してきたのかもしれません。
楽しかった思い出もあるはずなのに、頭をよぎるのは嫌な記憶ばかり。
どうしてこんなに切ない気持ちにならなければいけないのか、混乱や不満も増大します。
それらに悩まされずにスパッと切り替えられる「いいオンナ」を演じるのは、今の彼女には難しいようですね。
「いいオンナ」演じるのは楽じゃない
ここからは、2番以降の歌詞を見ていきます。
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用意したセリフは 完璧なのに
また 電波届かない 午前4時
静かすぎる夜は 考えが暴れ出すの
分かってるのに 結局寝不足
≪Movin' on without you 歌詞より抜粋≫
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完璧に「用意したセリフ」とは、別れのひと言のことでしょうか。
タイムオーバーと言わんばかりに自ら電話をかけたものの、午前4時になっても電波は届かず。
彼が今どこで何をしているのか、未明の静寂も相まってよからぬ想像が止まらない様子です。
本当のところは、約束や連絡を忘れて彼はただ眠っているだけなのかもしれません。
それでも気になりすぎて「結局寝不足」になっている主人公。
寝不足がたたってか、続く歌詞では彼を強く責めるようなニュアンスが読み取れます。
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あんな約束 もう忘れたよ
指輪も返すから 私のこころ返して
I have to go without you
≪Movin' on without you 歌詞より抜粋≫
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「あんな約束」とは、今夜の電話やデートの約束のことでしょうか。
「指輪も返すから」というフレーズも考慮すると、もしかしたら主人公は彼と婚約していたのかもしれませんね。
いずれにせよその約束を「もう忘れたよ」と切り捨て、主人公は「私のこころ返して」と望んでいます。
どんなアリバイも受け入れるほど好きだった気持ち、一途に彼を想うことに費やした時間。
「I have to go without you(あなたなしで行かないと)」と決めたからには、それらを断ち切る必要があるのでしょう。
はたして彼女にそれができるのか。
続くサビの歌詞も見てみましょう。
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くやしいから 私から別れてあげる
いいオンナ演じるのも 楽じゃないよね
せつなくなるはずじゃなかったのに どうして
いいオンナ演じるのは まだ早すぎるかな
≪Movin' on without you 歌詞より抜粋≫
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「私のこころ」が返ってこない悔しさに押され、主人公は自分から「別れてあげる」と強気な態度を見せます。
そして続く歌詞は「いいオンナ演じるのも 楽じゃないよね」。
切なさや動揺を隠してオトナの余裕を演出するのは、今の主人公にはやはり骨が折れるようです。
終盤の歌詞にも、どこか気持ちが揺れている「私」の本音がうかがえます。
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とまどいながらでもいいから 愛してほしい
そんなこと言わなくても わかってほしいのに
せつなくなるはずじゃなかったのに どうして
いいオンナ演じるのは まだ早すぎるかな
≪Movin' on without you 歌詞より抜粋≫
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「とまどいながらでもいいから 愛してほしい」。
そしてそれを明言せずとも「わかってほしい」。
そんな女心が通じなかった結果、主人公は彼なしで前に進んでいくことを決意しました。
ただ、切なさや後悔の念はどうしても付きまとってしまうようです。
節目節目でリフレインされる以下のフレーズも、心のどこかで「本当はあなたに引き止めてほしい」と願っているように聴こえてきます。
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Nothing's gonna stop me
Only you can stop me
≪Movin' on without you 歌詞より抜粋≫
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「いいオンナ」を演じきるには、主人公はまだ幼すぎたのですね。
スマホが主流でも変わらない恋愛模様
今回は、宇多田ヒカル『Movin' on without you』の歌詞の意味を考察しました。手軽に連絡し合えない時代だからこその情緒がビシビシ伝わる歌詞でしたね。
繊細に揺れ動く心理描写に対して曲調がパワフルでリズミカルなのも、主人公の本音と強がりが絶妙に表現されているようで魅力的です。
ご存知のとおり、時代の変遷とともにプライベートの連絡手段は携帯電話やスマートフォンへと変わっていきました。
それでも、好きな人からの電話やメッセージを待ち望んだり「彼は今どこで何をしてるんだろう」と眠れない夜を過ごしたりするのは今でも恋愛のあるあるですよね。
時代を経ても変わらない恋愛模様が描かれているのも、長きにわたって『Movin' on without you』が愛されている要因なのかもしれません。