3rdアルバム「君は僕の宝物」初収録の名曲
1990年にデビューして以来、『もう恋なんてしない』や『どんなときも。』など、数々の名曲を世に送り出している槇原敬之。SMAP『世界に一つだけの花』の作詞作曲でも知られる、頑張る人に寄り添う温かい楽曲でたくさんの人生を支えているシンガーソングライターです。
今回取り上げるのは、1992年リリースの『遠く遠く』。
3rdアルバム『君は僕の宝物』に収録された1曲で、2006年にはNTT東日本のCMソングに起用されたことでも大きな話題を呼びました。
『遠く遠く』の歌詞では、故郷を離れて新しい街で生活する寂しさや強さが描かれています。
語りかけるようにつづられる歌詞の意味やストーリーを、ここではじっくり考えていきましょう。
「遠く遠く離れていても僕のことがわかるように」
まずは、1番の歌詞から見ていきます。
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外苑の桜は咲き乱れ
この頃になるといつでも
新幹線のホームに舞った
見えない花吹雪 思い出す
≪遠く遠く 歌詞より抜粋≫
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「外苑の桜」というと、東京の明治神宮外苑や皇居外苑が有名ですね。
そんな「外苑の桜」に春の到来を感じながら、主人公は昔のことを思い出している様子です。
その情景は「新幹線のホームに舞った 見えない花吹雪」というもの。
東京への門出のとき、主人公は自分自身を鼓舞すべく想像の中で「花吹雪」を散らせていたのかもしれません。
上京した当時の孤独や不安、将来への期待などが伝わってきますね。
続く歌詞はこちら。
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まるで七五三の時のよに
ぎこちないスーツ姿も
今ではわりと似合うんだ
ネクタイも上手く選べる
≪遠く遠く 歌詞より抜粋≫
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七五三の着物のようにぎこちなく着ていたスーツも「今ではわりと似合うんだ」と語る主人公。
ネクタイも上手く自分で選べるようになり、駆け出しの頃からの成長がうかがえます。
街へ出て社会人経験を積んでいった人には、とくに共感できる一節ですね。
続く歌詞も見てみましょう。
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同窓会の案内状
欠席に丸をつけた
「元気かどうかしんぱいです。」と
手紙をくれるみんなに
≪遠く遠く 歌詞より抜粋≫
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社会人として様になってきた主人公に「同窓会の案内状」が届きました。
「欠席に丸をつけた」のは、主人公に何か目標があり、それを達成するまでは帰らないと決めていたからでしょうか。
そんな自分を心配して手紙をくれる旧友たち。
彼らに会いたい気持ちや、会えずに申し訳ない気持ちがじんわりと伝わってきます。
続くサビの歌詞はこちらです。
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遠く遠く離れていても
僕のことがわかるように
力いっぱい 輝ける日を
この街で迎えたい
≪遠く遠く 歌詞より抜粋≫
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ふるさとから遠く離れていても、「僕」は心配いらない。
そしてそれがわかるほどに「力いっぱい輝ける日をこの街で迎えたい」。
主人公は、ここで頑張ると決めた「この街」で一人前になり、その勇姿を故郷に届けたいと考えているようですね。
愛と感謝を胸に「この街」で輝く
続いて、2番以降の歌詞を見ていきましょう。
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いつでも帰ってくればいいと
真夜中の公衆電話で
言われたとき笑顔になって
今まで やってこれたよ
≪遠く遠く 歌詞より抜粋≫
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東京で頑張ると決めた主人公ですが、ときに弱気になってしまうこともあったのでしょう。
「真夜中の公衆電話」というフレーズからは、つらくて寂しくて思わず電話してしまったという場面が想像できます。
「いつでも帰ってくればいい」という優しい言葉は、おそらく主人公の家族のものでしょう。
そんな温かい愛を原動力にして、主人公はこれまで頑張ってこれたようですね。
次の歌詞も見てみましょう。
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どんなに高いタワーからも
見えない僕のふるさと
失くしちゃだめなことをいつでも
胸に抱きしめているから
≪遠く遠く 歌詞より抜粋≫
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「どんなに高いタワーからも見えない僕のふるさと」。
遠く遠く離れた「ふるさと」を想い、主人公は「失くしちゃだめなこと」を胸に留めます。
心配してくれる家族や友人への愛、帰る場所があることへの感謝。
都会の雑踏のなか、これらのような「失くしちゃだめなこと」が主人公を強く支えていることがよくわかりますね。
続くサビの歌詞はこちらです。
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遠く遠く離れた街で
元気に暮らせているんだ
大事なのは
"変わってくこと"
"変わらずにいること"
≪遠く遠く 歌詞より抜粋≫
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主人公は東京で元気に暮らせていることを誇りに思っている様子です。
とくに印象的なのは「大事なのは “変わってくこと” “変わらずにいること”」というフレーズではないでしょうか。
「“変わってくこと”」は人として成長すること、そして「“変わらずにいること”」は故郷への愛や感謝を持ち続けることだと解釈できます。
変わらない気持ちのまま立派に成長することができれば、こんなに素敵なことはないですね。
最後の歌詞も見てみましょう。
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同窓会の案内状
欠席に丸をつけた
だれよりも今はみんなの顔
見たい気持ちでいるけど
遠く遠く離れていても
僕のことがわかるように
力いっぱい 輝ける日を
この街で迎えたい
僕の夢をかなえる場所は
この街と決めたから
≪遠く遠く 歌詞より抜粋≫
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誰よりも「みんなの顔」を見たい主人公ですが、まだまだ東京で頑張り続ける気概のようです。
そして最後のフレーズは「僕の夢をかなえる場所は この街と決めたから」。
東京で夢を叶えたい、輝かしい姿をみんなに届けたいという強い気持ちが感じ取れますね。
愛や感謝の気持ちを胸に、これからも主人公は自分の人生を堂々と歩んでいくのでしょう。
ふるさとを想いながら人生を歩む
今回は、槇原敬之『遠く遠く』の歌詞の意味を考察しました。夢を追って上京した主人公の寂しさや強さ、そしてふるさとの温かさが心に響く歌詞でしたね。
学生にしろ社会人にしろ、身ひとつで新しい環境に飛び込んで努力している人にとってはとくに染みる楽曲だったのではないでしょうか。
情景描写には90年代ならではの部分もありましたが、新天地で頑張ろうという決意や故郷を想う気持ちは、きっとこの先も変わらないものです。
時代を問わず歌い継がれる『遠く遠く』は、これからもずっと多くの人々の人生を支え続けるのでしょうね。