ここ最近テレビをつけていると、宮崎あおいが下手な歌を歌っているCMを見かけることがあると思います。外を歩きながら「ヒマラヤほど~の~消しゴムひと~つ~」と歌う姿を思わず目で追ってしまう、妙に気になるCM。
これは洋服ブランド、earth music&ecologyのCM。もともと2010年のCMに宮崎あおいが出演し、この曲を歌っていました。今回原点回帰のコンセプトで、再び宮崎あおいがCMに出演し、同じ曲を歌っています。
この曲はTHE BLUE HEARTSのシングル『1000のバイオリン』のカップリング曲『1001のバイオリン』。『1000のバイオリン』をオーケストラアレンジした曲です。
ブルーハーツは80年代から90年代にかけて一世を風靡した伝説のバンド。カラオケで皆で歌うと盛り上がる『リンダリンダ』や『TRAIN-TRAIN』等が有名。シンプルなのにカッコいい、勢いで聴かせる力、熱いメッセージ、そんなロックの魅力を体現していた4人組バンドです。そして、このバンドが単に勢いだけでないことが分かるのが、この『1001のバイオリン』。
まさに1001のバイオリンが鳴っているのでは、と想像させる壮大なストリングスアレンジ。そして、この壮大なオーケストラアレンジが、曲が本来持っている魅力を引き出しています。甲本ヒロトの歌声の魅力、メロディの力、真島昌利の歌詞のチョイス、どれも見事。
”ヒマラヤほどの消しゴムひとつ 楽しい事をたくさんしたい
ミサイルほどのペンを片手に おもしろい事をたくさんしたい”
CMでも使われている印象的な冒頭のフレーズ「ヒマラヤほどの消しゴムひとつ」「ミサイルほどのペンを片手に」。これは何を表しているのでしょうか。
消しゴムをヒマラヤ山脈に、ペンをミサイルに見立てている歌詞。そう、これは人の想像力について歌っている歌なのです。人が何かをスタートする時、何かを作りだす時、それは全て想像力から始まる。「楽しい事」「おもしろい事」は、全て最初に何かを見たてることから始まるのです。
“夜の扉を開けて行こう 支配者達はイビキをかいてる
何度でも夏の匂いを嗅ごう 危ない橋を渡って来たんだ
夜の金網をくぐり抜け 今しか見る事が出来ないものや
ハックルベリーに会いに行く 台無しにした昨日は帳消しだ”
「夜の扉を開けて行こう」という歌詞が良いですね。「支配者達はイビキをかいてる」、その隙に支配者から逃れて自由に行動しよう、という歌詞です。この後にも「夜の金網をくぐり抜け」という歌詞があります。「夜」という日の当たらない時間こそ自由になれる。「夜」とは、人生の先が見えない状態の象徴。
さらに「ハックルベリー」が歌詞上に登場します。アメリカの作家マーク・トウェインによる児童文学『ハックルベリー・フィンの冒険』からきているこのフレーズ。日本で2度アニメ化もされているこの物語。トム・ソーヤーの親友ハックルベリーの冒険を描いています。浮浪者の孤児ハックルベリーは、自由気ままに生きようとする少年。「支配者達はイビキをかいてる」の歌詞と対比している、冒険心の象徴なんですね。
“揺篭から墓場まで 馬鹿野郎がついて回る
1000のバイオリンが響く 道なき道をブッ飛ばす
誰かに金を貸してた気がする そんなことはもうどうでもいいのだ”
歌詞の後半に、ついにアレンジ元タイトルの「1000のバイオリン」が登場。揺篭から墓場まで、生まれてから死ぬまで、色々言ってくる馬鹿野郎は存在します。しかし、そんな騒音は気にせず心に1000のバイオリンを鳴り響かせて、道なき道をブッ飛ばしていこう。そういう曲です。
1000のバイオリンも、想像力・美しい音の象徴。いかに大きな編成のオーケストラでも1000人もバイオリニストが揃うことは、通常ではありません。1000のバイオリンが鳴り響くかのように、常に心に美しい音を響かせていよう、という意思なんですね。
宮崎あおいは、この歌を下手に歌っていい。なぜなら、この曲が、まっさらな人の想像力を歌っているから。人の想像力を刺激するこの曲は、現在も活きています。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)
THEBLUEHEARTS(ザ・ブルーハーツ)は日本のパンク・ロックバンド。 メンバーは甲本ヒロト(Vo.)、真島真利(G.)、河口純之助(Ba.)、梶原徹也(Dr.)。 1985年に甲本と真島を中心として結成。 コード進行は3、4コードを主としたシンプルなものが多く、メッセージ性の強い歌詞とオリジ···