幼少期の夢は漫画家
──まずは、本作に触れる前にマルチに活動を展開される工藤さんについてお聞きしたいのですが、幼少期に思い描いていた夢はどういったものだったんですか?工藤晴香(以下、工藤):幼少期は漫画家になりたかったです。漫画やアニメが好きだったので、ぼんやりと漫画家になりたいなと思っていました。
──そこからどのような変遷を辿っていかれるのでしょう。
工藤:中学生の頃から読者モデルの活動を始めて、少しずつ芸能界の方に足を突っ込んでいくことになるんですけど、そこからいろんな経験をして、モデルだったり声優だったり、ちょっとした女優業というんでしょうか、ドラマやCMに出演したりなど、さまざまな経験をしてきて、今は声優をメインに活動をしています。
当初の漫画家という夢からはちょっとズレてはいるんですけど、結局漫画やアニメが好きという気持ちはずっと変わらないので、そこに違った形で携わっているなというのがありますね。
──ちなみにどういった漫画やアニメがお好きだったんですか?
工藤:『りぼん』とか『なかよし』が小学生の時はすごく好きで。例えば、『ご近所物語』とか、あの辺りが世代ですね。夕方には大体『りぼん』のアニメがやっていたので観ていました。そこから中学生になってくると、ジャンプ作品にハマるようになって。よくある王道の流れですね(笑)。
──若い頃からさまざまな経験をした中で、声優として生きていくと決意されたのはいつ頃だったのでしょうか?
工藤:決意したのは、21歳とかかな?とはいえ声優のお仕事は15歳から始めていたんですけど、周りが大学に進学して就職活動を本格的に始めている中で、「くどはるは何をするの?」「これからどうするの?」と聞かれることも増えてきて。そこで自分は改めて何がしたいんだろうと考えた時に、一番やりがいを感じてもっともっとやりたいと思ったのが声優のお仕事でした。だから、私は大学を卒業したら声優としてやっていくぞという風に決意しましたね。
──ターニングポイントになった作品はありますか?
工藤:やっぱりデビュー作の『ハチミツとクローバー』はターニングポイント。あとは、声優として復帰してからの『BanG Dream!』が一番大きいですね。もちろん『BanG Dream!』以外にも声優に復帰してから携わっていますけど、名前をいろんな人に知ってもらうキッカケになったのは2016年の『BanG Dream!』ですね。
──『BanG Dream!』の流行具合は凄まじいものがありましたよね。
工藤:そうですね!すごかったです、勢いが!
──工藤さんは普段、声で役を演じ分けられるわけじゃないですか。素人の質問で大変申し訳ないのですが、声で演じるってどういう感覚なんですか?
工藤:もちろん、女優業として、CMやドラマ、映画にも10代の頃は出演させていただいていて、演技レッスンも受けていたりしていたんですけど。声優業は、絵を観ながらそれに合わせてお芝居をするということだろうと思っていたんですけど、いざやってみると、すごく繊細なんです。それは息遣いとか様々なんですけど。ドラマや舞台とは違って自分が動くわけではないから、「おはよう」のひと言だけでも、距離感やその時のキャラクターの心情を声だけで表現しないといけない。そこが映像のお芝居とは違うなと。私はそこにやりがいを感じたんですよね。
──声のお仕事をされているからこその歌唱だと思うんです。繊細な声色の使い分けやもちろん全曲工藤さんが歌唱されているんだけど、本作は1曲1曲表情が変わって聴こえてくるアルバムだなと拝聴して感じました。
工藤:ありがとうございます!
作詞は“パンチライン”を考える
──本作『Welcome to Humarhythm』は、工藤さんがすべての歌詞を担当されています。歌詞を書く際、テーマ設定などでは原体験が元になることが多いですか?工藤:原体験からだったり、映画や小説も好きなので、自分が触れた作品からオマージュではないけど、風景を浮かべたりなど、そういったところから落とし込んだりすることもありますね。
──なるほど。歌詞を書く際のポイントはどのようなところに置かれていますか?
工藤:伝えたいことを書くとなった時、伝えたいことをすべて書いてしまうとお腹がいっぱいになっちゃうし、逆に伝わらなくなってしまう。実は私、HIPHOPが好きなんですけど、俗に言う“パンチライン”っていうのかな、「絶対に伝えたいのはここ!」という部分だけを大切にして、それまでの道のりを書いていくことを重点的に意識していますね。
序盤にいきなり伝えたいことをバッと書いて、そのあとも印象的な言葉が続いていってしまうと本当に伝えたいことが分からなくなってしまうので。引き算という言い方はあれですけど、そこはすごく意識しています。バランスですね。
──HIPHOPがお好きなんですね!
工藤:ちょっと意外でした(笑)? まあ、ラッパー要素はないですもんね(笑)。
──アニメや漫画の他にも音楽は工藤さんにとって欠かせないものですか?
工藤:そうですね、音楽もすごく好きです。クリエイティブなことに触れるのが好きなのかなって思います。
──ちなみにHIPHOPはいつ頃から聴いているんですか?
工藤:HIPHOPは中学生の頃にDragon AshとかRIP SLYMEとかが流行りだして、ブームだったんですよね。そこから入っていって、しばらくバンドにハマっていたのでHIPHOPからは離れていたんですけど、最近はHIPHOPのジャンルが細分化され始めていて、また聴き始めるようになりました。しばらく離れていたら面白いことになっていたんですよね。
──確かに、HIPHOPってここ数年で市民権を獲得しましたよね。でも意外な一面でした。
工藤:そうですよね。実はヒップホッパーなんですよ(笑)。
制作を共にする平地孝次との関係値
──頂いた資料では、推し曲に平地孝次さんをフィーチャリングに迎えた『Stargazers』を選ばれていますが、平地さんとは多くの作品で制作を共にされています。平地さんとの制作はいかがですか?ここまで制作を共にされていると“相棒”のような存在でもあるのかなと勝手に想像してしまうのですが。工藤:いやいや!相棒だなんて!まだ肩を並べるところまでも行ってないですよ!本当に“神”って感じの存在なんですけど、ずっと一緒に制作をやってきてついに一緒に歌えるようになったというので、私が少し近づけた。前に進めたなと思いますね。
──平地さんが制作されるサウンドにはどういう印象を持たれていますか?
工藤:想像を超える。いつもこういう風に作ってくださいというお願いを送ったりしているんですけど、そこを超えてくるものを返してくださる。予想がつかないトリッキーな方だなと思っています。サウンドのテンポチェンジとかも1曲に対して、3〜4曲の要素が詰まっていたりとか(笑)。時には王道のポップスも作ってくださったりするので、なんでもできる方だなって。
仮歌もいつも平地さんが歌ってくださっていて、歌もすごく上手くて、ご自身でもバンドでボーカルをやられているので、本当になんでも出来る方です。
自分らしさ、人間臭さを表現した本作
──本作のコンセプトはどのようなものになりますか?工藤:タイトルが「Welcome to Humarhythm」ということで、自分らしさ、人間臭さみたいなものを出したいなという意図があって。デビューしてから2年くらいの間にリリースした楽曲を改めてツアーで歌ってみた時に、うまくまとめてしまっているなと感じてしまったんです。本当はもっとこういうことを言いたかったんだけど、うまくまとめなきゃという方向に寄せてしまっているなというのを自分で気づいて。歌詞に関して、次の作品ではうまくまとまってなくても本音を書きたいと思ったので、そこを意識しました。
──本音を出そうと思った明確なキッカケはあったんですか?
工藤:『Because I am...』が一昨年の夏に書いた曲で。思っていることやありのままの自分をぶつけて書いてみようと思ってこの曲を書いた時に、一度「うわ、大丈夫かな、これ?」って思っちゃったんですけど、自分で歌ってみたら腑に落ちたというか。納得することができたので、この方向性で次のリリースはやってみよう、この感じで色々と書いていけたらいいなと。だからこの曲がキッカケですね。
──確かに、〈151cmの〉という歌詞は工藤さんご自身のことですもんね。
工藤:そうです、そうです(笑)。私の身長です。
──最初書いた時に、「大丈夫かな?」と思われたのはなぜだったんですか?
工藤:なんだろう?私は辛いんだよって言っちゃってるというとこですかね。今までは、辛いけど進んでいく、頑張る!みたいな無理やりポジティブに持っていっていたんですけど、この曲はもうちょっと苦しんでいたいなというのがあって。最終的に自由な世界に羽ばたくわけでもなく、引き続き不自由な世界に居続けるというので、なるべくゴールがなく、諦めを受け入れているところも表現しましたね。
サビで〈心が叫んでる〉ってもがき足掻いた結果、最終的に辛いんだよ!って言っちゃうというのが、自分としては新しいかなという。今までにはなかった。
──改めて歌詞を読むと、これってきっと”人生”ですよね。
工藤:そうですね!大丈夫じゃないけど大丈夫って言っちゃう、けどそれはしょうがないからって肯定するような、いろんな思いを馳せながら書きました。
──本作は自分らしさや人間臭さが念頭にあるからか、ベクトルが自分に向かっているものが多いですよね。
工藤:そうですね。サウンドはポップだったり激しかったりするんですけど、割と内にこもっているなと思いました。
──サウンド的にはロック調な楽曲が多かったと思うんですが、これは意図してこのような仕上がりになった?
工藤:私がラウド系好きということもあって、自分でソロをやるのであればそういうサウンドがいいですと言いました。平地さんの電子音も私の声にマッチしていると思っているので。ただ、バラードが少ないなと思いました(笑)。
──そう! 1曲しかないですよね。
工藤:今回はライブに向けて1曲ずつYouTubeに公開していこうというスタンスで始まって、そこから間が空いて、また次のライブがあるから曲を作っていこうとなった時に、曲数が増えてきたからアルバムにできるんじゃないかという感じで進んでいったので。バラードがまさかの1曲しかないけど、まあいいかって(笑)。
──『Autumn Dream』がバラードですけど、1曲しかないということで完全にアルバムのギミックになっていますよね。
工藤:ありがたいです。絶対真ん中だろうと思って、ここに入れました(笑)。
──でも今の話を聞いていると、すごく健康的なアルバム制作ですよね。曲が増えたからアルバムが完成してしまったという。
工藤:そうなんですよ〜。よかった〜。
生み出すのが大変だった「Secret Summer」の歌詞
──ちなみに工藤さんが歌詞を書かれるタイミングってどんな時ですか?降ってくるタイプですか?工藤:いや、降ってこなくて……。いつも喫茶店とかに行って「出てこない〜!」って頭を抱えています(笑)。だから書くと決めて書くタイプなんだと思います。
──なるほど。収録曲の中で苦労した楽曲はありますか?
工藤:うーん、『Secret Summer』がいちばん時間が掛かったかもしれないですね。早くに楽曲は来てたんですけど、何も出てこなくて伸ばし伸ばししてました。
──そこからどのように解決されたんですか?
工藤:最初はちょっと切ない感じの曲でお願いしていたんですけど、ポップで激しめの曲が届いたので、どうしようとなって(笑)。でも、変えてくださいというまででもないし、これで書いてみようと思ったら、何も思い浮かばなくて。そんな時に友人と気晴らしで海に行ったんですけど、そこで青春している人たちをたくさん見て。こういう瞬間を書いたらこの曲にハマるかもと思って、そこで書いていったんです。
私自身がインドアなので海の思い出がなくて。だから想像で捻り出して書いていった感じですね(笑)。花火をしている人や、そこで見た情景を思い出しながら書きました。
工藤晴香の推し歌詞とは?
──UtaTenには恒例の質問がありまして、好きなフレーズを聞いているのですが、収録曲の中で、工藤さん推しのフレーズを教えてください。工藤:なるほど!何にしようかな〜。じゃあ、まずは推し曲の『Stargazers』から、ラストサビですかね。〈泣きたいのなら、泣いていいんだよって2人は 心から ありがとうって笑うよ〉から最後までの歌詞がお気に入りです。フィナーレ感というんですかね。ずっと離ればなれだった2人が最後にやっと会えるみたいな、そこの掛け合い感がよく出来ていると思っているので、ぜひ歌詞を見てもらいたいです。カラオケでも誰かと一緒に歌ってほしいです。
──男女で歌うからこその旨味もありますよね。
工藤:そうですね。この曲、締め切りが七夕だったので、七夕をイメージして書いたというか、そういったことを心に留めながら書いていました。あまりダイレクトに織姫・彦星ということは言わずに!(笑)。
──他楽曲はどうですか?
工藤:あとは、『LIVE Anthem』の歌詞は全部気に入っているんですけど、もともとライブの帰り道に聞いてほしいという意図で作っていて。だからラスサビかな?「またね」という言葉がすごく好きで、未来があるなと思っているので〈「またね!!」の未来を口ずさもう ずっと〉という歌詞は好きですね。
ライブが終わった後に「またね」と言っていることに気づいて、それがずっと続けばいいなという意図があって書いたので、ここは気に入っています。
──最後にもう1曲お願いします!
工藤:最後は、やっぱり『Because I am...』の〈151cm〉シリーズはすごく好きですね。中でも、冒頭かな? 〈「迷子のお知らせ」 鳴り響くwarning sound 151cmのstray sheep “オウチは何処?” 突き進んでcrash down いじめないでsweet heart 思うほど強くないんだから〉の箇所はすごく気に入ってます。
──151cmってリアルですよね。より人間っぽいっていうか。
工藤:あはは(笑)。私ですよ〜ってことですからね。ただここまで自分をアピールすることってあまりないです。自分の名前が入ってる曲もあって、『K to the D H to the R』なんですけど、そことはまた違う「これってくどはるのことなのかな?」って思わせるというか。でも誰にでも当てはまるので、カラオケで歌う時には180cmって言ってもらってもいいし、そういう面白い要素も意識しました。
成長を感じることができた1枚
──改めて、本作は工藤さんにとってどういったアルバムになりましたか?工藤:久しぶりのフルアルバムというのと、制作の仕方が前回とは違っていて。先程お話ししたように、作った曲が増えてきたからアルバムにしようということだったので、負担がないと言ったら違いますけど、クリエイティブを続けていたらいつの間にか1つの集大成になっていた。私としてもいつの間にか生まれていた存在というか。それでいて、いざ1つのアルバムとして全体を聴いた時に、全国ツアーを経ての成長や歌詞の書き方が変わったことなど、私自身の成長を感じる1枚にもなったと思います。
このタイミングで改めて、2022年にリリースしたフルアルバム『流星列車』を聴きかえすと全然違う作りになっていたので、また新しい自分が生まれたんだなと思うし、特別な1枚になりました。
──やはり音楽という存在はいちばんストレートに工藤晴香を表現できる場所でもある?
工藤:そうですね!それがいちばん大きいです。舞台や自分が声優として関わっている作品のライブなどはキャラクターありき、ストーリーありきという側面もあり、自分を全面に出すということはないので、ソロの場合は工藤晴香という名前を背負ってやっているし、「これが私です」ということを見せることができるのは本当にありがたいです。
──最後に今後の展望を教えてください。
工藤:ゆくゆくはバンドスタイルで全国をまわりたいです。せっかくリリースしたからには作品を大切にしたいので、このアルバムを引っ提げたツアーもできたらいいなと思います。
あとは、リミックスがすごく好きなので、いずれこのアルバムのリミックス版もリリースできたらいいなと思っています。
TEXT 笹谷淳介
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