ボカコレ2023春で2位に選ばれた注目曲を徹底解釈
ボカコレ2023春(The VOCALOID Collection 〜2023 Spring〜)の参加楽曲であり、堂々2位にランクインしたいよわの『一千光年』。いよわが過去に制作した楽曲で使用した初音ミク・v_flower・歌愛ユキ・GUMI・可不・星界・足立レイ・裏命・花隈千冬・VY1・SOLARIAが全て集結しており、非常に豪華な楽曲となっています。
YouTubeで公開されているMVでは、全編を通して初音ミクが黄緑色の絵の具で線を引くアニメーションが流れ、楽曲と合わせていよわのボカロ曲への愛が感じられるような作品に仕上がっています。
惜しくも優勝は逃しましたが、プロセカことリズムゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」のゲーム内楽曲として実装され、多くのファンに喜ばれています。
この一千光年では、どのようなメッセージが込められているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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「どこへ行こう」と話しかける
窓の中 じきに春
「そこへ行こう」と思いふける
白紙の地図さえも持たずに
かわいいわがままを言って
その隣で歩きたいな
かっこいいことを言って
振り返って笑えるかな
≪一千光年 歌詞より抜粋≫
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この曲をボカロ曲への想いを綴ったものと解釈すると、主人公はボカロ曲を生み出すいよわ自身で、共に楽曲を作り上げるボーカロイドたちへ語りかけている構図が見えてきます。
「どこへ行こう」という言葉は、音楽を通してどんな世界を描こうかと相談している様子を想像させます。
世界を作るのは自分自身のため、今の地図はまだ白紙です。
しかしそれすらも持たないということは、型にハマらずもっと自由に音楽を作っていきたいという気持ちの表れなのではないでしょうか。
ボカロPは「かわいいわがままを言って」自分の思い描くようにボーカロイドに歌ってもらいます。
続く歌詞には「その隣で歩きたいな」ともあり、これからもそうやって歌う彼女たちを一番近くで見ていたいと願っているようです。
このフレーズをボーカロイドたちの中で唯一歩ける二足歩行ロボットの足立レイが歌っていることも、お互いを想い合う相互関係が表現されているようで素敵ですね。
そして、いつか振り返った時に幸せだったと笑えるような音楽人生を歩みたいという想いが伝わってくる気がします。
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退屈の土にまいた種が
押し流されるような日々が
ぬかるむ道を進みながら
霧を晴らしながら
≪一千光年 歌詞より抜粋≫
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種は芽吹くことを願ってまくものですが、必ずうまくいくわけではありません。
大量の雨に種が押し流されることもあれば、せっかく芽吹いても霧で濡れて成長が止まることもあります。
それは人生と似ていると言えるかもしれません。
退屈な人生を多くの可能性を秘めた音楽で彩ろうとしても、周囲の影響や自分自身の問題によって苦しむ事態になることがあります。
先が見えず冷たい霧の中を進むかのような不安な日々に諦めてしまいたくなることもあるでしょう。
それでも「ぬかるむ道を進みながら 霧を晴らしながら」日々を生きていこうと、前向きでいることの大切さを教えてくれています。
ボーカロイドは一千光年先へ
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一千光年先へ
途切れない音で教えて
その髪に光を編んでいたい
昨日新しくした靴も
すぐに ほつれちゃうから 愛しいんだ
生きていても
死んでいても
どっちでもいいんだよ
愛があるだけ
恋焦がれても 触れられるのは
夢の中だけ
だから
≪一千光年 歌詞より抜粋≫
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タイトルでもある「一千光年」は、遥か遠い未来のことを指していると解釈できます。
自分がいない遥か遠い未来でも、自分が紡いだ音楽が途切れず残り続けてほしいと願っているということです。
いよわの楽曲に『1000年生きてる』がありますが、この曲では一千光年としていることでさらに長く加速をつけて駆け抜けていくようなイメージを伝えてきます。
また「昨日新しくした靴もすぐにほつれちゃうから愛しいんだ」という一節からは、不完全なものこそ大切にすべきだというメッセージが感じ取れます。
人間も人間が生み出すものも皆、完璧とは言えません。
それでも愛がある限り、互いに輝いていられるはずです。
ボーカロイドたちは現実には触れられない存在ですが、音楽を作り出す時だけは手を取り合っています。
別次元にいる両者が繋がるその時間を幸せに思う温かい気持ちが感じ取れますね。
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「どこへ行こう」と話しかける
青い床に寝そべる
残りの今日と踊り出す
白紙のはずだった布切れに
おどけたジョークを言って
吹き出させてやりたいよな
新しいことを言って
それアリって思えるような
未来を
君は
≪一千光年 歌詞より抜粋≫
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「残りの今日と踊り出す」のフレーズからは、人生の残り時間が減るのを悲しむのではなく、一日一日を大切に楽しんで生きようとする考え方が見えてきます。
白紙で始まった布切れには、今やたくさんの世界が描かれています。
それでも満足せず、これからも新しいものを生み出してそれを誰かに認めてもらいたいと思っているようです。
ボーカロイドが世に出始めてから、文化として定着するまでには時間がかかりました。
しかしボカロ文化が世に広まったことで、音楽の世界もさらに大きく広がっていったと言えるでしょう。
「新しいことを言ってそれアリって思えるような未来を」彼女たちが作ってきたのです。
そして同時に、これからも新しいものが否定されず自由に受け入れられる未来を切り拓く存在であってほしいという想いが示されているように思えます。
「熱異常」と対比している?
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一千光年先へ
千切れない糸で つないで
その袖に恋を隠してみたい
大切に数えていた年も
すぐに追い越してしまう誰かが
そばにいても
離れていても
どっちでもいいんだよ
愛があるだけ
大事なことは忘れないのが
嬉しかっただけ
≪一千光年 歌詞より抜粋≫
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「その袖に恋を隠してみたい」は初音ミクのアームカバーをモチーフにしたものと思われますが、袖に恋を隠すという表現が印象的です。
春を告げる花と言われる椿には“袖隠し”という名前の品種があります。
あまりに美しいために武士が袖に隠して持ち出したとの言い伝えから、この名前がついたそうです。
その点を紐づけてみると、この恋心を彼女が袖にそっと隠して大切にしてくれたらいい、またはそういう優しい恋の歌を書きたいというような気持ちが考察できます。
歳を取らないボーカロイドたちは、幼かったリスナーたちにもすぐに歳を追い越されてしまうものです。
それは少し寂しくも思えますが、そのリスナーたちがずっと「そばにいて」聴き続けてくれようと、大人になって「離れて」いってしまおうと「どっちでもいいんだよ」と歌います。
いつか振り返って「この曲が好きだった」と思ってくれるだけでいいのです。
ここで出てくる「大事なこと」には、楽曲を聴いた時に感じた愛や喜び、感動といった感情が含まれているのかもしれません。
そうした気持ちをいつまでも忘れないでいてほしいという願いが見えてきます。
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the light will lead us to the stage.
Someday we'll reach for the star.
≪一千光年 歌詞より抜粋≫
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最後の英語詞は、和訳すると「光が僕らを舞台へと導く。いつか僕らは星にたどり着くだろう」となります。
星といえば、いよわが足立レイを初めて使用して制作した『熱異常』の歌詞に登場する「黒い星」のフレーズが思い出されますね。
また『熱異常』では「なにかが来ている」と歌っていて、世界が滅亡に向かう様子が描かれていました。
一方で『一千光年』では「light(光)」や「reach for the star(星にたどり着く)」という表現が使われ、世界がいつまでも続いていくことへの願いが綴られています。
今作のMVも『熱異常』と対比した構図となっていることから、正反対の未来を示していることが読み取れるでしょう。
このことから、未来がどうなるかは分からないけれどこの歌がいつまでも輝き続けられるという希望を持って進んでいきたいと、前向きな気持ちを言い表しているように思えます。
ボカロ愛が詰まった春ソングに感動!
いよわの『一千光年』は、春らしい優しいメロディと温かい歌詞が心に響くボカロ曲です。作詞・作曲からMV制作まで全てを自身で手がけるいよわのボーカロイドへの愛が、存分に感じられたでしょう。
ぜひ様々な視点で歌詞の意味を考えながら、じっくりこの楽曲を楽しんでくださいね。