失恋した女性目線のラブバラード
『高嶺の花子さん』や『クリスマスソング』など、曲調を問わずたくさんのラブソングを世に送り出してきた back number。情緒的なメロディーと切ない歌詞でリスナーの心を癒す、言わずと知れた大人気ロックバンドですね。
今回考察するのは、そんな彼らが2024年1月24日に配信リリースした『冬と春』。
失恋した女性目線の歌詞が多くのファンの共感を呼んでいる、季節感あふれるラブバラードです。
MVの概要欄には、作詞を手がけた清水依与吏(Vo.Gu)が「“じゃあこの人半分ずつにしましょう”ってわけにはいかないからね。」とコメントしています。
等身大の切ない片思いがつづられた『冬と春』の歌詞には、はたしてどのような意味やストーリーが見出せるのでしょうか。
「選ばれなかっただけの私」
まずは1番の歌詞から見ていきましょう。
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私を探していたのに
途中でその子を見つけたから
そんな馬鹿みたいな終わりに
涙を流す価値は無いわ
≪冬と春 歌詞より抜粋≫
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冒頭の歌詞からは、好きな人が「私」ではなく「その子」を選んだという事実が切なく伝わってきますね。
かつての主人公の胸の内には「彼こそが運命の人だ」という思いがあったのかもしれません。
しかし彼は別の子を選び、「私」の恋はあっけなく終わりを迎えます。
「涙を流す価値は無いわ」と強がりながらも、主人公はどこか納得がいかない様子です。
次の歌詞も見てみましょう。
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幕は降りて
長い拍手も終わって
なのに私はなんで
まだ見つめているの
≪冬と春 歌詞より抜粋≫
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大きな失恋により、1つのショーが終わったかのような心地になる「私」。
「長い拍手」が起こっていたのは、自分自身に対して「よく頑張った」という思いがあったからでしょう。
ただ、そんな思いがありながらも主人公は一点を見つめ続けます。
このまま終わってしまいたくないという「私」の余韻や未練が伝わってきますね。
続いて、サビの歌詞です。
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嗚呼
枯れたはずの枝に積もった
雪 咲いて見えたのは
あなたも同じだとばかり
嗚呼
春がそっと雪を溶かして
今 見せてくれたのは
選ばれなかっただけの私
≪冬と春 歌詞より抜粋≫
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たとえ同じ景色を前にしても、二人が同じものを見ているとは限りません。
「枯れたはずの枝に積もった雪」は、「私」にとっては希望に満ちた花で、「あなた」にとっては他愛もない雪だった。
彼と同じものを見ていると思い込んでいた主人公ですが、恋の終わりに直面してそうではなかったと悟ったようです。
春が雪を溶かすことで再び見えてきた、変わり映えのない見慣れた景色。
いまだ花開かない寒々とした枯れ木に「選ばれなかっただけの私」が重なります。
片思いする「私」の台詞と本音
ここからは、2番以降の歌詞を見ていきましょう。
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あんなに探していたのに
なぜだかあなたが持っていたから
おとぎばなしの中みたいに
お姫様か何かになれるものだと
面倒くさくても
最後まで演じきってよ
ガラスの靴を捨てた誰かと
汚れたままのドレスの話
≪冬と春 歌詞より抜粋≫
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自分一人では見つけられなかったものを「あなた」が持っていた。
それはきっと「ガラスの靴」のような、ハッピーエンドへの糸口のことを指しているのでしょうね。
二人で幸せに暮らす結末を夢想していた「私」ですが、現実は厳しいものでした。
「面倒くさくても 最後まで演じきってよ」という言葉には、たとえバッドエンドでも物語を中途半端に終わらせたくないという強い気持ちが読み取れます。
そしてその物語は「私に合うガラスの靴を捨てたあなた」と「選ばれずに悲しみに暮れている私」との切ない恋物語。
「汚れたままのドレス」で、主人公の独白は続きます。
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嗚呼
冬がずっと雪を降らせて
白く 隠していたのは
あなたとの未来だとばかり
嗚呼
春がそっと雪を溶かして
今 見せてくれたのは
知りたくなかったこの気持ちの名前
≪冬と春 歌詞より抜粋≫
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冬の雪が白く隠していたのは「あなたとの未来だとばかり」。
主人公は、冬の終わりとともに二人の春が始まると思っていたのでしょう。
しかし、いざ春が来てわかったのは「知りたくなかったこの気持ちの名前」でした。
片思いの相手に愛が芽生えていたと、主人公は気づいてしまったのかもしれません。
続く歌詞はこちらです。
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似合いもしないジャケット着て
酔うと口悪いよねあいつ
「でも私そこも好きなんです」
だって
いい子なのね
でもねあのね
その程度の覚悟なら
私にだって
≪冬と春 歌詞より抜粋≫
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他人に言われたことや自分で思っていたことが交錯しているような歌詞ですね。
好きな人への悪口に対して「でも私そこも好きなんです」と切り返す様子は、一見すると健気に見えます。
ただ、ここだけに括弧がついているのは、主人公自身、彼の短所に対する不安をヒロインとしての台詞で誤魔化していた可能性もありそうです。
彼のすべてを受け入れる覚悟で、恋するヒロインを演じていた「私」。
そんな彼女の物語も、いよいよフィナーレを迎えます。
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嗚呼
私じゃなくてもいいなら
私もあなたじゃなくていい
抱きしめて言う台詞じゃないね
嗚呼
枯れたはずの枝に積もった
雪 咲いて見えたのは
あなたも同じだとばかり
嗚呼
春がそっと雪を溶かして
今 見せてくれたのは
選ばれなかっただけの私
ひとり泣いているだけの
あなたがよかっただけの私
≪冬と春 歌詞より抜粋≫
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「私じゃなくてもいいなら 私もあなたじゃなくていい」。
続く「抱きしめて言う台詞じゃないね」というフレーズからは、この強がりとは裏腹に彼の胸に飛び込みたいという「私」の本音がうかがえます。
同じ景色のなか、同じ未来を見ていると信じていた冬。
雪が溶け、変わらず自分が一人ぼっちだと気づいた春。
「涙を流す価値は無いわ」と強がっていたものの、選ばれなかった「私」はひとり寂しげに泣きます。
ここで流した涙と「あなたがよかっただけ」という言葉は、きっと心の底から湧き出してきた純粋な感情の表れなのでしょうね。
選ばれなかった「冬と春」を超えて
今回は、back number『冬と春』の歌詞の意味を考察しました。冬から春にかけての切ない失恋模様が情感たっぷりに伝わってくる歌詞でしたね。
片思いや失恋をして間もない人にとっては、とくに心に染みわたる楽曲だったのではないでしょうか。
枯れた枝を覆う雪に花を見ていた主人公。
のちにまた枯れ木が顔を出したとはいえ、その木はきっとこれからの季節に本物の花を咲かせることでしょう。
『冬と春』の主人公にも、この歌を聴くあなたにも、先の未来で春夏秋冬を分かち合える人との新しい出会いが待っているといいですね。
今は選ばれなかっただけのすべての「私」に幸あれ。
Vocal & Guitar : 清水依与吏(シミズイヨリ) Bass : 小島和也(コジマカズヤ) Drums : 栗原寿(クリハラヒサシ) 2004年、群馬にて清水依与吏を中心に結成。 幾度かのメンバーチェンジを経て、2007年現在のメンバーとなる。 デビュー直前にiTunesが選ぶ2011年最もブレイクが期待でき···