ボカコレ2024冬の優勝作品をチェック!
原口沙輔による5作目の合成音声使用楽曲となる『イガク』は、「ボカコレ2024冬(The VOCALOID Collection〜2024 Winter~)」TOP100にて優勝を飾った作品です。投稿から24時間足らずで殿堂入りを達成しており、注目度の高さが窺えるでしょう。
また、3月6日公開のBillboard JAPAN「ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20」でも首位を獲得しました。
「イガク」というタイトルから、医学に関係する楽曲であると見られます。
音楽は人を癒す効果があるため、ボカロPには音楽を処方する医師としての側面があると言えます。
どのような内容となっているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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ドクター・キドリです
愛・爆破ッテロ
簡単になれば
埋まった マター マター
ドクター・キドリです
愛想良いかも
朦朧 オオトも
埋めた メタ メタ
≪イガク 歌詞より抜粋≫
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主人公は「ドクター・キドリ」なる人物です。
これはキドリという名前の医師のようでもあり、“医師気取り”とも取れます。
「簡単になれば埋まった」というフレーズは、技術の進歩により誰でも手軽にボカロ曲を制作できるようになったことを表しているのかもしれません。
数多のボカロPが気軽に参加者の枠を埋められるボカコレでは、ボーカロイドやリスナーへの愛がない参加者もいることでしょう。
そうした利益だけを求めて参加する人の音楽は心に響かないので、人を癒せない“医師気取り”だと訴えていると解釈できます。
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何処にも無いから寝ていたら
壊れて泣いてるユメを診たんだよ
次期には 嘘に診えてクルゥ
≪イガク 歌詞より抜粋≫
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この部分には、主人公がドクターを名乗るようになったきっかけが綴られているようです。
自分を癒してくれる薬が「何処にも無い」ため、苦しさを我慢して寝ていると「壊れて泣いてるユメ」を見ました。
そのことをきっかけに、自分を最初の患者として診る「ドクター・キドリ」となったのでしょう。
とはいえ「嘘に診えてクルゥ」ということは、夢か現実か分からない状態と思われます。
あくまで医師気取りなので、自分の見ているものの意味が分からなくなっているのではないでしょうか。
MVに描かれた模様文字の意味は?
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カオが→鈍器になっちゃうヨ
偽が→権利を取ったんだ
無くなってほしい煩悩が
ドウヤラ生き延びてしまった
生き延びてしまったんだ!!
足が→タガメになっちゃうヨ
嘘が→動機になったんだ
疑ってほしい本能を
ドウヤラ本心だと思った
本心だと思ったんだ!!
クチョォ
≪イガク 歌詞より抜粋≫
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「偽が→権利を取ったんだ」というフレーズは、当初エイプリルフールのジョークとして制作され、その後本当のバーチャルシンガーとなった重音テトを表していると思われます。
本来は偽りだったはずの重音テトが権利を勝ち取り、今やバーチャルシンガーとしてボカコレで1位を獲得するまでの存在となりました。
それはなくなってほしいと思っていた“愛されたい”“有名になりたい”という煩悩が生き延びた結果なのかもしれません。
続く「嘘が→動機になったんだ」という歌詞は、原口沙輔を含め本名を隠してSASUKEとして活動していたことに由来すると考察できます。
実際の姿からかけ離れていないとはいえ嘘をついて始めた音楽活動が、本名で活動したいと思う動機づけとなったのでしょう。
主人公の創作活動は本心からしたくて行ってきたと思っていたものの、実は本能に駆り立てられていただけだったことに気づいたようです。
「クチョォ」は韓国語で「そうです」という相槌を意味する「그렇죠(クロッチョ)」の短縮系「그쵸(クチョ)」のことと考えられます。
この印象的なフレーズがさらにリスナーの心を惹きつける要素となっています。
さらに、この後MVに登場する模様文字の意味も気になるポイントです。
これはローマ字に対応しており、タイトルと共に映し出される模様文字を解読すると「ZANNENDANE(ざんねんだね)」と読めるため、MVの概要欄にある「残念!」というコメントと一致します。
夢と現実、本能と本心の違いを目の当たりにした人々を「残念だね」と哀れんでいるように思えます。
また、続いて展開される模様文字には「私の好きなボーカロイドであり ボカコレであり 文化であり 音楽という創作であり 表現であり 感動でありたい その心を忘れて結果に固執する人間は その心を忘れて 全員潰します」というメッセージが隠されているようです。
ボーカロイドや音楽に対するひたむきな想いが伝わってくると同時に、その気持ちを忘れている創作者たちへ警鐘を鳴らしていることが読み取れます。
そして「全員潰します」という宣言通り、ボカコレで1位を獲得した点も含めて愛の偉大さを感じずにはいられません。
制作者の気持ちが届かないリスナーたちへ
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ドクター・キドリです
全部辞めろよ
アティチュードが
感動物に届く猛毒
損得の得の方ダケ
回った 割った 割った
≪イガク 歌詞より抜粋≫
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「アティチュード(attitude)」は、相手と接している時の態度や立ち居振る舞いのことを指す言葉です。
これは制作者が音楽に込めた思いや意図のことと解釈できます。
損得の得ばかりにこだわる制作者の意図が音楽を通してリスナーの心に「猛毒」のように回り、リスナーの純粋な心が割れて評価至上主義の風潮が蔓延していく様子を表現しているように感じます。
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音が→機能になってしまう
人が→偽りに集まる
塞がってしまえよ耳
ドウヤラ届いて居ない診たい
届いて居ない診たいネ゛
クチョォ
≪イガク 歌詞より抜粋≫
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そうして偽りの存在であるボーカロイドに人々が集まってきました。
しかし「音が→機能になってしまう」ともあることから、そのリスナーたちは猛毒に侵され音楽を心から楽しんでいないのかもしれません。
また「ドウヤラ届いて居ない診たい」は、どんなに重要なメッセージを訴えても真面目に聴いてもらえなければ制作者が込めた真意が伝わらないことを示していると考察できそうです。
「塞がってしまえよ耳」という言葉から、ボカロPとしてその風潮に怒りを感じていることが伝わってきます。
そういう意味では、評価の高さにつられて聴く曲を選ぶリスナーに対しても問題提起していると言えるでしょう。
この曲はドクターが主人公であることから「医学」を意味していると考察しましたが、自流とは異なる学派を表す「異学」を指しているとも考えられます。
人が歌う本来の音楽とは異なるボカロ曲の文化が認められるようになると、今度はボカロ曲を使って利益を得ることだけを考える人たちが出てきます。
そのように逸れた道を進む人に向けて、もっとボーカロイドへの愛や感動を大切にするべきではないかと問いかけているように感じますね。
ボカロ愛を感じる歌詞とMVを楽しもう
原口沙輔の『イガク』は、独特なサウンドと歌詞が癖になる中毒性の高いボカロ曲です。損得関係なく音楽作りに打ち込むボカロPとしての想いが伝わってきたのではないでしょうか。
ぜひMVの映像にも注目しながら、楽曲に込められたメッセージをさらに深掘りしてみてください。