映画「四月になれば彼女は」主題歌の歌詞・MVを解説!
2024年3月15日発売の藤井風の新曲『満ちてゆく』は、佐藤健・長澤まさみ・森七菜共演の映画『四月になれば彼女は』の主題歌として書き下ろされた楽曲です。『四月になれば彼女は』は川村元気のベストセラー小説を原作とした作品で、10年にわたる愛と別れを壮大なスケールで描いたラブストーリー。
その愛をテーマにした作品の主題歌として、藤井風が人生初のラブソングとなる『満ちてゆく』を制作しました。
柔らかなピアノの旋律と優しく心地よい歌声が美しく重なり、彼の楽曲らしい雰囲気をベースにしつつ愛にフォーカスしたことが感じられる楽曲となっています。
リリースと同時に公開されたMVの監督は、映画と同じく山田智和監督が務めています。
ある男性の一生を描いたストーリーから、楽曲に込められた想いがより一層伝わってくるでしょう。
MVの冒頭では次のセリフが語られます。
things change, and we can do nothing about it
just letting go, feeling lighter, and becoming filled
Overflowing
これは「物事は変わりゆく、そして私たちはそれに対し何もできない。ただ手放し、軽くなり、満たされる。あふれ出す」と訳せます。
タイトルの「満ちてゆく」に関連するフレーズが含まれていることから、楽曲のテーマがこのセリフに集約されていると言えるでしょう。
では歌詞の内容とMVのストーリーから、この言葉の意味を考察していきましょう。
手放すことで心を満たすのが愛
車椅子に乗る老齢の男性は、自宅でノートにペンを走らせています。
それは「This is the story of my beloved mother.(これは最愛の母の物語である)」の一文で始まっており、自分の人生を母親の愛が救い支えてくれたと感じていることが読み取れますね。
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走り出した午後も
重ね合う日々も
避けがたく全て終わりが来る
あの日のきらめきも
淡いときめきも
あれもこれもどこか置いてくる
それで良かったと
これで良かったと
健やかに笑い合える日まで
≪満ちてゆく 歌詞より抜粋≫
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1番の歌詞は、どんなに素晴らしい日々や出来事にも必ず終わりがあることを示しています。
いつまでもこんな幸せが続いてほしいと強く願っていても「避けがたく全て終わりが来る」ものです。
ずっと覚えていたいと思えるときめきを感じる瞬間も、時が流れていく内にいつしかどこかに置いてきたかのように思い出されなくなってしまいます。
物事が変わりゆくのを人の力ではどうにもできず、様々な後悔に苦しむ人も多いでしょう。
しかしだからこそその人生と向き合い、大切な人と「健やかに笑い合える日まで」懸命に生きてゆくことが重要なのかもしれません。
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明けてゆく空も暮れてゆく空も
僕らは超えてゆく
変わりゆくものは仕方がないねと
手を放す、軽くなる、満ちてゆく
≪満ちてゆく 歌詞より抜粋≫
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明けては暮れてゆく空を超えてゆくということは、日々を生きているということに他なりません。
そして空が絶えず変化するように、人生には変化がつきものです。
その中で何かを失いそうになる時、人は失うまいと必死にそれを掴むのが普通でしょう。
とはいえ、ここでは「手を放す」ことが「満ちてゆく」ことと関連していると伝えています。
「変わりゆくものは仕方がないね」と失う自然の摂理を受け入れて手放すなら、しがみついていた時よりも気持ちは軽くなり、穏やかさを得た心は満たされていきます。
形あるものは失っても代わりに得られるものがあり、それが人生を豊かにしてくれるのでしょう。
男性の人生には、いつも母親の優しいまなざしがありました。
母親が亡くなってからも彼女がいつもすぐそばにいるように感じるのは、それだけ深い愛を受け取っていたからなのでしょう。
人生における大きな変化の1つは、愛する人の死です。
それは仕方ないで済ませることのできないつらく悲しい出来事ですが、死を受け入れてそれまで繋いでいた「手を放す」ことで受けていた愛を客観的に見て改めてその大きさを実感できるはずです。
そうして愛で心を満たされたために、つらいことも笑って話せるようになれたのではないでしょうか。
愛される為に愛していては心が渇く
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手にした瞬間に
無くなる喜び
そんなものばかり追いかけては
無駄にしてた"愛"という言葉
今なら本当の意味が分かるのかな
愛される為に
愛すのは悲劇
カラカラな心にお恵みを
≪満ちてゆく 歌詞より抜粋≫
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心の底から欲しかったものを手にした途端に、不思議とそれまで感じていた熱が冷めてしまうのを感じたことがあるでしょう。
いつか消えると分かっていながら、手にするまでの強い想いを「愛」と呼んで追いかけてきた日々。
その解釈が間違っていることを悟ったのは、「愛される為に愛す」自分に気づいたからのようです。
結果を求めているから、結果を得ると同時に想いが消えてしまうのです。
愛とは見返りを求めず、純粋に捧げるものなのではないか。
歳を重ね経験を積んできた今の自分なら、「愛」という言葉の本当の意味が分かるような気がします。
男性が青年だった頃は会社員として忙しく働き、うまくいかない日々に疲弊していました。
鬱憤が爆発し、酒に酔った勢いで暴力沙汰を起こしてしまうほどです。
それでも、そこに喜びや愛があると信じてがむしゃらに突き進んでいました。
そんなある日、心がカラカラに渇いた状態で乗っていた電車の中で母親の幻影を見て、彼は追いかけます。
どこを探しても見つからない母親は、彼が追い求めている愛そのものを表現しているように思えます。
全て差し出すのが本当の愛
母親の幻影を追いかけた先でたどり着いたのは、子どもの頃に母親と入ったピアノハウスです。
再びそこでピアノを弾きながら、母親との思い出を懐かしむ姿が映し出されます。
そうして彼は自分が本当に追い求めていた愛に気づきました。
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開け放つ胸の光
闇を照らし道を示す
やがて生死を超えて繋がる
共に手を放す、軽くなる、満ちてゆく
晴れてゆく空も荒れてゆく空も
僕らは愛でてゆく
何もないけれど全て差し出すよ
手を放す、軽くなる、満ちてゆく
≪満ちてゆく 歌詞より抜粋≫
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注がれた愛が「胸の光」となり、闇のように暗い前方を照らして行くべき道を示してくれます。
愛の絆は生死を超えて繋がり、残された人に前に進む勇気と力をもたらしてくれます。
「晴れてゆく空」と「荒れてゆく空」は、人生の浮き沈みを表しているのでしょう。
人生は良いことばかりとはいきませんが、つらい経験すらも愛でる気持ちがあればどんな出来事も乗り越えていけるはずです。
物質的なものは「何もない」としても、愛する人のために自分自身を「全て差し出す」という献身的な想いが本当の愛なのかもしれません。
MVでは様々な場所で母親の存在を感じ、心を立て直していく様子が見て取れます。
そして自身の死を悟った男性は車椅子を懸命に進め、アートギャラリーに飾られた母親の絵を見に行きます。
そこに描かれた表情は穏やかで温かく、愛は受ける側だけでなく与える側も満たされた気持ちになることを教えてくれるでしょう。
自分の人生を振り返って書き綴った後、ついに力尽きて机に突っ伏した彼に若かりし頃の母親が優しく毛布をかけます。
命が尽きる瞬間まで母親の愛を感じ続けた男性の人生は、「これで良かった」と思える幸せなものだったに違いありません。
美しい愛の歌で心が満ちてゆく!
藤井風の『満ちてゆく』は、見返りを求めず一心に注ぐ愛の美しさや温かさが表現された楽曲です。MVを見る限り、母子の間にある愛情を描いてはいますが、その献身的な想いはどの関係においても共通して見られる愛そのものを表現していると言えるでしょう。
心が満たされる音楽に包まれながら、歌詞に込められた愛のメッセージについて深く考えてみてくださいね。