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斉藤和義「かげろう」のような記憶は、無理して忘れなくていい

罪悪感や後悔、悲しい別れ。理由はどうであれ、人には忘れたい記憶というものがある。けれど記憶というのは頭にインプットされたら最期、もやもやとはっきりしなくなっても頭の中に残り続けて忘れられることはない。


罪悪感や後悔、悲しい別れ。

理由はどうであれ、人には忘れたい記憶というものがある。けれど記憶というのは頭にインプットされたら最期、もやもやとはっきりしなくなっても頭の中に残り続けて忘れられることはない。

斉藤和義43枚目のシングル『かげろう』は、そんな陽炎のように残り続ける記憶の取り扱い説明書のような楽曲だ。いくえみ綾の大人気少女漫画「潔く柔く」が映画化した際の主題歌として書き下ろされた。原作は主要人物である瀬戸カンナや赤沢禄を初め、彼らを取り巻く人物に焦点を当てたオムニバス形式で展開。主演に長澤まさみ、岡田将生を迎えた映画版では、最終章にあたる「カンナ編」を中心に物語が進んでいく。

“大切な人を失っても、人はまた愛することができるのでしょうか。”

高校1年生の夏、主人公のカンナ(長澤まさみ)は花火大会の夜にクラスメイトに告白をされる。しかし、同じ頃に大切な幼馴染:ハルタ(高良健吾)がカンナの携帯にメッセージを残した直後に交通事故に遭い他界。その一件から、恋もできないまま社会人になったカンナは、とあるバーで出版社勤務の青年、赤沢禄(岡田将生)にからまれ…。

幼馴染の事故が原因で心に傷を負ったカンナの視点で描かれたこの楽曲。忘れたくても忘れられない記憶を持つ人へカンナからの手紙とも受け取れる。歌詞でひっそりと優しく綴られた、彼女のメッセージとは?


斉藤和義「かげろう」

――――
泣いたよ 泣いたよ 小さな海ができるほど
ひとりで ひとりで 鍵をかけた夏の中で
蝉が鳴いているね あの日と同じように
ごまかそうとしたけど 心は知ってた

――――
カンナの心は幼馴染のハルタが死んでしまった夏、15歳で止まっている。それでも無常に時は過ぎ、携帯に残ったハルタからの最後のメールも消せないまま大人へと成長。その間に原作では本音を言い合える親友とも出会えるわけだが、心の傷は癒えない。ただ本人は、傷跡をごまかせるくらいにはハルタの一件に折り合いをつけようとしていた。

しかし、1度ついてしまった傷は消えない。忘れたい記憶を忘れようとすればするほど、くっきりと頭の中で再生されるように。抱えてしまったものは、最後まで手放すことはできないのだ。歌詞では、その抱えてしまったものを“止まった時計”に例え、次のように綴られている。

“強くなりたくて 歩き出してみる”
“止まった時計を 胸に抱いたまま”
“人混みに押されて とりあえず覚えた笑うフリ”


たとえ、前を向いて生きていこうと思っていても抱えたものを捨てることはできない。重いものを胸に抱いて運ぶように歩いていくことになる。もちろん、時間に押されて進むことはできる。

ただ、忘れたい記憶と付き合っていくことができなければ、記憶が頭の片隅でチラついて何をするにもぎこちないものになるだろう。つまり、無理矢理消そうとするのではなく上手く自分の中で消化するしかないのだ。

また、生きていれば人には必ず出逢いがある。出逢いは新たな関係を作り、自分にはない考えやアドバイスをもたらし、心に変化を生む。相手の何気ない一言で、しっかり折り合いがつけられるようになっている場合だってあるのだ。

「なくならないよ。一生抱えて生きていくしかないんだ」

禄がカンナに言ったように、受け入れること。

無理して忘れなくていいことをこの楽曲は教えてくれる。


TEXT:空屋まひろ

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