人間活動からの再始動
宇多田ヒカルが音楽活動を再開することが話題なっています。2016年4月15日には新曲MVを公開していました。宇多田ヒカルは、2000年代初頭に活躍したシンガーソングライター。デビュー当初から非凡な才能を発揮した宇多田ヒカルは、瞬く間に人気を獲得。
ヒット曲を数多く連発しますが、人間活動に専念したいということで、2010年からしばらく芸能活動を休止していました。
矢口真里の起用で抗議がきて、放送休止になった日清カップヌードルCM。かつては、宇多田ヒカルの楽曲も日清カップヌードルのCMに使用されてしました。
喜びと悲しみのキスアンドクライ
その曲の一つが『Kiss&Cry』。2007年発表の曲です。キスアンドクライとはスケート選手が結果を見る場所のこと。喜びと悲しみが交差することからこう呼ばれます。この曲は、喜びと悲しみを含めた、恋に落ちる感情を歌っている曲。CMはストーリー仕立てのSFアニメ。背景で流れるこの曲がハマっていました。宇多田ヒカルの公式MVでも、このアニメが使用され、キャラクターが歌詞にあわせて口を動かします。なぜ、恋の歌がSFアニメとハマっているのでしょうか。
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もっと近づいて(kiss and cry)
我慢しないで(you are my)
少しケガをしたって(natural high)
まあいいんじゃない
≪Kiss&Cry 歌詞より抜粋≫
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このサビの歌詞。「もっと近づいて」「我慢しないで」「少しケガをしたって」と、「づーいてー」「しなーいでー」「したーってー」とリズムを作っています。
そこに「キースアンクラーイ」「ユーアマーイ」「ナーチュラハーイ」と、似た響きで掛け合いを作り、こっそり「い」の音で伏線を仕込んでいます。
そして「まあいいんじゃない」と「い」の音を全面に持ってきて、サビラストで「きっさんくらーい あああい」と、「い」の音でしめる構成。
心地よすぎる言葉のリズム
「てー」とのばす音から、「い」とリズムを刻む音に自然に変わり、歌詞が入ってきやすくなるんですね。宇多田ヒカルの場合、歌詞カードにのらない「あああい」というフェイクでもリズムを作っています。これが余韻になり、タイトルの印象が残ります。この類いまれなリズム感が日本人離れしていて、だからこそ日本人にとっての近未来感にマッチしました。
このSFアニメは、未来の世界で月に住む少年が地球を目指すストーリー。少年がケガをしながら、大人に反発しながらも、地球を目指して旅立ちます。
「もっと近づいて」「我慢しないで」「少しケガをしたって」という歌詞、さらにこの後にくる「夜空のパイロット」「ムーンライト」という歌詞がきちんと物語にリンクしているのです。
恋に落ちたらなら我慢せずに近づいて!という歌詞が、憧れている場所があるならケガをしてでも挑戦して!というアニメの主人公への歌詞にもなっているんですね。
「もっと勇気出して」と挑戦をうながし、さらにうまくいかなくても「まあいいんじゃない」と励ます歌になっています。
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お父さんのリストラと
お兄ちゃんのインターネット
お母さんはダイエット
みんな夜空のパイロット
孤独を癒すムーンライト
今日は日清CUP NOODLE
≪Kiss&Cry 歌詞より抜粋≫
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天才の音ハメ術
宇多田ヒカルはタイアップもぬかりありません。「りすとらっと」「いんたねっと」「だーいえっと」「ぱーいろっと」「むーんらいっと」ときて、「かっぷぬっーど」と無理なく音をハメてきます。日常の家族の中に、カップヌードルがある光景が浮かびます。作詞しているうちに、たまたま「日清カップヌードル」という歌詞がハマったと発言している宇多田ヒカル。
この単語を違和感なく入れ込むことができるのも、宇多田ヒカルの力。
恋の歌としても、SFアニメの曲としても、カップヌードルタイアップ曲としても成り立っているこの曲。こういう曲を作れるのが、宇多田ヒカルなんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)