WANIMAの勢いが止まらない。
2016年1月、財津和夫「切手のないおくりもの」のカバーがカーセンサーのCM曲になり、全国的にも認知されてきたであろう彼ら。既に昨年のロックフェスでも大人気で、私は3回ほどWANIMAの出演するフェスに行ったにもかかわらず、入場規制で1回しか見られなかった悔しい思い出も…。WANIMA…今年こそはたくさん見たい。
さておき、バンドの合言葉が「ワンチャン」だったり、ラジオでのトークが漫才みたいにくだけていたり。歌詞もちょっとエロいので、WANIMA=盛り上げ担当のバンド、というイメージを持っている人もいるかもしれない。
実際、ライブはすごくすごく盛り上がる。
魅力は、キャッチーで骨太。
でも、その音楽性は、キャッチーながら骨太。一度聴いたら忘れられない中毒性がある。そして、どこか懐かしくて哀愁を感じる。それは1stアルバムに収録の「1106」という曲に集約されているように思う。チャラいんじゃないの? パンクなんじゃないの? というイメージの彼らの風貌からは想像しがたいくらい、実直な思いを歌っているからだ。
まるで手紙のような「1106」
「1106」は、「拝啓」ではじまり「敬具」で終わる、古風な手紙のような曲。KENTA(Vocal/Bass)が亡くなった故郷の祖父に向けて書いたメッセージソングなのだ。WANIMA-1106 (OFFICIAL VIDEO)
"拝啓
新しい生活に慣れてきたところでしょうか?
心配な事は沢山ありますが そっちに海はありますか?"
歌い出しは、遠くにいる人に語りかけるような言葉。一見すると、お母さんが上京していった子どもに「元気ですか?」と書いた手紙、のように見えるかもしれない。
でもこれは、KENTAが天国に行ってしまったおじいさんに「そっちの生活には慣れましたか?」と投げかけるメッセージだ。
"昔ながらのお菓子が好きで
いつもの席 縁側へ
陽が差すタバコの煙さえも
鮮明に覚えてる
子守唄はトントン船の音
沖に向かう
晴れの日も雨の日も曇りの日も
子守唄はトントン船の音
沖に向かう
晴れの日も雨の日も曇りの日も
波に揺られて…"
頭をよぎるおじいさんの姿
そしてKENTAは、縁側で煙草を吸っていた、おじいさんの姿を今も思い出す。子守唄は、おじいさんが運転する船の「トントン…」という音。穏やかな毎日が思い浮かぶような歌詞。彼は相当なおじいちゃん子だったに違いない。
"遠く驚く程に遠く
旅立つあなた遥か彼方
ねぇ想うように歌えばいいと
思い通りにならない日を
そう教えてくれたね
教えてくれた…ねぇ?"
今でこそ、売れっ子バンドになったWANIMA。でも、かつてはライブの観客が10人以下という時期も経験したという。辛かったことも、悩んだこともあっただろう。
でも、おじいさんが「おまえのやりたいようにやればいいんだよ」と教えてくれたから、きっと頑張れた。最後の問いかけ「…ねぇ?」は、空を仰いで涙を飲み込んでいるようだ。
"声が聴きたくなって
あなたの真似をして笑った
4時49分 ありふれた景色が変わった"
でも、会いたい今、大事な人はもういない。聞きたい声=おじいさんの声が聞けないから、自分でその真似をしてみる、というのがじーん、とくる…。
"風は冷たく格子戸揺らす
隙間風で冷えた身体を
弱音ひとつ吐かず海へと向かう
平気なフリに何度助けられただろう…"
WANIMAはいつも笑う
WANIMAは、いつも笑っている。人生の楽しい面だけを聴く者に見せてくれるような、底抜けの明るさがある。でも、そんな芸当はきっと強くなきゃできない。強さの意味を教えてくれたのは、おじいさんの背中だったのだ。寒い中でも毎日毎日、海に向かっていく姿。それは自分自身の務めでもあるし、家族への愛や優しさでもある。「平気なフリ」という言葉からは、辛い時こそ頑張るのが男だろ!という泣き笑いのような決意が読み取れる。
曲名になっている「1106」というのは、おじいさんの命日「11月6日」のことだそう。「4時49分、ありふれた景色が変わった」というのも、KENTAにとって大きな転機となった出来事があったのだろう。例えば、何かの報せを受け取ったとか…。
そして「1106」のMVが撮影されたのも、彼の故郷・天草の海だ。おじいさんの眠る海に向かって、まるで語りかけるように歌われている。
この曲を聞くと、私も、故郷で一緒に暮らしていた祖父のことを思い出す。小学生の時、上級生にからかわれていた私を、いつも助けてくれた祖父。その背中も、やっぱり大きかった。今になって「おじいちゃん、ありがとう」と思うのは、きっと、真摯な思いが詰まったこの曲を聴いたから。
"何処に居るかわかるように
気付くように手を振る…
碇をおろした場所からも
見えるように手を振る…"
1106 歌詞¦WANIMA
WANIMAも私たちも、「ありがとう」の気持ちを伝えたくて、空に向かって手を振り続けるのだ。
TEXT:佐藤マタリ