相対性理論の名を一躍広めた代表曲『LOVEずっきゅん』。摩訶不思議な歌詞とやくしまるえつこの不安定なボーカルが独特の魅力を作っています。ちなみにホスト6人組グループが歌う『LOVEドッきゅん』という曲が存在しますが、『LOVEずっきゅん』とは全く関係ありません。
相対性理論が日本のバンドであることは、音楽好きには有名。しかし、この曲が発表された当時、このバンドは謎に包まれていました。2006年結成、2007年に発表した自主制作音源『シフォン主義』。このアルバムは評判を呼び、2008年には全国に流通、第1回CDショップ大賞の大賞を受賞します。
このアルバムのリード曲こそが『LOVEずっきゅん』。相対性理論の名を広めた曲です。
“ここ ここ ここはどこ 宇宙 わたし中央線乗り越して気付いた 明日は始業式
にく にく にく 憎らしいあいつのタイムマシンは 時空間ひとっとびにきのうへ消えてゆく”
「ここ ここ ここはどこ 宇宙 わたし中央線乗り越して気付いた 明日は始業式」この導入からしてすごいですね。宇宙と中央線が歌詞に同時にくる曲はまずないです。音の響きの良さ、言葉のチョイスの意外性。「わたし」と「あいつ」の関係が近づいてく様を「宇宙」「タイムマシン」「発明キッド」などの言葉で表現しています。
まず、「ここはどこ 宇宙」という表現で、心がここにあらず宇宙に行っているかのような状態であることが分かります。「あいつのタイムマシン」で「きのうへ消えてゆく」のも、あいつの影響で心が昨日に行く状態。ぱっと聴いた時によく意味が分からなくても、実はきちんと成り立っているところがすごい点。
“ここ ここ ここはどこ どこ
わたし中央線乗り越して気付いた 明日は始業式”
また、「ここはどこ 宇宙」と言っていた歌詞は、ラストで「ここはどこ どこ」と変化しています。より自分の所在が曖昧になり、心境が変化していることが分かるようになっている巧みな構成。
“すき すき すき 隙だらけ あいつ発明キッド
欠かさずつけてる秘密のダイアリー”
「すき すき すき 隙だらけ」という表現。「すき」という言葉の響きで「好き」を連想させつつ、まずは「隙だらけ」という表現でフェイントをかける見せ方。サビにくる「ラブずっきゅん」の伏線をここに仕込んでいます。
「あいつ発明キッド 欠かさずつけてる秘密のダイアリー」というフレーズで、「わたし冒険少女 アマゾン帰りの恋するハイティーン」と対比。「わたし」のイメージが活発で、「あいつ」のイメージが知的だということが伝わる歌詞。一見、シュールでおかしい歌詞に見えて実はイメージを連想させやすいフレーズです。
“ラブ ラブ ラブずっきゅん ラブ ラブ ラブずっきゅんだね
ラブ ラブ ラブずっきゅん 君にほらラブずっきゅん
ラブ ラブ ラブずっきゅん ラブ ラブ ラブずっきゅんだよ
ラブ ラブ ラブずっきゅん 君にほらラブずっきゅん
君にほらラブずっきゅん”
サビでは、ひたすらタイトルフレーズの「ラブずっきゅん」を繰り返します。この言葉のインパクトもさることながら、それも飽きさせないように「だよ」「だね」と語尾を変化させ、バックの演奏も変えています。実は、ギター、ベース、ドラムがカッコいい曲。
MVは、ジャンボジェットが飛ぶ映像に天気予報情報の字幕が表示されるだけのシンプルな映像。メンバーも全く出てこないシュールなMVは、暗号が隠されています。表示される都市の頭文字を連ねると「とうきょうとしんはぱられるわあるど(東京都心はパラレルワールド)」になります。これは、このバンドの別の曲『ミス・パラレルワールド』に出現する歌詞。こういった工夫も、このバンドならでは。
相対性理論は、この曲発表当時から大きく変化しています。やくしまるえつこの歌がうまくなり、サウンドの中核を作っていた真部は脱退し、グループ自体が変わってきています。この曲は、この当時だからこそ出来た作品なんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)