あいみょん初のサスペンスドラマ主題歌に注目
9月11日リリースのあいみょんの5thアルバム『猫にジェラシー』の収録曲『ざらめ』は、読売テレビ・日本テレビ系ドラマ『降り積もれ孤独な死よ』の主題歌として書き下ろされました。講談社のマガジンポケットで連載中の、同名漫画が原作のヒューマンサスペンスであり、あいみょん初のサスペンスドラマ主題歌となった注目曲でもあります。
配信リリースされた7月29日には、MVも同時公開。
映画監督でバンド・Bialystocksのボーカルでもある甫木元空が手がけた作品で、あいみょんが5人の自分を演じています。
今作の「ざらめ」というタイトルが何を意味しているのか、どのようなメッセージを含んでいるのかを理解するために、歌詞の意味を考察していきましょう。
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この胸に刺さった
無名の刃を抜く術は何処
そろそろ こうしてちゃ
手も足も犠牲になるな
どんな角度で狙ってくるのか
予測できない
今すぐ逃げられる強さは
持ち合わせてなかった
≪ざらめ 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭の歌詞から、主人公はすでに傷ついていることが分かります。
「無名の刃」というフレーズについて、あいみょんは現代でよく問題になっている、誹謗中傷をはじめとする言葉の刃をイメージしていると語っています。
誰から向けられたかも分からない「言葉の刃」が胸に刺さって傷ついているのに、それを解決する術を持っていないせいで、さらにつらい状況になっている様子です。
このままでは痛みが全身に広がって、何もできなくなる予感がしています。
言葉の刃は「どんな角度で狙ってくるのか予測できない」ものです。
自分では当たり前だと思っていたことを否定されたり、良かれと思ってしたことを非難されたりすることもあります。
ときにその刃は、切れ味が悪く身を抉るような痛みを与えてきます。
「今すぐ逃げられる強さ」があれば良かったのにと、自分を責める気持ちさえ感じる方も少なくないでしょう。
体を傷つける暴力だけが暴力ではないという真実を訴えかけてきます。
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"感情を殺せ" "惨さは承知で"
自分の胸ぐらを掴んで泣いた
≪ざらめ 歌詞より抜粋≫
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「"感情を殺せ" "惨さは承知で"」と自分を諭して耐えるのは、いつもなぜか被害者側。
名前が分からない加害者を糾弾することもできず、ひたすら苦しむ日々を過ごしています。
だからこそ、感情を捨てなければ自分の心を保つことができないのでしょう。
「自分の胸ぐらを掴んで泣いた」主人公の、悲痛な思いが伝わってきます。
躊躇わず生きる人になりたい
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消えないで 消えないで 消えないで
言い聞かせて また 整える
変わりたい 躊躇わず生きる人に
この長い森の道を 正しく歩けるように
≪ざらめ 歌詞より抜粋≫
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傷つきすぎると、いつの間にか消えてしまいそうになります。
それは自分自身の「心」だったり、人によっては「命」だったりすることもあるでしょう。
それでも「消えないで」と繰り返し言い聞かせることで、何とか心と命の灯火を守って、崩れそうになる自分を整えて、また今日を生きているのです。
主人公は「躊躇わず生きる人」になれたら、もっとうまく生きられると考えている様子。
人生はよく道に例えられますが、湿っぽくて暗く先の見えない「長い森の道」を歩いているように感じる場面もあるでしょう。
街灯がなく、木々ばかりの森の道では景色が変わらないため、選択を間違えると深い森に迷い込んで出られなくなります。
誰もそんな人生を歩みたいとは思わないでしょう。
だから、どんなに悪い状況が続くとしても「正しく歩けるように」、堂々と胸を張って躊躇わず生きたいと、誰しもが願っています。
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やっと見つけた居場所
いつの間に声も出せずに潰れる
押し込んで膨らむ
本当のこと 滲んだノート
≪ざらめ 歌詞より抜粋≫
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暗い森の中でも、ふと陽が差す場所に安らぎを覚えるように、最悪に思える人生の中でも、居場所を見つけてホッとする瞬間があるはずです。
それが他人にとっては良く思えないとしても、「やっと見つけた居場所」は、その人にとって手放せない最高の場所です。
続く部分の「いつの間に声も出せずに潰れる 押し込んで膨らむ本当のこと」とは、自分自身の心の中に溜まった本音のことでしょう。
何かを言えば攻撃されるかもしれないと思うと、何も言えなくなります。
しかし、吐き出せないまま心の中に押し込むほどに、かえって膨らんで大きくなっていくものです。
主人公はノートにその思いを書き留めることで、見失ってしまいそうになっていた自分自身と向き合えたのではないでしょうか。
涙で「滲んだノート」という表現から、主人公の苦しい気持ちと自分の心を大切にする重要性が感じられます。
今闘うべきなのは自分自身
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"現状を剥がせ" "痛みは承知で"
何度も巡らせ 分からなくなった
行かないで 行かないで 行かないで
そう唱えて また 閉じ込める
進みたい それなのに脅されている
今闘うべきものは 呪われた自分の身体
≪ざらめ 歌詞より抜粋≫
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「"現状を剥がせ" "痛みは承知で"」のフレーズから、傷を覆うかさぶたが連想できます。
心に負った傷も、やがては、かさぶたができて治癒していくでしょう。
それを痛みを承知で剥がすのは、早く現状から自由になりたい気持ちの表れかもしれません。
でも考えれば考えるほど、何が最善なのか分からなくなってしまいます。
遠ざかっていきそうな自分に「行かないで」と唱えては、また本当の自分を閉じ込めて周囲に溶け込もうするのでしょう。
本当はここから「進みたい」と願いつつも、「脅されている」かのように委縮して何もできないのです。
そうして気付いたのは「今闘うべき」は、周囲の誰かではなく「呪われた自分の身体」だということ。
周囲の人や状況をコントロールすることはできないからこそ、現状を打開するには自分自身と向き合う必要があります。
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この胸に残った鉛の屑は
いつか溶けるだろうか
≪ざらめ 歌詞より抜粋≫
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時間が経ったり成長したりして言葉の刃そのものは抜けたとしても、胸には「鉛の屑」が残り、ふとした時にまた自分を傷つけます。
それがいつか溶けてなくなるのか、永遠に残ったままなのかは誰にも分かりません。
だから、その傷を抱えて生きる術を、それぞれが見つけていくことが大切です。
タイトルの「ざらめ」とは結晶の荒い砂糖のことで、一般的な砂糖とは異なる、角が立ったざらざらとした質感と純度の高い深い甘みが特徴です。
これは、不器用で周囲に溶け込むのが苦手な人を表しているのではないでしょうか。
他人と混ざり合うのが難しい一方で、その心は純粋で愛すべき存在。
深く傷ついてどうしたらいいか分からなくなる時も、そんな自分が持つ愛おしい魅力を見失ってはいけないと訴えかけてくる気がします。
あいみょんの歌声と歌詞が心の痛みを軽くしてくれる
あいみょんの『ざらめ』は、想いのこもった歌声と真っ直ぐな歌詞で、心の傷との向き合い方を考えさせられる楽曲です。歌詞にポジティブなフレーズはほとんど出てきませんが、だからこそ聴く人にとって現実的で共感でき、微かな希望を見出せる作品になっているのではないでしょうか。
ドラマのストーリーや、自分自身の人生と重ね合わせながら聴いてみてくださいね。