大阪で歌われる名曲
春から、進学や就職で生まれた土地を離れる予定の人、もしくは離れた人も多いのではないでしょうか。昔、大阪に住んでいたことのある私は、上京というと思い出すのはBOROの「大阪で生まれた女」です。
大阪に引っ越した当初は、カラオケに行く人行く人みんながこれを歌うので、びっくりしたおぼえがあります。でもいつの間にか自分も覚えてしまい、以来すっかり大切な歌に。カラオケでも十八番です。
ところで「大阪で生まれた女」って、「踊り疲れたディスコの帰り~」で始まると思っていませんか?間違い…ではないけれど、それは4番の歌い出し。本当の冒頭は、こう始まります。
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放課後のグランドで 待ち合わせて帰る
二人を西陽がつつんでいる
生徒手帳の中の写真が
愛を教えていた
≪大阪で生まれた女・18 歌詞より抜粋≫
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まだ、ディスコなんかに足を踏み入れたことのない高校生の頃の、交際している男女の様子からスタートするんです。
この曲は、一組のカップルが学生時代に付き合い始めて、ある結末を迎えるまでの愛のメモリー。今回は、なんと18番まで続く、その壮大な物語の顛末をご紹介しましょう。
18番まである壮大ストーリー
卒業しても、二人の愛は変わることはありませんでした。でもこのあたりで、男性の側に「大阪を出たい」「東京へ行きたい」という気持ちが芽生え始めます。そして、これに続くのが、おなじみの4番のこの歌詞。
大人になる二人
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踊り疲れた ディスコの帰り
これで青春も終わりかなとつぶやいて
あなたの肩をながめながら
やせたなと思ったら泣けてきた
≪大阪で生まれた女・18 歌詞より抜粋≫
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カラオケでよく聞くのは、ここのフレーズですね!でも、1番からの歌詞を知ると「やせたなと思ったら泣けてきた」という部分で、高校生からだいぶ年を経ているな、と感じられるはず。二人は大人になってきているんです。
膨らむ未来予想図
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大阪で生まれた女やけど
大阪の街を出よう
大阪で生まれた女やけど
あなたについて行こうと決めた
たどり着いたら一人の部屋
青春に心をふるわせた部屋
≪大阪で生まれた女・18 歌詞より抜粋≫
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おそらく、だいたいの人の記憶はここで終わっているのでは?「大阪の街を出よう」と決意した彼女。
この後、二人にどんな未来が待ち受けているんだろう…と想像をふくらませつつ、歌のことは記憶の隅に置いて日常を過ごしてきたという人も多いはず。
でも、続き、あるんです。物語はまだまだ終わっていないんです。
大阪を離れる時
----------------ついに、大阪の街を後にした二人。夢を追おうと意気込む男性に対して、女性は大阪に未練たっぷり。でもついていくと決めたのだから、と決意を新たにします。
ひかり32号に乗って 東京へと
涙がとめどなく流れつづけた
街をすてることの涙と
止める言葉をふりきる涙
≪大阪で生まれた女・18 歌詞より抜粋≫
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ちなみに「ひかり32号」というのは、当時は上京するための最終電車だったのだそう。薄闇の中を東京へ向かう新幹線。闇が深まると、列車の窓には彼女の涙にぬれた顔が、切なく映っていたことでしょう。
上京生活
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今日 西口のロータリーでのもめごと
警官が学生を追いかけてた
生きることに必死の二人には
馬鹿げたことだと思えた
≪大阪で生まれた女・18 歌詞より抜粋≫
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そして、物語は東京編へ。この二人は何と、上京してから、立教大近くの部屋に住んでいたこともあったんです。
「西口ロータリー」とは、池袋駅西口のこと。
でも、静かな住宅街でなく、学生の街に部屋を借りてしまったことで、二人は「自分たちはもう若くない」ということを思い知らされます。きっと、彼らはもうアラサー以上。
「生きることに必死」という歌詞から、上京したものの思うようにはうまくいかず、気持ちのすれ違いも起こっていることがうかがえますね…。
父と娘
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ゆうべ二人の部屋に届いた手紙
つらいメッセージだった
そんな暮らしをはやくやめて
大阪へ帰れと言っている
≪大阪で生まれた女・18 歌詞より抜粋≫
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そんなある日に届いた、彼女の親からの手紙。娘が東京でままならない暮らしをしていることを想像したら、特に父親はたまったものではないでしょう。
「とにかく帰ってこい」と、彼女を説得にかかります。
そして…
訪れる二人の別れ
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なすすべもなく眠る人よ
あなたの夢は終りじゃない
現実にくずれ去ることよりも
現実を生きてほしい
大阪で生まれた女が今日
東京を一人 出て行く
大阪で生まれた女が今日
生まれた街へと帰って行く
≪大阪で生まれた女・18 歌詞より抜粋≫
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なんと…!ついに…!彼女は単身、大阪へ帰ってしまうのです。懸命に夢を追うあまり、彼女にさんざん苦労をかけてきたであろう男性。「待ってくれ」「行かないでくれ」とは、彼女を引き留められなかったんでしょうね。
四面楚歌の状況で、訪れた別れ。でも、高校生からの二人の付き合いを思い返すと、仕方ないとはわかっていても切ないものがあります。
そして、この曲の結末はこう。
いったい、どちらが正解?
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やがて愛する子供が出来
あの青春を思い出す
やがて愛する子供が出来ても
あの日々は消えない
大阪はめまぐるしく変わって行く
時代を創る人達の手で
大阪を変えて行く時代の中で
あなたのうわさを聞くことがある
≪大阪で生まれた女・18 歌詞より抜粋≫
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別の男性と結婚して、子どもをもうけた女性。彼のほうは、東京に残り、ささやかながら成功を手に入れました。もしかしたら、あの時彼女と別れたことが、男性にとって着火剤になったのかも…。
でも、あのまま付き合っていたら、二人にはまた別の未来があった可能性もありますね。彼らにとって、いったいどちらが幸せだったのでしょうか?
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最後の手紙
夢をつかんだ人へおめでとう
大阪で生まれた女より
大阪で生まれた女より
≪大阪で生まれた女・18 歌詞より抜粋≫
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18番にわたる物語は、ここまで。フルで歌うと30分以上にも及ぶ大曲です。
…いや、正確に言うと、ここまで、と思われていました。でも、2015年にBORO本人により続編が作られ、物語は実はまだ続くこととなりました。
なんと、19~21番までが新たに加わったのです!
時が流れて…
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構想で騒がしい上六あたりを
娘の家族と歩いていた
この娘がまだ若い頃に
夢を語って歩いた道
≪大阪で生まれた女 19 歌詞より抜粋≫
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19番では、女性は60代になっています。18番のラストでは、子どもができているところを見ると、女性はおそらく20後半~30代。あれから、30年以上の時が流れたんですね。19番では、女性は「上六」(=大阪府天王寺区の上本町六丁目)に住んでいて、もう孫もいるくらいの年齢。
「構想」とは、橋下徹元大阪府知事が2010年~掲げていた「大阪都構想」のことを指すため、本当に最近の様子が描かれていることがわかります。女性は、今も、大阪のどこかで生きているのです。
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悲しみを乗り越えるのは笑うことやね
そやから うちらは よう笑うたね
あの人が逝かはってから私もだいぶ
無口になったね
≪大阪で生まれた女 19 歌詞より抜粋≫
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「あの人が逝かはってから」という歌詞から、旦那さんを亡くしてしまったことがうかがえます。「うちらは」というのは、旦那さんともあるでしょうし、昔付き合っていた彼にもかかっている言葉でしょう。
つらいことも多かったけれど、たくさんの笑顔が、彼女の人生を作ってきたんですね。だって、大阪で生まれた女ですから。
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古い話を聞かせてカンニン
アンタらは私の誇りやからね
私の肩を叩いてくれる
小さなゲンコツも誇りやで
大阪で生まれた女やさかい
オバちゃんなっても昔のままや
大阪で生まれた女やさかい
自分は歳とらんと思い込んでる
はしゃぐアンタらと何も変わらへん
それが!大阪で生まれた女
≪大阪で生まれた女 19 歌詞より抜粋≫
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でも自分は「大阪で生まれた女」だと誇りをもって、生き抜いていく覚悟のようです。…壮大な人生賛歌に拍手を贈りたいですね。「それが!」の「!」に、女性の底力を感じます!
とてつもない熱が込められた名曲「大阪で生まれた女」。
萩原健一をはじめ鳥羽一郎、五木ひろし、吉幾三、坂本冬美…など歌謡界のそうそうたる面々がカバーしていますが、近年一段と進化したな、と思ったパターンはこれ。
BAKIとRSPのAiによるHIPHOPバージョン(2010年)です。
BAKIは、大阪出身のHIPHOPアーティスト。RSPのAiは京都出身。関西出身者同士がタッグを組んで、相当に気持ちがこもっていることが想像されます。
また、BAKIの歌う部分は、メロディではなくラップ。歌詞も現代風にアレンジされていて、古い歌とは思えないようなキュートな感じがあります。ちなみに、現代版の二人が通うのは「ディスコ」ではなく「クラブ」です。
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どこにいっても付いてこい お前がいなきゃ何も始まんない
足りないものは補って 大きくなって あわせてく足並み
≪大阪で生まれた女 feat.RSP(Ai) 歌詞より抜粋≫
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出逢った瞬間気になりだした 身近になって 気持ち重ね合って
手と手繋いで歩いたデートはミナミ 二人ではしゃいだ
≪大阪で生まれた女 feat.RSP(Ai) 歌詞より抜粋≫
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出逢った瞬間気になりだした 身近になって 気持ち重ね合って
手と手繋いで歩いたデートはミナミ 二人ではしゃいだ
男と女本音の気持ち ぶつけあいながら 増やす愛
ふたつとない人生・物語 人それぞれ違うものばかり
そんな2人出逢えた日 奇跡的 進むべき同じ道
共に泣いて共に笑う 変わらないまま 隣でずっと
≪大阪で生まれた女 feat.RSP(Ai) 歌詞より抜粋≫
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「足りないものは補って」「進むべき同じ道」。
なんだか、BOROのバージョンより前向きに感じられます。黙ってついてこい、というよりは「一緒に生きていこう」という感じ。この二人なら、別れずにずっと一緒に暮らしていけそうかも?
MVを見ると、気が強そうなAiに比べ、BAKIはアーガイル柄のニットを着ていて草食系の男子。語り口も優しいことから、昔とは男女の関係が逆転しているように見えるのも、ちょっとおもしろいところです。
名曲は、時代を越えて進化し続けるんですね。
そう来たら、さらに空想してしまうのは、今後、2016年以降のバージョンの「大阪で生まれた女」ができるのだったら、どうなるのかということ。
サブカル寄りになるのか、はたまた青春ロック?もしくはアイドルの歌う「大阪で生まれた女」?
新世代にも期待してしまいます。「大阪で生まれた女」は、これからも元気に生き続ける、そう信じて。
TEXT:佐藤マタリ