堺雅人が出ているビールのCMを観たことがある人も多いと思います。このCMのシリーズで、軽音ズという女性2人組が登場しました。軽音部だった2人はカラオケを歌います。
この2人組はPUFFYであり、カラオケで歌っているのは持ち歌の『愛のしるし』であることは、一定以上の年代の人ならすぐ分かるでしょう。知らないかもしれない世代に簡単に説明すると、この2人組は90年代にデビューして大ヒットを飛ばした人達です。アメリカの子供向け番組で、アニメキャラになったこともあります。
『愛のしるし』は、そんなPUFFYの代表曲の一つ。1998年に発売された6枚目のシングルで、スピッツの草野正宗が作詞作曲しています。スピッツも念の為説明すると、90年代に大ヒットを飛ばした4人組のバンド。いまだにアリーナツアーを行なうほどの人気をほこります。PUFFYもスピッツもずっと第一線で活動を続けているんですね。
“ヤワなハートがしびれる ここちよい 針のシゲキ
理由もないのに輝く それだけが愛のしるし”
サビから始まるこの曲。「ヤワなハート」は漢字で書けば「軟な心」です。良くいえば柔軟な心、悪く言えば弱い心。そんな軟らかい、手ごたえがないハートが針を刺したように痺れる、それが「愛のしるし」だと歌っています。タイトルを「愛の印」と書くと重く感じるところを「しるし」とひらがな表記で軽くしています。「痺れる」も漢字ではなく「しびれる」とひらがな表記。「刺激」も漢字を使わず「シゲキ」とカタカナです。
このフレーズを全て漢字にするとどうでしょうか。
「軟な心が痺れる 心地よい針の刺激」全然心地よくありません。これこそがPUFFYなのです。PUFFYが歌うと曲が軽く心地よいイメージになる。同時に歌詞表記も柔らかく、軽くなっていくのです。「理由もなく輝く」というフレーズに、なんとなく真実味が生まれ、聴く人のイメージに入りやすくなる。「そうだよね、愛情があるとワケもなく輝いた気分になるよね」と共感しやすくなるんですね。これをあくまでも、チャラ過ぎず真面目過ぎず下手過ぎず上手過ぎず、聴かせる。PUFFYが持つ雰囲気がこの曲を作りました。
“いつか あなたには すべて 打ち明けよう
少し強くなるために 壊れたボートで 一人 漕いで行く”
「いつかあなたには 全て打ち明けよう」ということは、今は打ち明けられていない、ということ。壊れたボートを1人で漕いでいるという表現が、壊れた=失恋、1人=孤独を感じさせます。
“ただの 思い出と 風が 囁いても 嬉し泣きの宝物”
ここでも「ただの思い出」だとしても「嬉し泣きの宝物」だ、と歌います。風が吹いていてただの思い出のように片付けられそう。歌詞の主人公は、思い出=過去を思い出して泣いている。この曲は、実はほろ苦い要素を持っているんですね。
最後の最後で「それだけが」が「それだけで」に変化します。それだけが、とオンリーに感じていたことを、それだけで、と寛容に受け止められるようになった。歌詞の主人公の心が少し成長したことを表現しています。
PUFFYの持つゆるい雰囲気が、この曲のほろ苦さも心の成長も聴きやすい音に変えています。だからこの曲は、時を超えて愛されているんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)