Netflixシリーズ「さよならのつづき」主題歌を徹底解釈!
2024年11月18日に配信リリースされた米津玄師の『Azalea(アザレア)』は、有村架純・坂口健太郎ダブル主演のNetflixシリーズ『さよならのつづき』の主題歌として書き下ろされました。『さよならのつづき』は事故で最愛の恋人を失った女性とその恋人から心臓を提供されて命を救われた男性にスポットを当て、臓器移植の際に起こる“記憶転移”を題材にしたロマンチックで切ない愛の物語です。
そのエンドロールで流れる『Azalea』がストーリーとマッチしていて、共感と感動を呼んでいます。
どのような内容なのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
----------------
咲いてた ほら 残してった挿し木の花 あの時のままだ
私は ただ あの時と同じように 君の頬を撫でた
≪Azalea 歌詞より抜粋≫
----------------
1番冒頭に出てくる「挿し木の花」のフレーズで、ドラマの主軸となる心臓移植を表現しています。
心臓はその人を生かす重要な器官のため、まさに挿し木の差し床のような存在です。
かつて咲き誇る花のように生きていた恋人の面影を他人に感じ、もういないはずの人がそこにいるような感覚への衝撃と愛する人が戻って来たような感動から「あの時のままだ」と思っていることが伝わってきます。
それで主人公は相手がかつての恋人とは他人だと分かっていながらも、思わず「ただあの時と同じように君の頬を撫でた」ようです。
頭ではなく心が反応していることを感じさせますね。
----------------
ずっと側にいてって 手に触れてって 言ったよね 君が困り果てるくらいに
誰も知らぬプルートゥ 夜明けのブルーム 仄かに香るシトラス
二人だけ 鼻歌がリンクしていく
≪Azalea 歌詞より抜粋≫
----------------
思いがけず恋人の面影を見たことで、主人公は過去の出来事を思い返しているようです。
「ずっと側にいて 手に触れてって 言ったよね 君が困り果てるくらいに」というフレーズから、主人公の深い愛情が読み取れます。
愛は感情ですが、行動によって表面化し確立されるものと言えるでしょう。
だからずっと自分の側にいてほしかったし、手に触れて温もりを感じていたかったのだと思われます。
相手を困らせるほど言っていたということは、主人公はどこかその人がいなくなってしまう不安を抱えていたことも感じさせます。
「プルートゥ」とはローマ神話に登場する冥王のことです。
天文では冥王星のことでもあるため、空に星は見えるのに死後の世界にいるとされる冥王のことを生きている人は誰も知らないということを指していると思われます。
同様に、夜明けにひっそりと咲く花も多くの人にとってはいつの間にか咲いているものでしょう。
このように死や愛は目に見える部分が少なく、不確かだから人は死や愛について悩むのかもしれません。
続く「仄かに香るシトラス」というフレーズも印象的です。
香りは記憶と強く結びついているとされており、ある香りを嗅ぐと関連する記憶が呼び起こされることがあります。
恋人との思い出の香りを感じ、その人が実際にそこに存在するかのように鮮明に思い出している様子が読み取れますね。
心臓移植を受けた目の前の彼は自分の恋人とは違う人のはずなのに、同じ香りを好んでいたり同じ曲の鼻歌を歌っていたりするのを知ると姿が重なって見えても仕方ないでしょう。
それほど恋人を強く想っている証拠のように感じます。
アザレアの花から伝わる想い
----------------
せーので黙って何もしないでいてみない?
今時が止まって見えるくらい
君がどこか変わってしまっても
ずっと私は 君が好きだった
君はアザレア
≪Azalea 歌詞より抜粋≫
----------------
「せーので黙って何もしないでいてみない?」という歌詞は、心の繋がりの深さを象徴しているようです。
恋人同士には会話やデートなど様々な行為が伴うものですが、愛し合っていればこそ沈黙や何もしない時間も苦痛を感じずに過ごせるでしょう。
ここでそうすることを提案しているのは、主人公が恋人に対して深い愛と居心地の良さを感じていたからだと解釈できます。
また「君がどこか変わってしまっても」というフレーズは、同じ心臓を持ちながらも器となっているその人自身は別の人に変わっている点に由来しています。
一般的にも歳を重ねたり周囲の状況や環境が変化したりして、考え方や行動の仕方が変わるのはよくあることです。
それでも変わらない部分があるから心が惹かれます。
「ずっと君が好きだった」というストレートな愛情表現が素敵です。
タイトルにもなっているアザレアは西洋ツツジのことで、特徴は大輪八分咲きの豪華な花を咲かせる点と挿し木で殖やすのが容易である点です。
1番冒頭の「挿し木」のフレーズとの関連が見えてきますね。
個体としては別物でありながら遺伝子的には同一のものであるという点が、心臓を移植した相手に面影を感じてしまうドラマのストーリーと重ねて表現されています。
また、アザレアには「愛の喜び」や「節度の愛」など愛にまつわる花言葉があります。
さらに、楽曲のジャケットに描かれているような白色のアザレアには「あなたに愛されて幸せ・満ち足りた心・充足」といった花言葉もあるようです。
愛し合える人と出会えたことの幸せと変わらない想いが、「君はアザレア」という比喩表現に込められています。
----------------
眩むように熱い珈琲 隙間ひらく夜はホーリー
酷い花に嵐 その続きに 思いがけぬストーリー
どうやら今夜未明 二人は行方不明
積み重なるメッセージ そのままほっといて
≪Azalea 歌詞より抜粋≫
----------------
2番の歌詞は、新たな出会いから二人が想いを通わせていく様子を捉えていると考察できます。
「眩むように熱い珈琲」は出会いの驚きを、「隙間ひらく夜はホーリー」はまだお互いに距離を掴みきれていない二人の清らかな時間を指しているのでしょう。
そして想いは高まっていくのに状況がそれを許さない現実が、「酷い花に嵐」のフレーズで示されていると思われます。
しかし「その続きに思いがけぬストーリー」があります。
二人はついに周囲からの「積み重なるメッセージ」も無視して、誰の目も届かない場所に消えました。
「そのままほっといて」という言葉からも、今は二人だけの時間を大切にしたい気持ちが感じ取れます。
愛を表す美しい絵画的表現
----------------
目を見つめていて もう少し抱いて ぎゅっとして
それはクリムトの絵みたいに
心臓の音を知ってエンドルフィン 確かに続くリフレイン
ずっとそこにいたんだね
≪Azalea 歌詞より抜粋≫
----------------
ここまで触角・嗅覚・味覚の表現がありましたが、この部分では「目を見つめていて」とあり、視覚の表現が加えられています。
目を見つめてほしいと願うのは、目の前にいることを感じさせてほしいという気持ちの現れでしょう。
また「もう少し抱いて ぎゅっとして」の表現から、少しでも長く体温を感じていたいという想いも感じられます。
「クリムトの絵」といえば代表作「接吻」が連想されますね。
熱く抱き合い男性が女性にキスする描写を思い浮かべると、主人公がどのように抱き締めてほしいと思っているかがイメージできます。
そして抱き締め合うと、心臓の音が触覚や聴覚を通して伝わってきます。
「エンドルフィン」とは幸せホルモンとも呼ばれる神経伝達物質です。
同じ心臓がそこで鼓動し続けているのを感じ、幸せが湧き上がってきているのが分かるでしょう。
恋人はこの世を去ってしまい自分のそばにはもういないけれど、他の人の心臓としてでも生き続けてくれていることの喜びが「ずっとそこにいたんだね」の言葉から見えてきます。
----------------
遣る瀬ない夜を壊して 感じたい君のマチエール
縺れ合うように 確かめ合うように 触って
≪Azalea 歌詞より抜粋≫
----------------
心が惹かれるのに想いを抑えなくてはならず「遣る瀬ない夜」を過ごしている主人公は、いっそそんな現実を壊したいと思っています。
「マチエール」とは絵画の世界で用いられるフランス語で、絵画表面の質感を表す言葉です。
絵画は色彩だけでなく絵肌の質感によっても伝わるものがあるように、愛する人を写真や遠くから見つめるだけでなく近くで触れてその存在を感じたいという気持ちを示しています。
「縺れ合うように」密接に、そこにいることを「確かめ合うように」触れてほしいと強く願っています。
----------------
泡を切らしたソーダみたいに
着ずに古したシャツみたいに
苺が落ちたケーキみたいに
捨てられない写真みたいに
そこにいてもいなくても君が君じゃなくても
私は君が好きだった
君はアザレア
≪Azalea 歌詞より抜粋≫
----------------
この部分の歌詞は、変化するとはどういうことかを表しているようです。
ソーダは泡があるのが当たり前ですが、時間が経てば炭酸の泡が切れて全く違う飲み物のようになります。
シャツは、着ていなくても古くなっただけで買ったときとは印象が変わるでしょう。
乗っていたはずの苺が落ちたケーキも、捨てられない古い写真も、当初のものとは見た目もそれに対する想いも変わってしまっているでしょう。
しかし、当初のものとは異なっていても本質まで変わっているわけではありません。
同じように「そこにいてもいなくても君が君じゃなくても」変わらないものもあります。
そして「私は君が好きだった」という想いも変わりません。
大きく深い愛を率直に表現する歌詞が心に響きます。
愛について考えさせられる深いラブソング
米津玄師の『Azalea』は人を純粋に愛する気持ちの美しさや尊さを感じられる楽曲です。愛とは変わっていく必然を認め、その上で自分の想いや相手の本質など変わらないものを大切にすることなのかもしれません。
ドラマの内容とどのようにリンクしているのかにも注目しながら、じっくり聴いてみてくださいね。