てにをは×Adoが紡ぐノスタルジックなバラードをチェック!
2025年1月24日に配信リリースされたAdoの『エルフ』は、広瀬すず主演ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』の主題歌です。『クジャクのダンス、誰が見た?』は浅見理都による同名マンガが原作で、クリスマスイブの夜に元警察官の父親を殺された娘・心麦が、父が遺した手紙を手がかりに真相に迫るヒューマンクライムサスペンスとなっています。
その主題歌として『エルフ』を書き下ろしたのは、『ヴィラン』や『ギラギラ』などを代表曲に持つアーティスト・てにをは。
永遠にも思える孤独を背負った人間を、悠久の時を孤独に生き続けるエルフになぞらえた、ノスタルジックでありながらも強いエネルギーを感じるバラードとなっています。
どのような想いが込められているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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走りなさい 疾く もっと疾く 哀しみに追いつかれないように
探しなさい 明かりの灯る道を それはそれは眩いでしょう
≪エルフ 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭では「哀しみに追いつかれないように」走りなさいと促しているため、哀しみが押し寄せている状況が見えてくるでしょう。
哀しみは思いがけないタイミングで人を襲い、避けようがありません。
それでも哀しみに完全に飲み込まれてしまわないためには、立ち止まることなく前進し続けることが必要です。
そして眩い「明かりの灯る道」、つまり自分の支えとなる希望を探して走れと訴えています。
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挑みなさい 君の美しさや尊さを傷つけるモノに
眠りなさい 疲れたら眠りなさい 神話を持たないあの星座のように
≪エルフ 歌詞より抜粋≫
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ここでは「君の美しさや尊さを傷つけるモノ」に「挑みなさい」と歌います。
時には理不尽に自分自身の尊厳や価値を踏みにじる人や状況に直面してしまうことがありますが、それに屈してしまうと大きな絶望を抱えてしまうでしょう。
だからその瞬間は苦しくても、自分を守るために立ち向かうべきです。
とはいえ誰も頑張り続けることはできないため、「疲れたら眠りなさい」とも伝えています。
「神話を持たないあの星座」に該当する星座はいくつかありますが、ドラマのキーワードとなっているクジャクとの関連を考えると、不死鳥をモチーフとする鳳凰座を指していると考えられます。
不死鳥は長命のエルフとも重なり、死に拘束されない自由の存在と解釈できるでしょう。
だから走り続けるのに疲れたら、全てのしがらみから自由になって休息を取る必要があることを伝えています。
忘れることも忘れて帰るべき家を探す

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手を離した後 君は気づくだろう 指の形 体温
その名残が胸を刺す
忘れたことも忘れてしまえ 哀しみも温もりも消えてしまえ
されど 今も耳に残るは 固く再会をうような
「さようなら」
Adieu Adieu
Love You And you?
≪エルフ 歌詞より抜粋≫
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大切な人を失ったとき、それまで目にした輪郭や触れた温かさが心に深く残り、喪失感に胸を痛めます。
しかし、そのつらい気持ちすら時間の経過とともに薄れていってしまうものです。
そうすれば、大切な人を忘れてしまう現実にも苦しむことになるでしょう。
それでここでは「忘れたことも忘れてしまえ」と告げています。
自分が心を痛めすぎてしまうのなら「哀しみも温もりも消えてしまえ」、そして新しいスタートを切るようにと促します。
ただし「されど今も耳に残るは 固く再会を希うような「さようなら」」ともあり、心がどうやっても忘れたくないと思う思い出もあるのです。
だから苦しい気持ちは後にして大切なものは守りながら、一日一日を生きていくべきです。
「Adieu Adieu Love You And you?(さようなら、さようなら あなたを愛している、あなたは?)」というフレーズでも、別れの哀しみと愛の温かさが表現されています。
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踊りなさい 誰に笑われても 淡雪を払う枝のように
叫びなさい 心から叫びなさい ここに確かにいたんだと響かせて
行合いの空に遠花火が滲む
帰るべき家を探す 長い長い旅路を行くなら
≪エルフ 歌詞より抜粋≫
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「踊りなさい 誰に笑われても」とあるように、自分の行動が周囲にどのような反応をされるとしても自分らしくあるのは重要です。
降り積もった「淡雪を払う枝」のようなしなやかな強さがあれば、周りの意見に影響されることはないでしょう。
続く部分では「ここに確かにいたんだ」と示すために「心から叫びなさい」と語りかけてきます。
「行合いの空」とは2つの季節が行き交う空のことで、夏が過ぎて秋に移り変わる頃の空を表す夏の季語。
また、「遠花火」は遠くから見る音のない花火を示す秋の季語です。
季節の移ろいと「帰るべき家を探す」郷愁の想いが伝わってきますね。
「踊りなさい」「叫びなさい」という呼びかけは、いつ辿り着けるかも分からない「長い長い旅路を行く」孤独や不安の中でも自分の想いを貫く大切さを教えてくれている気がします。
君は孤独と戦い続けるエルフ

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高らか鳴らせ その心臓は最後の一打ちまで君の物だ
涙涙 溢れるがいい 降る雫が君の森を育てるだろう
≪エルフ 歌詞より抜粋≫
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ドラマのストーリーで、心麦は自身の出生の秘密に触れていきます。
現実でも問題にぶつかったり人生に行き詰まったりして自分が何者なのか分からなくなり、存在意義を見失ってしまうこともあるでしょう。
しかしここでは「その心臓は最後の一打ちまで君の物だ」と告げています。
自分が何者であろうと、高らかに鳴る心臓の音だけは鳴り始めから鳴り終わりまで全て自分だけのものです。
その唯一の真実のために自分自身を信じて全力で生きるよう、「高らか鳴らせ」というフレーズが教えてくれています。
涙が流れるのはつらい経験ですが、その涙の経験が人を成長させます。
まるで「降る雫が君の森を育てる」ように豊かな実りを与えてくれるでしょう。
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それは千年のホームシックでした 無限さえも数え終えて
怪物のような世界の隅っこで戦い続ける人
君はエルフ エルフ
(愛しき)旅は続く
≪エルフ 歌詞より抜粋≫
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逃れようのない孤独がある現実社会は「怪物のような世界」。
「千年のホームシック」のように、永遠にも思える孤独が続きます。
その「世界の隅っこ」でただ蹲っていることもできますが、「エルフ」は「戦い続ける」孤高の人です。
孤独という哀しく苦しい旅は長く続くものの、どれほど永遠に思えてもやがては必ず終わりが来ます。
ついに終わりを迎えたとき、その旅は「愛しき」ものと思えるでしょう。
その瞬間に辿り着くために、自分を信じ愛を大切にしながら進むように力づけてくれます。
幻想的なMVのストーリーにも注目
Adoの『エルフ』は、てにをはらしい独特で繊細な言葉選びとAdoの豊かな歌声が織り成す葛藤と希望の歌です。イラストレーターの沼田ゾンビ!?が担当するMVでは少女の成長と神秘の交錯する物語が描かれ、楽曲の持つ優しさや温かさがさらに引き立てられています。
ドラマやMVとのリンクを感じながら、楽曲のメッセージを味わってくださいね。