現実とゲームの世界をつなげる
『緑黄色社会』は愛知県出身の男女混合4人組バンドです。「リョクシャカ」の愛称で親しまれる彼らは、2018年に1作目のアルバム『緑黄色社会』をリリースし、それ以降、映画・ドラマ・アニメの主題歌を多数手がけています。
そんな『緑黄色社会』が2025年2月19日に通算5作目になるアルバム『Channel U』を発売しました。
17曲中9曲がタイアップ曲という、ここ数年の『緑黄色社会』の総決算的なアルバムでありながら、バンドの表現を広げる挑戦も垣間見える一枚となっています。
アルバムのタイトル『Channel U』はベースを担当している穴見真吾が考案したそうです。
「Channel (チャンネル)」という言葉を調べるとポピュラーな「電気回路的な意味」以外に「川や水路を意味する canal(カナル)から派生した言葉」の意味と「この世の人とあの世の人をつなぐ」みたいな意味合いで使われることもある、と穴見真吾はインタビューで答えています。
この「Channel」と「あなた(YOU)“のこと」を意味する「U」をつなげて『Channel U』になったそうです。
そんな「何かと何かをつなぐ」ことを意識したアルバム『Channel U』の1曲目が『PLAYER 1』です。
アルバム発売の2日前にMVがYouTubeで公開され、現実とゲームの世界をつなげ「無敵」「ゾーン状態」へと導いてくれる応援ソングになっています。
聴くだけで今日が「最強」になる『PLAYER 1』の歌詞の魅力を今回は考察してみましょう。
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限界突破したいならこの歌に乗っかれ
100%以上のもっとその先へ
擦り切れたHP
まだこんなもんじゃないぜ
本当の人生GAMEはこっからだ
≪PLAYER 1 歌詞より抜粋≫
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まず、「限界突破したいなら」とお伺いを立ててくれます。
「応援」の意味は「力を添えて助けること。加勢」があります。
「加勢」するには合意が必要です。
一方が望んでいないのに応援することは場合によっては迷惑です。
そのため、『PLAYER 1』は「限界突破したいならこの歌に乗っかれ」と、まず手を差し伸べてくれます。
その手を取るなら「100%以上のもっと先へ」と導いてあげる、と。
力強いメッセージですね。
応援される側は現状「擦り切れたHP」です。
そんな状況に対しても「まだこんなもんじゃないぜ」「本当の人生GAMEはこっからだ」と熱い励ましの言葉を投げかけてくれます。
ここで注目したいのが、「本当の人生GAME」というフレーズです。
「本当の人生はこっからだ」でも「本当のGAMEはこっからだ」でもありません。
「人生GAME」なんです。
これはタイトルである『PLAYER 1』とも関係するのですが、一見この曲はゲームの世界に入って別の自分になって励まされる歌詞のように思えます。
実際MVの入りはそのような演出ですし、曲が開始された瞬間にはスイッチを入れたような音も入れられています。
『PLAYER 1』はまず間違いなくゲームの世界に入るのですが、アルバムタイトルの『Channel U』に込められた「何かと何かをつなぐ」という言葉通り、現実とゲームを切り離さず、地続きな人生ゲームをはじめようと言ってくれます。
『PLAYER 1』はゲームでありながら、そこは現実なんです。
ZONEに入るためのプロセス

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どうしようもないほど土壇場
攻めの姿勢でバフかけろ
詰んだと見せてから正念場
≪PLAYER 1 歌詞より抜粋≫
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「人生GAME」のプレイヤーは今「どうしようもないほど土壇場」にいます。
「土壇場」の意味を調べると、「首を切る処刑場。転じて、物事が決定しようとする最後の瞬間・場面」と出てきます。
相当なピンチですが、現代において「首を切る」ほどの困難さは日常的に見かけません。
そのため、「人生GAME」のプレイヤーは「物事が決定しようとする最後の瞬間・場面」にいるのでしょう。
そんな状況にあるからこそ「攻めの姿勢でバフかけ」ます。
「バフ」はゲームで言うところの「キャラクターの能力を強化する」ことです。
そして「詰んだと見せてから正念場」とずいぶん前のめりな姿勢の提案ですが、だからこその続く歌詞に意味が出てきます。
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このモードに入っちゃえば
- 無敵だZONE -
≪PLAYER 1 歌詞より抜粋≫
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「土壇場」で「攻めの姿勢で」「詰んだと見せて」の状態は正直しんどいです。
守りに入りたいですし、せめて詰んでないと誤魔化したくなってしまいます。
けれど、そこを我慢して前のめりになることが「このモード」であり、その先に「無敵」なゾーンが待っています。
「ZONE (ゾーン)」は「超集中状態」とも呼ばれる「1つの活動に没頭するあまり、ほかのことが気にならなくなる状態」です。
スポーツでは「時間が速くなっている、もしくは遅くなっているように感じる」ことも多いようです。
この曲では、その状態を次のような歌詞で表現しています。
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頭ん中バグったように軽い
いま呼吸は整って 超次元的なモーション
誰になんと言われても突き進め
≪PLAYER 1 歌詞より抜粋≫
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頭の中は軽く、呼吸は整っています。
そんな冷静な中で「超次元的なモーション」ができるのです。
確かに「無敵だ」と感じて然るべき状態でしょう。
『PLAYER 1』の歌詞には理屈があります。
何をどうすれば、「ZONE (ゾーン)」に入れるか。
そして、その「ZONE (ゾーン)」はどういう状態か。
ちゃんと説明をしてくれた上で、「誰になんと言われても突き進め」とまっすぐなメッセージを送ってくれます。
しかし、現状打破には足りません。
後半の歌詞の状況はより悪化しています。
そんなときにこそ行くぜ

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相も変わらずまだ土壇場
守る姿勢でどんでん返し
ここが1番の見せ場
いま目の前に立ったのが
- フラグでSHOW -
≪PLAYER 1 歌詞より抜粋≫
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プレイヤーは「まだ土壇場」の中にいます。
前半では「攻めの姿勢で」と歌っていましたが、追い詰められたのでしょう現状は「守る姿勢」に変わっています。
それでも「ここが1番の見せ場」だと言い、続く歌詞では「いま目の前に立ったのが」「ラグでSHOW 」と「どんでん返し」のチャンスはあるんだと、励ましてくれます。
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歯が立たないバグったような敵も
超えていけるはずだって
≪PLAYER 1 歌詞より抜粋≫
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「バグったような敵」とあるように、ここはゲームの比喩です。
『PLAYER 1』はあくまでゲームの世界にいて、現実のプレイヤーを励ます構造になっています。
ゲームにおける「バグったような敵」よりも現実の方がマシかは分かりません。
しかし、ゲームは常に「越えていけるはず」です。
そのように作られているのですから当然ですが、現実もそのように考えてみようという提案がこの歌詞から垣間見えます。
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負けそう!?嘘!?ここで終わりなの!?
そんなときにこそ行くぜ
≪PLAYER 1 歌詞より抜粋≫
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『PLAYER 1』は優れた応援ソングであることは疑いようはありません。
しかし、歌詞を読み解く限り安易に「土壇場」からの解決は見せません。
それどころか「負けそう!?嘘!?ここで終わりなの!?」と完全に終わりを思わせます。
にも関わらず、「そんなときにこそ行くぜ」と背中を押します。
頑張る時は勝っている時ではなく、むしろ負けている時なのかも知れません。
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絶体絶命ってチャンスなんじゃないの?
≪PLAYER 1 歌詞より抜粋≫
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という歌詞は、勝つことの「チャンス」ではなく、あくまで「無敵」なゾーンに入れることを指しているのでしょう。
ゾーンにさえ入れれば、負けても良い。
むしろ、「絶体絶命」の時にこそゾーンに入って頑張れるようになれるようになった方が「人生GAME」においては意義があります。
それは負けそうになっても投げ出さず最後までやる、ということですから。
長い人生の中で考えると勝つことよりも何倍も重要です。
無敵になれば分かること

最後は前半にもあったフレーズの繰り返しです。
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頭ん中バグったように軽い
いま呼吸は整って 超次元的なモーション
誰になんと言われても
- 無敵だZONE -
≪PLAYER 1 歌詞より抜粋≫
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ただし、最後の部分だけ変わっています。
前半では「誰になんと言われても突き進め」です。
ラストは「誰になんと言われても無敵だ zone」で、「突き進め」のフレーズが省略されています。
『PLAYER 1』を最後まで聴いて「無敵」ゾーンに入ったプレイヤーからすれば、言わなくても突き進んでくれるよね? という信頼がラストフレーズに込められているように思えます。
現実の色んな困難にぶつかっていて、それでも頑張りたいと思っている人は是非、「絶体絶命ってチャンス」だという力強いメッセージを聴いて「限界突破」を図ってみてはいかがでしょうか?