亡き友と共作した楽曲で伝える大切な人への想い
2025年3月20日全国公開の映画『少年と犬』の主題歌は、3月12日配信リリースのSEKAI NO OWARIの『琥珀』です。
この楽曲は、Fukaseの友人で2018年に不慮の事故で亡くなったベーシストの千葉龍太郎(新世界リチウム)が制作した未発表曲をもとに、Fukaseが新たなメロディと歌詞を加えて完成しました。
誰の手元にも音源がなかったため、Fukaseが記憶を頼りに10年近い時を経て遂に作品となったという背景は、映画の中で東日本大震災で飼い主を亡くした犬の多聞が人々の想いを繋いでいく様子と重なります。
ピアノとオーボエなどのシンプルな音色が豊かに響き、穏やかなリズムと共に歌詞を心に響かせてくれるでしょう。
どのような想いを歌詞に表現しているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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時間を持て余すたび
出逢った意味など探している
そんなものに縋るのは
人だけだと誰かが
≪琥珀 歌詞より抜粋≫
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大切な人を突然失うと、どれほど時間が経っても「時間を持て余すたび」その人のことを考えるでしょう。
あまりに大きな喪失感を経験したため、その人と「出逢った意味」は確かにあったと信じたくて探し続けています。
ある人は「そんなものに縋るのは人だけだ」と言います。
しかし人だけが意味や理由を探し理解できる心を持つ生き物なら、その特別な心で大切な人を想い続けたいとも感じられるのではないでしょうか。
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忘れるわけないのに
忘れることが兎に角怖かった
私のこの痛みが君との最後の繋がりのような気がして
≪琥珀 歌詞より抜粋≫
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その人は自分にとって「忘れるわけない」と自信を持って言える大切な人です。
それでも忘れたくないと強く思えば思うほど、いつか忘れるときが来るのではないかと怖くなるでしょう。
失って感じる胸の痛みはつらく苦しいものですが、その反面強烈に心に影響を与えるものでもあります。
だから「私のこの痛みが君との最後の繋がりのような気がして」、痛みでもいいから少しも忘れないでいたいと願います。
グラスの泡のような儚さ

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「グラスの泡みたいに消えたように見えたとしても
ちゃんと貴方の心に溶けてる見えなくなっただけ 消せないの」
≪琥珀 歌詞より抜粋≫
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この詩的な表現は、亡くなった人が残された人に対して贈る愛のメッセージのように思えますね。
「グラスの泡」は儚く消えてしまいますが、消えたように見えても泡がそこにあった事実は残ります。
同じように、命も突然失われてしまう儚いもの。
とはいえ、命は尽きても生前関わった人の心の中にその人の存在は残り続けます。
もし記憶を思い出せなくなっても心から「消せない」ことは分かっているから、忘れることを怖がらなくてもいいと言ってくれているような気がします。
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涙が流れるうちは
循環していたものも
また冬が来て
春が来て
それすらままならない
≪琥珀 歌詞より抜粋≫
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思い出しては自然と涙が流れていた間は、泣くことで気持ちを循環させて繰り返し大切な人のことを考えていました。
しかし「また冬が来て 春が来て」とあるように、時間は止めどなく流れていきます。
過去に思いを馳せる時間すら取れないほど、毎日の忙しさに翻弄されます。
泣くことだけがその人を大切に想っていることを示すわけではありませんが、いつしか泣かなくなった自分を薄情だと感じてしまうこともあるでしょう。
しかし亡くなった人が自分の心を理解してくれていると思うと、前向きに乗り越えていけるはずです。
タイトルの“琥珀”が意味するものとは

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いつだって待ってたよ
ドッキリってやつを持って現れて
私の中の淀んだものが
涙になって流れて行くの
≪琥珀 歌詞より抜粋≫
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ここでは、「ドッキリ」だと言ってどこからか現れるのを「いつだって待ってたよ」と告げています。
大切な人を失うというショッキングな出来事が質の悪い冗談であればどれほど良いでしょう。
これが現実だと分かってはいますが、そんなことを考えてしまいます。
本当に居なくなってしまったんだと自覚すると、やはり涙が流れます。
心の中の様々な「淀んだもの」が流れ出ると、残るのはその人を大切に想う純粋な気持ちだけです。
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二人で始めた事
今も一人で続けてる
続けられている 君のお陰で
本当に本当にお陰様だよ
≪琥珀 歌詞より抜粋≫
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「二人で始めた事 今も一人で続けてる」という言葉は、Fukaseと千葉龍太郎との間にある音楽という繋がりを連想させます。
共に肩を並べて楽しんできたものや目指した夢を一人で続けるのは力のいることでしょう。
しかし「君のお陰で」続けられているとも語られています。
きっとやめる方が簡単ですが、その人が大切にしてきたものを守りたいという気持ちや、続けることで存在を感じられることが背中を押しているのでしょう。
それほど大切に想える人と出逢えたことへの感謝が感じられます。
タイトルの「琥珀」は太古の天然樹脂が化石化したもので、癒しと浄化をもたらしてくれる石とされています。
時の流れと共に美しい宝石のように輝きを増し、涙によって心を浄化する人の想いの尊さが伝わってくるタイトルですね。
大切な人を想って聴きたい心に沁みる名曲
Fukaseと千葉龍太郎の共作により生まれたSEKAI NO OWARIの『琥珀』は、大切な人を失う悲しみを表しつつも心に刻まれた愛や感謝などのポジティブな気持ちが反映された楽曲です。忘れることへの恐れを感じる必要はないと温かく包み込んでくれるようなフレーズに、心が軽くなった方も多いのではないでしょうか。
いま大切な人がいる方も、大切な人を亡くして苦しんでいる方も、この楽曲で心を癒してくださいね。
2010年、突如音楽シーンに現れた4人組バンド「SEKAI NO OWARI」。 同年1stアルバム「EARTH」をリリース後、2011年にメジャーデビュー。 圧倒的なポップセンスとキャッチーな存在感、テーマパークの様な世界観溢れるライブ演出で、子供から大人まで幅広いリスナーに浸透し、「セカオワ現象」とも···
