ケツメイシは4人組HIPHOPグループ。2005年の『さくら』の大ヒットで有名です。アルバム名が全て『ケツノポリス』でジャケットも毎回メンバー4人の姿であるという点も特徴。2016年3月発売のシングル『さらば涙』。この曲はヒットした『さくら』に雰囲気が近い曲です。
“さらば涙 いつか泣いた数だけ幸せになる
胸に咲いた花びらが 色づいていく
さらば涙 いい波が音もなく押し寄せてくる
今描いた物語が 幕をあけるように”
冒頭からタイトルの「さらば涙」のフレーズが登場。タイトルからして「さらばなみだ」、母音の音をならべると「aaaaia」と語感が良いのが特徴。まず、このタイトルを持ってくることができるのが、このグループの力。
「さらば涙 いつか泣いた」「胸に咲いた花びらが」「今描いた物語が」このあたりの「さらば」「なみだ」「いつか」「ないた」「さいた」「はなびらが」「いまえがいた」「ものがたりが」という「あ」の音の重ね方に無理がないのが良いですね。歌唱力もあいまって、音の流れが気持ちよく耳に入ってくるようにできています。この曲が涙というマイナス要素にさよならをして、「幸せ」「花びらが色づいて」「いい波」というポジティブな要素に満ちていくことを最初の段階で示しています。
そしてこの曲は、最初に「さらば涙」と言っているにも関わらず、その後何回も「涙」という単語が出てくるのが特徴。涙の効用を説明したうえで、その先に行こうとうったえます。
“泣くだけ泣いたら 吹っ切れたの?
もうその心の傷 癒えたの?”
泣くだけ泣いたら吹っ切れている。もうその心の傷癒えている。そう、断定していいところをあえて疑問形「?」にして、聴く者に問うています。これで聴くほうが自分の頭で一瞬考え、確かにそうだと理解する。ここで涙が「心の傷癒し」効果があることをさりげなく説明しているんですね。
“この先良い事 あるだろうから
流した涙に さようなら
きっと見方を 変えれば明るくなれる”
次にくるこれは「見方を変えれば明るくなれる」というように、「視点の変化」の役割。思いっきり泣くことで、ものの見方が変わる効果があるんですね。
“あるよね泣きたい時 一人になりたい時
瞼が腫れれば腫れるほど あなたが本気になった証拠
涙の分だけ心は軽くなり 強い大人になってくの”
一人になって泣きたい時あるよね、という歌詞。一人になって泣くという一見マイナスに思える行動を肯定しています。涙の「ストレス発散」効果を肯定。
瞼が腫れるほど泣いたのは本気になった証拠だとも言っています。「本気度の証明」。
さらに泣いたことで心が軽くなり、精神的に強くなるという「心の成長」の効果まであります。泣くのも良いことなんですね。
ここまでで涙が「心の傷癒し」「視点の変化」「ストレス発散」「本気度の証明」「心の成長」と様々な効果を持っていることが分かりました。泣くのもいいじゃないか!どんどん泣こう!もうむしろずっと泣いてよう!とすら思うかもしれません。
“まだその涙に 頼ってるの? 新たな自分に会いに行こう”
そこでケツメイシはこのフレーズを出してきます。「まだその涙に頼ってる」。そう、人は自分のマイナス感情に頼ってしまう、ひきずられてしまうことがあるのです。そこをひきずらずに「新たな自分」「始まる第二章」へ行こう、と歌う。次のステージに導いているんですね。
涙の効果を肯定しつつ、「さらば涙」と言う。まるでお医者さんのようですね。それもそのはず!ケツメイシは、薬剤師の資格を持つメンバーがいるグループ。グループ名のケツメイシは下剤などに使われる薬草のことで、「全てを出し尽くす」意味も込められています。「涙を全て出し尽くして次に行こう」というこの歌。このグループだからこそ生まれた曲なんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)