岡崎体育は自らの音楽を「盆地テクノ」と表するソロアーティスト。京都という盆地で生まれたことからこの名をつけています。2012年から活動を開始し、2016年5月にメジャーデビュー。そのデビューアルバムのリード曲こそがこの『MUSIC VIDEO』。ミュージックビデオあるあるを詰め込んだ異色のMV。もちろん歌詞もあるあるの内容です。
“カメラ目線で歩きながら歌う 急に横からメンバー出て来る
突然カメラを手で隠して 次のカットで場所移動している”
まずこの導入が見事。カメラ目線で歌う岡崎体育を通して「そういうのあるわ!」と受け取り手の感情をゆさぶってきます。カメラ目線で歌い、横からメンバーが合流し、カメラを手で隠したと思ったら場所移動している。この「よくある演出」で、かつ「分かりやすい」ものを最初に持ってきているところがにくい点。
“ミュージックビデオにおける女の子の演出講座
①泣かす
②踊らす
③音楽聴かす
④窓にもたれさす
⑤倒れさす”
あるあるが続いたところで「女の子の演出講座」が始まります。しかもここはそれぞれの歌詞が3、3、7、8(まどに3もたれさす5)、5の音数。日本語の五七五のリズム、奇数音のリズムにそっているのです。「こういうのも観たことある!」と思いつつ、リズムにのって岡崎ワールドに知らず知らずのうちに引き込まれていくんですね。
“creation creation creation 音楽と
creation creation creation 映像が
毎回絡まり合い手を取り合い ドンピシャのタイミングで
「ハイ、カット」が聞こえるような ゆるぎなき制作意欲が作り手の願い
狂いなき眼差しは受け取り手の想い 一億人に届けMUSIC VIDEO”
サビも良いですね。キャッチーなメロディで「creation」を連呼します。音楽や映像を「作ること」そのものへのリスペクト。それを「クリエイション」という単語の連呼と、Cを作る振付で、分かりやすく受け取り手に届ける工夫がほどこされています。「まいかい」「からまりあい」「てをとりあい」という「い」の音のリズム作りも良いですが、「ハイ、カット」という伏線を仕込んでいるのもポイント。これが最後に活きてきます。「作り手の願い」と同時に「受け取り手の想い」ともってくるところもするどい点。クリエイターのみならず受け取る側からの視点もある。さらにリスナー、視聴者、聴き手、ファン、たまたま目にした人など全てひっくるめて「受け取り手」という一言で表現している点も見事ですね。
2番は「お洒落な夜の街映しとけ」から命令形が続きます。ここで音楽のテンポも変化。
“何らかのテーマを持った何らかのキャラクター
あ、あー?
何のメッセージ性やこれ。なになになになに?
え?え?え?どういう気持ちで見てたらええの?
え?もったいないもったいない。
なになに?何のメッセージ性やねんコレ。
外でギター弾いてるけど電源は引いてない”
「何らかのテーマを持った何らかのキャラクター」という表現もすごいですね。そこから続いて「何らかのテーマやメッセージ性を持った表現」がきます。ここを「シュール」や「意味不明」という言葉で片付けずに、あえて寸劇風にして変化をつけているところもうまいところ。「なになに?」と「え?」を繰り返し、さりげなくリズムも作っています。
続いて「外でギター弾いてるけど電源は引いてない」という「ひく」つながりの登場。メジャーアーティストが、崖や草原や砂漠でやる演出を巧みにとらえてますね。
“「ハイ、カット」
あーお疲れ様でした。 ここもまだ使ってるんでしょ?
これまだ回してるんでしょカメラ?
MUSIC VIDEOの最後にこの「ハイ、カット」
って言うてから「お疲れ様でした」ていうとこ
まだ使ってるでしょコレ?”
ラストには「ハイ、カット」がかかりサビの伏線を回収して、MV終わりあるあるまで入れてきます。まさに最初から最後まで隙のない作り。単なるあるあるに終始せずに、歌詞の口調、音楽も変化させ飽きさせないようにしています。そしてサビもキャッチー。
岡崎体育は、この曲を作るにあたり、数々のミュージシャンのMVを観て研究。あるあるをピックアップして、自分たちの予算で出来る演出を取捨選択し、曲に落とし込み、このMVを完成させました。ロケ地も多く、様々な技法を駆使しているため、撮影には100時間かかったと言います。MVを茶化しているように見えて、実は音楽に対する愛情にあふれている曲なんですね。このMVを観たら、きっとミュージックビデオの観方自体が変わるでしょう。まさに究極のミュージックビデオ!
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)