命のやり取りを描く「TOKYO MER」とライブという共通点
backnumberの『幕が上がる』は、劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜南海ミッション』主題歌として書き下ろされた新曲です。人命救助を使命として日々戦う『TOKYO MER』と、ライブとの共通点を、清水依与吏は「命のやり取り」と表現していますが、まさにその通りではないでしょうか。
戦うステージや、向き合う対象は違えど、魂と魂のぶつかり合い。
その一瞬にかける想いの強さと怖さは遠くないものがあると思います。
誰しも、人生のあらゆるステージでそれぞれ戦っている。
そんな人たちすべての背中を押すような、そっと寄り添ってくれるような歌詞が心強い楽曲です。
『幕が上がる』というタイトルの通り、重要な局面での緊迫感、不安感が痛いほど伝わってくる歌詞が印象的。
backnumberらしい、飾らない言葉が放つ魅力を、作品にリンクした歌詞の意味と共に読み解いていきましょう。
「幕が上がる」で歌われる等身大の歌詞が持つ説得力

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怖いけど
震えは止まってないけど
それはさ
失くすのが怖いものを
ちゃんと持ってるってことだろう
≪幕が上がる 歌詞より抜粋≫
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「TOKYO MER」は、災害と人命救助に命をかける人たちを描いた作品です。
『幕が上がる』というタイトルからはライブや舞台を想起させますが、究極の選択を迫られる人命救助に向かう場面にも当てはまります。
幕が上がれば、もう逃げることは許されません。
人の命を預かるという仕事は、慣れるということはないでしょう。
どれだけ場数を踏んでも、一瞬の判断ミスや迷いが、人の人生を左右する。
その怖さに慣れることはなく、慣れてはならないのでしょう。
「失くすのが怖いものをちゃんと持ってる」
それはとても大切なことです。
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大丈夫だよって
いくら 言い聞かせても
また 迷いながら疑いながら
強くなりたかった
≪幕が上がる 歌詞より抜粋≫
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「大丈夫」と自分に言い聞かせて、奮い立たせるしかない日々。
強くなりたいと願う気持ちは分かりつつも、人を助けるという正解のない場で、不安は付き物です。
そして、人間らしい迷いや不安は、仕事に真摯に向き合っている証拠なのではないでしょうか。
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止まない拍手も 光の雨も
特別なものはいらない
いつだって
なぜか僕を選んだ誰かの
見慣れた笑顔が
何かのゴールだったりするんだ
≪幕が上がる 歌詞より抜粋≫
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世間からの賞賛も、感謝の言葉もいらない。
極限状態で背中を押してくれるのは、いつもそばにいてくれる人の笑顔。
なんでもない日常に溢れているものこそ、いざとなった時、心の支えになるのです。
「強くなりたい」という歌詞が意味するもの

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探しても 嘆いても
遠く離れても
悔しかったことは悔しいまま
自分は自分でそのまま
≪幕が上がる 歌詞より抜粋≫
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目の前の任務に必死で、人一人助けるのに手一杯で、救いの手が間に合わないこともあるでしょう。
それは、どれほど経験を積んでも変わらないことで、悔しさは心の中にずっと残るのかもしれません。
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今更すくむ足と
滲む弱さに
慣れるでもなく諦めるでもなく
強くなりたかった
≪幕が上がる 歌詞より抜粋≫
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ここで求める強さは、鉄人のような強さではないのでしょう。
何度経験しても、命を前にすくんでしまう足も弱さもすべて受け入れた上で、それでも人を救えるだけの強さが欲しい。
弱さや迷いの上に成り立つ強さは、しなやかで、どんな苦境にも負けない、折れない心なのだと思います。
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止まない拍手も 光の雨も
特別なものはいらない
あと少し
もう少し頑張ってみるから
終わったら頑張ったねって乾杯してよ
≪幕が上がる 歌詞より抜粋≫
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過酷な任務を支えているのは、称賛の声ではなく、身近な人の何気ない言葉。
「頑張ったね」の一言だけで、次の任務への活力になるのです。
人命救助は非常に大切で、尊い仕事ではありますが、従事している人は至って普通の人間なのだということを思い起こさせてくれますね。
他の仕事をしている人たちと同じように、大切な人がいて、何気ない幸せがあり、心がふっと緩む瞬間がある。
そんな普通の人たちが命懸けで人の命と向き合っていることを、忘れてはならないと気付かされます。
人生を舞台にしているからこそ刺さる「幕が上がる」の歌詞

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決して一人では何も出来ない事
助けられてなんとか僕を生きて来た事
荷物は重くて 世界は理不尽だって事
全部忘れて歌えたらいいのに
≪幕が上がる 歌詞より抜粋≫
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世界は理不尽で、人は無力で、どれだけ力を尽くしてもこぼれ落ちていく命はあります。
そんな無力感や自分の不甲斐なさから逃げたいと願うのは、人間ならば誰しも抱く感情でしょう。
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止まない拍手も 光の雨も
特別なものはいらない
願うなら
なぜか僕を選んだあなたの
見慣れた笑顔が
最後のゴールであって欲しいんだ
≪幕が上がる 歌詞より抜粋≫
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日々を戦える活力は大切な人の笑顔であり、そばで支えてくれる人がいるからこそ、どんな苦境も越えられるのでしょう。
最後にあるのは「見慣れた笑顔」であって欲しい。
特別な誰かでも、特別な賛辞でもなく、見慣れた笑顔というところが印象的です。
当たり前に見慣れてしまうほど、いつもそばにいてくれる人。
その人の笑顔こそが最大の幸せで、心の支え。
結局のところ、人の心の根っこを支えるのはそんなシンプルなことなのかもしれません。

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だからその瞬間まで
大事なものを守れるくらい
強くなりたい
強くなりたい
強くありたい
≪幕が上がる 歌詞より抜粋≫
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最もシンプルで大切なものを最後に見るために、その最後の瞬間が訪れる日まで守り抜きたい。
「強くなりたい」という歌詞に、思いの強さを感じます。
人は複雑なようでいて、本当のところは非常にシンプルで、願いもほんの些細なもの。
そんな見落としてしまいがちなことに気づかせてくれる等身大の歌詞が、胸に刺さります。
『幕が上がる』の歌詞がこんなにも心に刺さるのは、誰もが主人公である人生というステージを舞台にしているからではないでしょうか。
どんな人生でも、どんな立場でも、絶対に負けられない瞬間がある。
失いたくないものがある。
それぞれの心に落とし込める、リアルな歌詞が散りばめれているからこそ、backnumberの歌は聴く人の耳に残り、胸を打つのでしょう。
この曲を聴いて、あなたはどんな瞬間を思い浮かべますか?
人生の大切な「幕が上がる」瞬間に、そっと肩を貸してくれるような1曲です。
Vocal & Guitar : 清水依与吏(シミズイヨリ) Bass : 小島和也(コジマカズヤ) Drums : 栗原寿(クリハラヒサシ) 2004年、群馬にて清水依与吏を中心に結成。 幾度かのメンバーチェンジを経て、2007年現在のメンバーとなる。 デビュー直前にiTunesが選ぶ2011年最もブレイクが期待でき···
