3人組ガールズバンド tricot
tricotは3人組ガールズバンド。変則的なリズムの音楽を特徴とするグループです。かつて男のドラムメンバーが所属していましたが、脱退。2016年4月現在、3人にサポートでドラムを加える体制で活動しています。ドラムが所属していた当時からある代表曲の一つ、『おもてなし』。この曲も変則的なリズムが特徴。そして歌詞も独特です。
「おもてなし」とは一体どういうことなのでしょう。
「おもてなし」とは…?
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この酷い風もこの世では聴こえない
≪おもてなし 歌詞より抜粋≫
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「この酷い風もこの世では聴こえない」というフレーズでスタート。「酷い風」というフレーズが、マイナスの雰囲気を感じさせます。
酷い風がふいていても気付かれることはない。この世と表記しながら「このまち」と言っています。まちがこの世の全てに思えるような感覚を表現。
さらに「きこえない」の漢字を、自然と耳に入る「聞こえない」ではなく、音楽などに意識的に耳を傾ける「聴こえない」の字をあてて表記。
「この酷い風」とは、この世にはびこる悲しいことの象徴。後半で「汚れた世界」と言い換えられます。最初の歌詞で、「この世に存在する悲しいことに人が意識を傾けないこと」を歌っているのです。
漢字表記にすることで…
----------------「今夜混凝土は気性が荒い 足元に注意 誰も助けてはくれない」混凝土と書いて「コンクリート」と読みます。
今夜混凝土は気性が荒い
足元に注意 誰も助けてはくれない
≪おもてなし 歌詞より抜粋≫
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コンクリートをカタカナでなく漢字で表記することで、コンクリートに感情があるかのように思わせます。気性が荒いコンクリートは、誰も助けてはくれない都会の象徴。自分の足元に注意をはらっていないと、たちまち飲み込まれてしまう。
「あらい」「ちゅうい」「たすけてはくれない」で「い」の音のリズムを作成。ここで勢いを保ち、次のフレーズにつなげていきます。
「オモテナシ」で何を示す?
----------------ここで「あぁ自惚れるな もう オモテ ナシは終わりだ」という歌詞がきてタイトルである「おもてなし」がカタカナで登場します。オモテナシとは何を表すのでしょうか。
「あぁ自惚れるな もう オモテ ナシは終わりだ」
美女は汚れても魅力的で衰える事が何より怖い
君も嫌いになるのかい? ツバを吐かれお終い
≪おもてなし 歌詞より抜粋≫
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「オモテ ナシ」とカタカナ表記して、さらに「オモテ」と「ナシ」で区切っている。オモテがない=裏がある。その状態を終わらせたい。裏があるような「オモテナシ」なら終わらせる。そして、真の「おもてなし」を表現する。
おもてなしの語源は裏表なしだとも言われています。いわばこの曲は、裏表ない気持ちをぶつけたいという曲でもある。ゆえに、「酷い風」や「気性が荒い」ことや/b>「汚れた世界」といったマイナス感情に対して非常に敏感である。
tricot流のおもてなしが詰まっていた!
この曲は、「おもてなし」と言っておきながら攻撃的な曲。しかし、それこそがこのバンドの意図するところ。このバンド流の音楽でおもてなしをしているのです。変拍子を得意とするバンドなので、そういった音楽が必ずしもキャッチーではないことも自覚している。
そして、ガールズバンドがなんだかんだで可愛らしさや分かりやすさを求められやすい傾向があることも自覚している。
「美女」は「衰える事が何より怖い」という歌詞がそれを象徴しています。かつての美女ですら、衰えたらツバを吐かれ捨てられるような現実があることも知っている。
だからこそ、キャッチーな音と挑戦的な音の狭間で、自分たち流の「おもてなし」を追求する。衰えない音楽を追求する。「おもてなし」とは、ただ単に愛想よく振る舞うことではないんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)