花はなはさいても 他国たこくの春はるは
どこか淋さびしい 山やまや川かわ
旅たびの役者やくしゃと 流ながれる雲くもは
風かぜの吹ふきよで 泣なけもする
「お島しまさん
もう若旦那わかだんなと呼よぶのはよしてくんな
今いまの俺おれらは 檜屋ひやの若旦那わかだんなでも
千太郎せんたろうでも ありゃしない
追手おっての目めをくらます十蔵じゅうぞう一座いちざの旅役者たびやくしゃ
見みよう見真似みまねの俄にわか役者やくしゃが
化ばけの皮かわをはがされずに
ここまで 逃にげおうせたのは
お島しまさん
みんなお前まえさんのおかげだよ」
渡わたり鳥どりさえ 一緒いっしょに飛とべる
連つれがなければ 辛つらかろに
口くちでけなして こころでほめて
お島しま千太郎せんたろう 旅たびすがた
「お島しま…… お前まえの真心まごころは
誰だれよりも俺おれらが一番いちばん身みにしみている
口くちには出だして云いわねえが
心こころの中なかじゃ 何時なんじだって
手てを合あわせて礼れいを云いっているんだ
こんなに苦くるしい思おもいをしながら
どうして俺おれらにつくしてくれるのかと
不思議ふしぎに思おもう時ときもある
だが 故郷こきょうへ帰かえって 檜屋ひやの看板かんばんをあげたら
その時ときはお島しま 旅芸人たびげいにんの足あしを洗あらって
俺おれらの世話女房せわにょうぼうに……」
人ひとの心こころと 草鞋わらじの紐ひもは
解とくも結むすぶも 胸むね次第しだい
苦労くろう分わけあう 旅たび空ぞら夜空よぞら
月つきも見みとれる 夫婦ふうふ笠かさ
花hanaはさいてもhasaitemo 他国takokuのno春haruはha
どこかdokoka淋sabiしいshii 山yamaやya川kawa
旅tabiのno役者yakusyaとto 流nagaれるreru雲kumoはha
風kazeのno吹fuきよでkiyode 泣naけもするkemosuru
「おo島shimaさんsan
もうmou若旦那wakadannaとto呼yoぶのはよしてくんなbunohayoshitekunna
今imaのno俺oreらはraha 檜屋hiyaのno若旦那wakadannaでもdemo
千太郎sentarouでもdemo ありゃしないaryashinai
追手otteのno目meをくらますwokuramasu十蔵juuzou一座ichizaのno旅役者tabiyakusya
見miようyou見真似mimaneのno俄niwaかka役者yakusyaがga
化baけのkeno皮kawaをはがされずにwohagasarezuni
ここまでkokomade 逃niげおうせたのはgeousetanoha
おo島shimaさんsan
みんなおminnao前maeさんのおかげだよsannookagedayo」
渡wataりri鳥doriさえsae 一緒issyoにni飛toべるberu
連tsuれがなければreganakereba 辛tsuraかろにkaroni
口kuchiでけなしてdekenashite こころでほめてkokorodehomete
おo島shima千太郎sentarou 旅tabiすがたsugata
「おo島shima…… おo前maeのno真心magokoroはha
誰dareよりもyorimo俺oreらがraga一番ichiban身miにしみているnishimiteiru
口kuchiにはniha出daしてshite云iわねえがwaneega
心kokoroのno中nakaじゃja 何時nanjiだってdatte
手teをwo合aわせてwasete礼reiをwo云iっているんだtteirunda
こんなにkonnani苦kuruしいshii思omoいをしながらiwoshinagara
どうしてdoushite俺oreらにつくしてくれるのかとranitsukushitekurerunokato
不思議fushigiにni思omoうu時tokiもあるmoaru
だがdaga 故郷kokyouへhe帰kaeってtte 檜屋hiyaのno看板kanbanをあげたらwoagetara
そのsono時tokiはおhao島shima 旅芸人tabigeininのno足ashiをwo洗araってtte
俺oreらのrano世話女房sewanyoubouにni……」
人hitoのno心kokoroとto 草鞋warajiのno紐himoはha
解toくもkumo結musuぶもbumo 胸mune次第shidai
苦労kurou分waけあうkeau 旅tabi空zora夜空yozora
月tsukiもmo見miとれるtoreru 夫婦fuufu笠kasa