2016年、この夏リオデジャネイロでオリンピックが開催される。勿論試合そのものがメインだが、昨今では局ごとにテーマソングが設けられ、開催前のスポーツニュースや五輪の話題、また終えての総集編に至るまで、様々な楽曲がささやかに五輪という祭典の盛り上がりを支えてきた。
世界的スポーツの祭典に際してのタイアップとあって、ただの応援歌と一括りにするには惜しい名曲が勢揃いしている。一部だが、それらを紹介していこう。
ゆず『栄光の架橋』
今や誰もが揺るぎない応援歌として挙げるのが、2004年アテネ五輪の際にNHKで使用されたこの曲だ。厳かに始まりつつも段々と盛り上がってゆくメロディー、高らかに歌い上げられる圧倒的な二人の歌声を含んだドラマティックな曲の構成は、選手たちの雄姿にぴったり重なり、見ている私たちの涙腺を刺激する。それまでも数々のヒット曲を生んでいたゆずだが、この曲を通して国民的アーティストとしても盤石になっていったのではないだろうか。
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いくつもの日々を越えて 辿り着いた今がある
だからもう迷わずに進めばいい
栄光の架橋へと…
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曲名と掛けて同局実況の名言が生まれたという、28年ぶり金メダル獲得の体操男子団体もさることながら、“いくつもの日々を越えて 辿り着いた今がある”には、自身の銅メダル獲得から20年を経た41歳にして銀メダル獲得の「中年の星」アーチェリー山本選手という名シーンにも重なった。
Mr.Children『GIFT』
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果てしない旅路の果てに
『選ばれる者』とは誰?
たとえ僕じゃなくたって
それでもまた走っていく 走っていくよ
降り注ぐ日差しがあって
だからこそ日陰もあって
そのすべてが意味を持って
互いを讃えているのなら
もうどんな場所にいても
光を感じれるよ
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2008年北京五輪、NHKで使用されたこの曲は、勝者がいれば敗者もいるのだと歌っている。特に、当時まだメダル獲得が期待される人気選手が少なかった中で、一番サビの“「白か黒で答えろ」という 難題を突きつけられ”という詞は、三連覇がかかっていた柔道谷選手にもあったであろう、期待への大きいプレッシャーが重なるようだ。
谷選手の金メダルによる三連覇はならなかったが、銅で五大会連続のメダル獲得という結果がある。この曲の冒頭にある“一番きれいな色ってなんだろう?”を聴くと、人によってその色は違うのかもしれない、という希望の描きかたに勇気付けられる。
嵐『風の向こうへ』
こちらは北京五輪の際日テレ系列で使用されたテーマソング。嵐はアテネの時にも同局でテーマソングを担当したが、櫻井翔がニュースキャスターの仕事を始め五輪のキャスターも務めることになってからは最初の曲である。
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信じてきたこの自分のために
夢重ねるみんなのために
感謝の言葉 for my family
"I believe"
ただ力の限り
その焦りもいつかは糧に この痛みも糧に
雨にも風にも負けずにあの痛みや焦り
この日のために
あなたの分も想いも抱いて
階段のぼるよう 上向かって
辛くて 苦しくたって 耐えて
歓声浴びる姿描いて…
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ラップを担当している櫻井はその詞も自身で手掛けており、まさにこの部分に彼自身が選手たちの取材を行なった際に感じた選手の想いをのせている。
ミディアムテンポな曲が総集編に合うとするならば、少しアップテンポであるこの曲は競技前に士気を高める応援歌にぴったりだ。曲の後半、背中を押すような“雨の向こうへ 今 風の向こうへ”という強い繰り返しがアイドルソングらしくもあり、けれど櫻井のリアルを含んだ言葉の力が見事にテーマソングとしてマッチングさせたのではないだろうか。
レミオロメン『もっと遠くへ』
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諦めないで その心が
決めた道を走り抜けて
強い風が吹いた日こそ
誰よりも速く強く美しく
駆け抜けてよ 夢の中を
光の方へ 闇を裂いて
きっと答えは一つじゃないさ
あらゆる全力を尽くして行くのさ
もっと遠くへ
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こちらも北京五輪、フジテレビ系列のテーマソングだ。銅メダルを獲得した陸上男子400mリレー決勝のシーンにこの詞とボーカル藤巻亮太の力強い歌声が乗せられると、音楽と映像が響きあった瞬間のパワーを感じざるをえない。
夏季五輪のテーマソングは冬季よりも殊更に“風”という言葉を使う傾向が見受けられるが、吹き抜けてゆく夏の風を感じながら、風のように走り抜ける選手の姿を重ねられるからなのだろう。
福山雅治『GAME』
2012年ロンドン五輪の際にテレ朝系列で使用されたのがこちらの曲だが、当初はフルサイズが完成しておらず、TVverとして使われていたという。
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プライド守れる生き方なら
ふたつのやり方があると知ってる
ひとつは常に勝ち続けること
ひとつは負けを自分だけで引き受けること
どの道も孤独へと続く
終わりなきサヴァイバル・ゲーム
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通年で聴けることを意識し、オリンピックだけにとらわれず人生について言及するような歌詞にしたというこの曲だが、それだけに自分自身を鼓舞する内容になっており、選手目線として捉えても充分にぴったりくる曲である。ロンドン五輪では金メダル獲得数がここ三大会中最も少ない結果となり個人競技に集中していることからも、このサビの詞がマッチしている。
人生という広い意味を取って書かれたこの詞だが、スポーツを見て人々が心動かされるのは、見ている自分の人生をもその試合という“ゲーム”に重ねられるからだと言えそうだ。
SMAP『Moment』
ロンドン五輪TBS系列テーマソングとして使用されたこの曲は、サカナクションの山口一郎が楽曲提供したシングル。中居正広が同局の五輪キャスターとして選ばれていたこともあり、中居のソロパートが比較的多い曲でもある。
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この一瞬のための何千時間 壁は自分だった 今わかったこと
この瞬間のために失ったことも多いけど 確かめたくて
この一瞬のための何千時間 強さって優しさ 今わかったけど
この瞬間のためになぜ時間ついやしてきたのか 今わかったよ
この一瞬のためだけじゃないんだ 続きはまだあるんだ 探してたこと
この先で見つけられるかな その一瞬のために歩き続ける
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サカナクション山口の提供というだけありメロディー自体は淡々としているが、五輪のために書かれたという応援歌的要素がこのサビには特に凝縮されている。前述の『GAME』では個人について取り上げたが、ロンドン五輪は金が少なかったといえど、アテネ・北京と比べてメダル総獲得数は最も多い38個。その銀・銅の中には多くの団体競技が含まれている。ひとりひとりの孤独な闘いの先に、団結の強さがあったこともまた事実なのだ。
特に日本卓球史上初のメダル獲得となった、福原選手率いる卓球女子団体。銀とはいえ、まさに“この一瞬のための何千時間”ではないだろうか。“この瞬間のためになぜ時間ついやしてきたのか 今わかったよ”という詞が強く響きあう。
また、前年にW杯で優勝し多大なる期待とプレッシャーの中、銀メダルとなったサッカー女子代表。“この一瞬のためだけじゃないんだ”は、澤選手の現役引退後もその想いを引き継ぐメンバーたちへと重なる。この度のリオデジャネイロには残念ながら出場を逃すことになったが、今後もその活躍を期待したい。
例外はあるが、選手目線で描かれることの多い五輪のテーマソング。しかし常に期待やプレッシャーと戦う選手に寄り添った曲を使うということは、その気持ちを視聴者に伝え、より感情移入して応援してもらおうという局側の想いなのかもしれない。
実際に思い出と共に記憶に焼き付くものだからこそ、音楽というのは重要になってくる。ここで紹介した曲もそれ以外の曲も、あなたの中にある曲をまた聴き返して感動や涙を思い返してみるのもいいだろう。
各局がそれぞれの曲をテーマソングに掲げて放送するが、応援する時の気持ちはみんな同じのはず。
この夏あなたの心に響いた曲は何なのか、終わった後に考えてみるのも面白いかも?
TEXT:祈焔( https://twitter.com/kien_inori )