いくつになっても名曲を残す大物歌手
井上陽水は、日本を代表するシンガーソングライター。説明の必要がないほど有名な人ですね。2017年2月現在、68歳。現在でも『夢の中へ』がドラマ主題歌に採用されたりと、存在感を示しています。
井上陽水のシングル『最後のニュース』は、1989年にリリースされました。この曲は、「ニュース23」に使われていたテーマソング。
当時の「ニュース23」は、筑紫哲也がメインキャスターを務めており、番組タイトルも「筑紫哲也 NEWS23」でした。この筑紫哲也から依頼されてできた曲です。
『最後のニュース』というタイトル通り、一日の最後のニュースのための曲。様々なニュースを詩的に表現している曲です。
最後のニュース
----------------
忘れられぬ人が
銃で撃たれ倒れ
みんな泣いたあとで誰を
忘れ去ったの
≪最後のニュース 歌詞より抜粋≫
----------------
たとえば、ここのフレーズ。「忘れられぬ人が」ときて「誰を忘れ去ったの」としめます。
「銃で撃たれ倒れ」ということから、忘れられぬ人が争いに巻き込まれて死んだことが分かります。人々がニュースを見て悲しむも、やがて忘れてしまうことを表現しているんですね。
----------------
飛行船が赤く
空に燃え上がって
のどかだった空は
あれが最後だったの
≪最後のニュース 歌詞より抜粋≫
----------------
「飛行船」という単語がここで登場。これは、飛行船の事故として有名な1937年のヒンデンブルク号爆発事故を表現しています。
『最後のニュース』シングルジャケットも、この事故の写真を使っています。この事故をきっかけに飛行船の危険性が指摘され、有人の飛行船はなくなりました。
「のどかだった空は あれが最後だったの」というフレーズに、人類の夢がショッキングなニュースにより「最後」をむかえていく寂しさが表現されています。
様々な地球の問題を表現
----------------
地球上に
人があふれだして
海の先の先へ
こぼれ落ちてしまうの
≪最後のニュース 歌詞より抜粋≫
----------------
「地球上に人があふれだして」どうなるか。「海の先の先へこぼれ落ちてしまうの」。
このフレーズも良いですね。「海の先へこぼれ落ちる」という表現が非常に詩的。大昔の人が地球の果てが滝になっていると考えたことをうけつつ、人口爆発を表現しています。
「海の先の先へ」という表現は、今日でも問題となっている難民を想起させますね。
----------------
原子力と水と
石油達の為に
私達は何を
してあげられるの
≪最後のニュース 歌詞より抜粋≫
----------------
ここも、井上陽水のスケールを感じさせるポイントです。「原子力と水と石油」これらに対し「何をしてあげられるの」という歌詞を持ってくるすごさ。
人間は「原子力と水と石油」といった資源をコントロールするのが当たり前だと思っています。2011年の東日本大震災で、原子力の問題があらためてクローズアップされました。
21世紀は、各地で異常気象が続き水不足が世界中で問題となり、「水の戦争」が起きると言われています。人間は、これらの資源を利用して奪い合うのが当たり前だと思っている。そんな人間の傲慢さを指摘しているんですね。
予言のように書かれた歌詞
----------------
世界中の国の人と
愛と金が
入り乱れていつか
混ざりあえるの
≪最後のニュース 歌詞より抜粋≫
----------------
この歌詞も、現代だからこそより響くようになってきたのではないでしょうか。
「世界中の国」の「人と愛と金」が入り乱れて、いつか混ざり合えるのだろうか、という問い。愛や金は、日本でも世界でもいたるところで格差として問題になりますね。
----------------
今 あなたに Good-Night
ただ あなたに Good-Bye
≪最後のニュース 歌詞より抜粋≫
----------------
この曲は「~の?」という疑問形が続き、最後は「今 あなたに Good-night」「ただ あなたに Good-bye」と言って締めくくられます。
筑紫哲也が亡くなった際、『ニュース23』で井上陽水はこの曲を歌いました。歌詞どおりに、「さよなら」の歌になったのです。そしてこの曲は今もなお、悲しいニュースで苦しんでいる人々に対し、せめて今日はゆっくりと「おやすみ」と語り掛けているのです。
今なお、いや今だからこそ響く歌詞です。井上陽水は、今日の21世紀の社会を予言していたのでしょうか。
TEXT 改訂木魚(じゃぶけん東京本部)