UtaTen特別企画 『コラムで綴るスピッツ愛』
歌詞検索・音楽メディアUtaTenでは、シングル・コレクション・アルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』が7/5にリリースされるのを記念して、コラム特別企画を実施!UtaTenライターによる『コラムで綴るスピッツ愛』を7/3から短期集中連載。UtaTen自慢のコラムニスト・ライターが独自の解釈で、スピッツの曲に纏わるコラムをお届けします。スピッツの歌詞には意外性のあるメタファーが多いが、そのなかでも「愛のことば」は、言葉の限界に挑もうとするかのような比喩表現が登場する。
“限りある未来を搾り取る日々から
脱け出そうと誘った 君の目に映る海
くだらない話で安らげる僕らは
その愚かさこそが 何よりも宝もの”
冒頭で描かれる未来のない光景。なにげない日常の幸福が奪われてしまうような極限状態にあって、究極の感情を伝えるのに“I Love You.”というありきたりな言葉では役不足だ。
しかし、直接的な表現を用いずに愛情を伝えることはとても難しい。
だから、「愛のことば」を探す過程もギリギリの比喩表現でしか表すことができない。
“雲間からこぼれ落ちてく 神様達が見える
心の糸が切れるほど 強く抱きしめたなら”
心の糸が切れてしまえばもうそれ以上の言葉は出てこないし、強く抱きしめるとき無言になるのは言葉にしたとたん何かが逃げてしまうことを知っているからだ。
そこに言葉が登場する余地はないように思える。
それでもあえて声に出すとするなら、それはどんな言葉になるだろうか?
この曲の中心にあるのは、愛を言葉にすることの難しさと言葉が感情に追いつかないもどかしさだ。それは、かゆいところに手が届かない感覚に似ている。
“今 煙の中で溶け合いながら 探しつづける愛のことば
もうこれ以上進めなくても 探しつづける愛のことば”
ボタンを1つずつかけるように「愛のことば」を探す過程は常に手さぐりだ。それでも僕たちは探し続ける。もう何も伝わらない、一歩も進めない状況でも。
むしろそうやって探し続けてしまうのが人間という生き物なのかもしれない。
言葉を超えた思いを伝えようとする一見矛盾した行為。そのことに真正面から向き合った「愛のことば」は、スピッツの数ある名曲の中でも特別な位置を占める1曲であり、「チェリー」で「“愛してる”の響きだけで 強くなれる気がしたよ」と歌っているのとは、好対照の名曲なのだ。