UtaTen特別企画 『コラムで綴るスピッツ愛』
歌詞検索・音楽メディアUtaTenでは、シングル・コレクション・アルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』が7/5にリリースされるのを記念して、コラム特別企画を実施!UtaTenライターによる『コラムで綴るスピッツ愛』を7/3から短期集中連載。UtaTen自慢のコラムニスト・ライターが独自の解釈で、スピッツの曲に纏わるコラムをお届けします。――――
“春の歌 愛も希望もつくりはじめる
遮るな 何処までも続くこの道を”
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未来への希望や愛に溢れた、このサビの歌詞が特に好きだ。あぁ、もうすぐ春が来る。
この曲を聴く度、口ずさむ度、心がパーっと明るくなるような、わくわくした気持ちになる。
けれども、この曲はただ単に春らしい、明るい希望に溢れただけの楽曲ではない。
サビの前後の歌詞を見てほしい。
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“重い足でぬかるむ道を来た
トゲのある藪をかき分けてきた
食べられそうな全てを食べた”
“長いトンネルをくぐり抜けた時
見慣れない色に包まれていった
実はまだ始まったとこだった”
“平気な顔でかなり無理してたこと
叫びたいのに懸命に微笑んだこと
朝の光にさらされていく”
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まるで絵本の中の主人公の動物や昆虫が、冒険しているようなタッチで描かれている歌詞だが、これはまさに人間の、人生の歩みを歌った歌詞なのだ。
歌詞の中の“ぬかるむ道”は、避けては通れない辛いことや苦しいことを、“トゲのある藪”は世間や社会、そして心を悩ます人間関係などを指し、“食べられそうな全てを食べた”とは、そういった経験を通して、学び、習得したということを意味しているのだと思う。
そしてこの“長いトンネル”こそ、まさしく人生そのものを指しているのだ。
様々なトラブルや障害物に幾度つまずこうとも、他人の心ない言葉に自身の心が傷だらけになろうとも、がむしゃらに突っ走って生きてきた。色々な経験をして学び、得るものもたくさんあった。長い暗闇から抜け出し、やっと眩しいゴールが見えたと思ったのに、自分はまだ人生という名のスタートラインに立ったばかりなのだと気づく。
どんなに辛い時でも無理して笑って、言いたいことも言わず、自分というものを殺して生きていた。朝の光だけが、唯一ぼろぼろになった心を癒してくれた。
人生は辛いことや悲しいこと、嬉しいことや楽しいことの繰り返し。人の一生を長い目で見れば、辛いことも楽しいことも、みんな平等に訪れると言う人もいるけれど、でも人生って辛いことや、苦しいこと、悲しいことの方が多いような気がする。
この歌詞のように辛くて苦しい時期が、まるで終わりのないトンネルのように長く続くこともあるだろう。
そんな時どうしたらいいか?
この歌詞の中にさりげなくそのヒントが隠されている。
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“「どうでもいい」とか そんな言葉で汚れた
心 今放て”
“忘れかけた 本当は忘れたくない
君の名をなぞる”
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何事にも無関心でやさぐれた心なんて今すぐ解き放つんだ。何があってもいじけたり、腐ったりしたらいけない。
自分の心に嘘をつかず、素直に生きて。愛しい人を思い浮かべて、前に進むんだ。
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“春の歌 愛も希望もつくりはじめる
遮るな 何処までも続くこの道を”
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寒くて辛い冬を越えたら、愛と希望に満ち溢れた暖かい春がやって来る。人生もそれと同じ。何処までも続くこの道を何があっても歩き続けるのだ、と。
明るく爽やかで、疾走感のある曲調のせいか、人生というヘビーなテーマを歌っているのに、暗さや重さを感じさせるような部分が全くない。また、深いメッセージが歌詞に組み込まれているにも関わらず、ボーカル草野の絵本を開いたような世界観の歌詞により、メッセージ性の強さが前面に出ていないため、押しつけがましくなく、メロディーと共に歌詞のメッセージが心にすーっと馴染んでいくのだ。
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“春の歌 愛と希望より前に響く
聞こえるか? 遠い空に映る君にも”
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遠く離れて暮らす家族へ、友人へ、そして愛しい恋人へ。君にも届いているだろうか?
聞こえているだろうか?
この愛と希望に満ち溢れた「春の歌」が。
この曲を聴くと、まるで古くからの友人や幼なじみから送られたエールのような、親近感と懐かしい気持ちで胸がいっぱいになるのは、遠い空の下からあなたのことを想い、心の中でそっと呼び掛ける、そんな愛と希望と優しさに溢れた歌詞のせいだろう。
この「春の歌」は、もともと2005年1月に発売されたアルバム「スーベニア」に収録されていた楽曲だったのだが、CM曲としてタイアップが決まり、急遽シングルカットされ、同年4月に発売された。
毎年春になると色んな気持ちでこの曲を聴き、口ずさんできたが、発売から12年も経っていたとは、驚きだ。
スピッツが結成されて今年で30年。彼らがスピッツを結成した年に生まれた私も30歳になった。
小学生の頃に、爽やかで、でもちょっと個性的なお兄さん達が紡ぐ「チェリー」や「ロビンソン」などの楽曲を、テレビやラジオで流れる度に一緒に口ずさんだ。今でもCMなどで当時の楽曲が流れると、懐かしい気持ちに駆られる。
どんなに時が経っても、スピッツの楽曲が色褪せることはない。
それはきっと彼らの楽曲が、いつの時代を生きる人々の心にもさりげなく、時に旧友のように、時に家族のように、優しくそっと寄り添ってくれるような、そんな愛のある温もりに溢れているからだろう。
スピッツの楽曲は、これからもたくさんの人々の心の中で響き続け、愛されていくに違いない。
TEXT:中村友紀