yonige さよならアイデンティティー
「さよならアイデンティティー」は、2015年作「Coming Spring」に収録されている彼女たちの代表曲です。――――
さよならアイデンティティーよ
もう少し早く気付けたら
綺麗な昨日を思い出す事も無かった
呆れる程に痛かった
もう少し君と居たかった
嫌いなその癖
今じゃなんだか愛しくて
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失恋ソング。女性目線で歌われる歌詞は言えなかった気持ちをつづっています。終わってしまった恋愛が切ない。
ここで「さよなら」と歌っているのが「アイデンティティー」であるのが気になります。ふつうは相手のことだったり思い出だったりするはずですが、なぜ「アイデンティティー」なのでしょうか?
好きになるプロセス
この曲で「アイデンティティー」が表しているものは2つあると考えられます。1つは、好きな相手自身です。ちょっとした仕草、相手の好きなもの、そんなところから恋ははじまります。
相手を少しずつ受け入れていく過程は、その人のアイデンティティーを好きになるプロセスと言い換えてもいいし、相手の色に染まることでもあります。
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例えば君が描くような
明日さえ怖いなんて言えないな
こんなにも苦しいのに繋(つな)ぐなんて
馬鹿みたいだ
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しかし、そのことは同時に、ちょっとしたイヤなことやささいなことの積み重ねによって愛情が壊れてしまうことも意味しています。
「君が描くような明日」が「怖い」という感覚。違うとわかっていても続けてきたのは、本当に好きだったから。でももうそれは過去になってしまった。
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たった今途切れた電話から
もっと確かな不安は動いた
いつまでもこんなに変われない僕は
駄目になってった
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2番は相手側の視点から始まります。甘えてダメになっていく「僕」。
“私”からすれば、好きだったはずの彼のアイデンティティーはどこにいってしまったのだろうという気持ちです。
でも本当は最初から全部わかっていたのかもしれない、それでもどこかで期待してがんばってきた。そんな経験をしたことがある人もいるかもしれません。
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イライラってして泣いて
こんな最低な夜は
キラキラって神様に
祈りを捧げよう
ダラダラってしてるだけ
期待なんてして馬鹿みたい
ケラケラって笑うだけ
何も出来やしない
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「アイデンティティー」という言葉で表しているもう1つは、相手と自分とのズレです。相手を知ったときに恋が終わると言うように、相手を知ることは自分を知ることでもある。
全部を受け入れることはなかなか難しい
どんなに好きな相手でも、全部を受け入れることはなかなか難しいもの。相手のことを知れば知るほど自分との違いが浮き彫りになってしまいます。相手の中に見ていた自分の理想と現実とのギャップ。自分という人間を構成する価値観を「アイデンティティー」という言葉ですくい取っています。
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愛していた
恋していた
許していた
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最後に「許していた」と言うのは、相手という人間を理解できたから。それらすべてを吹っ切るかのように「さよなら」と、ささくれだった気持ちを大声で一緒に叫びたくなるフレーズです。
思いを吐き出すように歌う「さよならアイデンティティー」。
ざらついたギターに疾走感のあるサウンドとエモーショナルな振れ幅の大きさは、他のガールズバンドにない彼女たちのアイデンティティーです。
彼女たちがこれからどんな曲を歌っていくのか。yonige、いま最注目のバンドです。