そして「終わってしまった恋への後悔」と、その後悔の先の「今の心情」がそれぞれの視点で描かれています。
歌詞がリンクしている事もあり、聴き比べてみると曲の二人の人物像がとても鮮明になる面白さがあって、歌だけれどなんだか友達の恋ばなを聞いているような気分になります。
そして、この歌。聴き比べるともっと面白い事があるのに気がつきます。それは、この二人の「恋への向き合い方の違い」です。
それぞれのタイトルにも、『雪を嫌う』と『雪を待つ』と言う様に二人の想いの違いが出ています。
この曲が描く、二人の恋への向き合い方の違いを彼側の歌詞をリンクさせながら『私が雪を待つ理由』の女性目線の歌詞から読み解いていきたいと思います。
空想委員会の「私が雪を待つ理由」
別れを切り出した私を責めずに
「わかったよ」ってひと言だけ無理してた笑顔で
舞い落ちてくる雪を
ただあなたは見上げてた
必死で涙こらえていた 覚えてます
別れを切り出したのは彼女の方です。別れを切り出すには、衝突も話し合いも繰り返されたのでしょう。
その末に、選んだ別れに気持ちが落ち着いているのか、彼の表情を冷静に見ている彼女。
彼側の歌にはない情景です。彼側に思い出として強く残っている彼女の面影は「楽しかった時の笑顔」だけです。
彼女の方が彼よりも先に答えを出していて、別れを切り出す時には気持ちがすっきりとしていたのかもしれません。
しかし、彼女が落ち着いて答えを出せるという事。これには彼からの深い愛情があったからに他ならないのです。
2つの曲が歌う「後悔」
離れてみてわかってきた自分のことどれだけ甘えてきたんだろう
優しさに
見えないところで支えてくれてた
今になって気付くなんてバカみたい
ありがち
『ありがち』本当にありがちです。けれど、ありがちな事ほど気がつきにくく大事な事というのもまた、ありがち。
近くにありすぎるものは、一部分はよく見えますが全体は見えづらい。大きく見えていれば、悪いところも良いところで見直せる事もあります。
しかし、悪い部分にしか目が向いていなければ見直すのは難しいのが人の目と心情です。
彼女の気持ちの視野はとても狭くなっていたけれど、別れて離れる事で彼の事も二人を取り巻いていた環境をも大きく見直せるようになった事が伺えます。
一方彼側では、自分の恋がどんな環境で育まれていたか。そこから続いてゆく二人の将来を表す「道」などが歌われています。
彼は当時、『思い出した笑顔』という、たった一つの彼の中の彼女を象徴する歌詞があるのですが、そこから自分の気持ちよりも彼女が幸せである事とそうであれる将来を考えていた事が伺えます。
この歌詞から、彼女は彼の事と彼を通して見える自分の気持ちを一途に見つめていた。そして彼は彼女の幸せな笑顔が続く事を守る。
その方法を一途に見つめていた事がわかります。ここに二人の大きな違いが見えるのです。
その違いは「今」を大事にする彼女と「将来」を大事にする彼。この違いは恋に対する向き合い方とその行く末に大きく反映されていきます。
その結果が別れであり、その後に続くこの2つの曲が歌う「後悔」となるのです。
わがままな自分を彼は本当は嫌いだったのかもしれない
舞い落ちてくる雪をただ二人で見上げてた寒かったけど平気だった
不思議な安心感
今でもまだ覚えてます
あなたは覚えてますか?
それとも忘れましたか?
今でも私を嫌いなままなんでしょ?
この一節には彼女の彼への「後悔」が全て歌われています。雪が降るほど寒い中、何もせずにただ降ってくる雪を見上げていた。
想像するだけで、つま先や手が冷たくなります。そんな寒さの中でも『二人で見上げていた雪』。
きっと、とても静かで優しく舞い落ちる雪に心を奪われていたのでしょう。けれど、その雪よりももっと心を奪われていたのは『不思議な安心感』。
言葉や五感を越えた、何かよくわからない。でも、すごく心地がよくて暖かい。そんな安心感。
その安心感は彼が彼女の笑顔を守ろうとしていた気持ちの表れであり、愛情なのでしょう。
その愛情を、彼女は心でしっかり感じ取っていたのです。
彼側が唯一、彼女の事を思い出す歌詞の『笑顔』はきっとこの思い出の中の彼女。二人にとって、大切で幸せな思い出。
だからこそ「後悔」が呼び起こされます。
続く彼女の『今でも私を嫌いなままなんでしょ?』が、その後悔をより深く感じている事を表現しています。
そして、別れて時が経った今だから純粋な疑問としてこの想いが胸に残っているのです。
それは、安心感=愛情を感じていたのは私の思い過ごしだったのではないか。という、今は疑問で当時は不安だった想い。
『舞い落ちてくる雪をただ二人で見上げてた』の歌詞から、この時に彼女に安心感は確実に伝わっていたけれど。
その安心感を生む愛情を表現する言葉は彼からはなかった。何かを口にしていたなら『ただ二人で見上げてた』とは歌われないはずです。
そこから連想するのは、彼はあまり彼女に言葉では愛情表現をしていなかったのではないでしょうか。
しかしその代わり、態度や行動で愛を表現していた。
この一節の前にある『どれだけ甘えてきたんだろう優しさに』『見えないところで支えてくれてた』の歌詞からもその事が伺えます。
この言葉での愛情表現があまりなかったことが、当時の彼女の不安や不満に繋がっていたのかもしれません。
けれど離れてみて、愛情は行動に示されていたのかもしれないと気が付きはしたけれど。
それは彼女の憶測でしかなく、はっきりとした答えではないのです。
そんな彼からの愛情を、本当は心では感じていたのに愛を試すようなわがままを言って甘えて。最後も自分から別れを切り出した。
そんなわがままな自分を彼は本当は嫌いだったのかもしれないと思っているのです。
ちぐはぐな恋だからこそ、最後には「後悔」を「笑顔」に変えられるかもしれない
舞い落ちてくる雪をいつも一人で見上げてた思い出すのは昔のこと
愛おしい
舞い落ちてくる雪をまた二人で見上げたい
今の気持ちを伝えたい
途切れてしまう前に
初雪の日 会いに行こう
もし、この「嫌いなままなんでしょ?」という事を彼が彼女に思っていたら彼側にこの一節は絶対に出てこなかったでしょう。
彼側の歌には彼女が自分を嫌いというフレーズは出てこないのに最後は『君を想っても、もうどこにもいない』『雪が責める、なくしてしまった未来を』と彼女を諦めてしまっているのです。
終わってしまった「過去の事」だからと。
しかし、彼女は「今の自分の気持ち」に素直に従おうとしています。この二人。
別れを選んで離れ離れで時を過ごしているのに後悔しながらずっと恋をしあっています。
とても気の合う二人なのに、驚くほどに恋への向き合い方が違いますね。二つの曲は最初から最後までもが、正反対。
彼は彼女との思い出を『苦い記憶』として今も抱えていますが、彼女は『愛おしい』と思い出を抱いています。
そして彼は二人の未来はもう途切れてしまった。と思っているけれど、彼女はまだ途切れていないと思っている。
なんて気が合うようで全然合ってない二人なのでしょうか!でも、この二人の違いが恋を生んだのでしょうね。
そしてちぐはぐな二人が一途に育んだ恋は、やはりちぐはぐになって別れへ繋がってしまった。
けれど、そのちぐはぐさがまた二人を繋ごうとしています。
それは彼が好きなまま諦めているところへ、彼女が『愛おしい』という愛を持って『会いにいこう』と決心したからです。
もしも、この二人が恋に対してちぐはぐでなければ。
すでにお互い諦めていたかもしれないですし、もしかしたら後悔すらしていなかったかもしれません。
この二つの男女の恋の歌。ちぐはぐですれ違ってしまっても、ちゃんと自分の中にある「好き」という想いに素直にそして前向きにいれば、一度終わってしまった恋だったとしても「後悔」は「笑顔」に変えられるかもしれないと思えます!
ちぐはぐであることも、恋には必要な事なのかもしれませんね!
TEXT:後藤かなこ