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ビリー・ジョエルという「ストレンジャー」

ビリー・ジョエルは現在までに、総アルバムセールスは全世界で一億枚以上、アメリカではレコード総売上第6位という輝かしい実績を誇るアーティストです。しかしその一方で二度の自殺未遂、幾度もの離婚、そして早すぎるショービズからの半リタイアという波乱の人生も歩んでいます。
今回はそんなジョエルの出世作となった1978年のアルバム『ストレンジャー』、そのタイトル曲である「ストレンジャー」の歌詞を追うことで、彼を成功へと導いた音楽的スタンスとその裏にある陰を探っていきたいと思います。

ストレンジャーという仮面



Some are satin some are steel
Some are silk and some are leather
They're the faces of the stranger
But we love to try them on


あるものはサテン あるものは鋼
あるものはシルク あるものはレザー
そんなストレンジャーの仮面を
僕らは付けてみたがるもの


この曲では、全く違った二通りのボーカルスタイルを使い分けています。

基調部分は粘り気のある黒っぽい歌い方、そしてブリッジ部では一転して透明感のある歌唱をみせ、その鮮やかな切り替えのテクニックには誰もが驚かされるでしょう。

しかも、ジョエルのボーカルスタイルのバリエーションはこの二通りだけではありません。

「素顔のままで」でも「アップタウン・ガール」でも「マター・オブ・トラスト」でも、それぞれ別人かと思わせる歌唱を使い分けています。

つまり、彼はさまざまな声の「仮面」を持っているのです。

ロック、ポップス、フォーク、ジャズ、ソウル、そしてクラシック……。ビリー・ジョエルの音楽スタンスはひとつのジャンルにとどまりません。

そしてそれぞれのジャンルを適切に表現するために、ボーカルスタイルを変化させます。

そうした仮面を付け替えるような自在なテクニックが、彼の音楽の魅力を力強く支えていることは誰しも異論のないところでありましょう。

ストレンジャーの葛藤


Once I used to believe
I was such a great romancer
Then I came home to a woman that
I could not recognize
When I pressed her for a reason
She refused to even answer
It was then
I felt the stranger
Kick me right between the eyes


かつては自分を
かなりのロマンチストだと信じてたけど
家に帰ったら
見たこともない女がいて
理由を問い詰めても
頑なに答えを拒みやがった
そのときばかりは
これがストレンジャーかとたまげたね


しかしそうした仮面、つまりストレンジャーとしてのスタイルは、セールスとは裏腹にジョエルの孤独感を深める要因につながったのかもしれません。

例えば、同時代のアーティストであるブルース・スプリングスティーンと同じように、彼も社会的な問題をたくさん曲にしています。

しかしスプリングスティーンに比べて、ジョエルのそうした活動に対する世間の反応はおおむね冷ややかなものでした。

スプリングスティーンの歌詞は詩情豊かですが、音楽スタイルは決してテクニカルなものではありません。

そうした等身大とも言える愚直なスタイルこそが、当時の悩めるアメリカ社会に寄り添うヒーロー像として望まれる姿でした。

しかし彼とセールスを競っていたジョエルを、そのポジションに担ぎ上げるファンや評論家の動きはほとんどありませんでした。

テクニックを軽々とこなす彼のスタイルが仇となり、メッセージさえも軽々しく響いていたのかもしれません。

You may never understand
How the stranger is inspired
But he isn't always evil
And he isn't always wrong


君にはまるでわからないかもな
いかにしてストレンジャーの顔があらわれるかなんて
でもそいつはいつも悪いわけでもなければ
いつも間違ってるわけでもない


ここでストレンジャーとなることの功罪を問うています。

広がる孤独の闇の中で、自身のスタンスに葛藤するジョエルの姿を重ねずにはいられません。

ストレンジャーの呪い


Though you drown in good intentions
You will never quench the fire
You'll give in to your desire
When the stranger comes along


君にどれだけ善意が溢れていようと
その炎を鎮めることなんてできやしない
ストレンジャーがやってくるのは
君がその欲望に身をやつしたときだ


ビリー・ジョエルにとってストレンジャーであり続けることは、逃れがたい業のようなものだったのかもしれません。

音楽という欲望を満たすための仮面は、深まる孤独とひきかえに彼を成功へと導きました。

成功につきまとう呪いのストーリーとしては、モーツアルトやロバート・ジョンソンほど劇的なドラマはないかもしれませんが、彼にもまたそうした成功者の光と闇を感じずにはいられません。

そして、そうした伝説の存在がそうであったように、自身にあらわれるストレンジャーを御しきれない不器用さもまた、彼の音楽に深みを与えていることは間違いないでしょう。

「ストレンジャー」のイントロに流れる口笛の主は、ビリー・ジョエルの成功から片時も離れなかった孤独のストレンジャーなのかもしれません。

Well we all have a face
That we hide away forever
And we take them out and show ourselves
When everyone has gone


僕らの誰もが
永遠に隠し通す顔を持っている
そして誰もいなくなったときに
僕らはその顔を取り出してみるんだ


TEXT:quenjiro

1949年5月9日生まれ、ニューヨーク州サウスブロンクス出身のアメリカを代表するシンガーソングライター。 1971年デビューするも売れず。一時は自殺未遂を起こすほど困窮するが、コロムビア・レコードと契約し、活動を再開。73年、アルバム"ピアノマン"がゴールドアルバムとなる。ブレイクの兆···

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