ライブのことは「演奏実験」と呼ぶなど、「音の実験」「音で遊ぶ」という意識のようだ。
アルバムの初回限定版は、AタイプとBタイプの2種類発売されたが、そのどちらもCDケースに白くて四角いステッカーが貼られ、有村竜太朗本人がマッキーでタイトルを手書きした。
自身でCD工場に赴き、製造過程を見学するなど、「音楽」と「CD」と「ライブ」の関係性をじっくり考えたのではないだろうか。
「実験」と称する通り、アーティストが普通なら感知しない領域まで踏み込むあたり、今までと少し違うことをしよう、という意思が見え隠れしている。
かといって生真面目な印象は薄く、どちらかというと遊び心に近いようだ。「音で遊ぶ」=「音楽実験」という感覚なのだろう。
かといって単なる遊びでは終わらず、きちんとプロとしての作品にまで仕上がっている辺り、さすがだなぁと感服する。
歌詞についても、Plastic Treeで書かれる文学性の高い物語のように展開するもの、というよりは、もっと個人の感覚に根付くような、ふんだんな言葉遊びに本心を隠したり混ぜたりするような、うっとりする美しさだ。そしてやはり「実験」として書かれている。
例えば「猫夢」の歌詞はこうなる。
→有村竜太朗「猫夢」の全歌詞はこちら
有村竜太朗の「猫夢」
覚めた夢をたどるたび 猫みたいに置き去りねふりむいたら 嘘ついてて 居なかった
うれしい夢に似せてみて 歌歌えど曖昧で
気がついたら痣になって滲むんだ
「猫夢」は曲自体は以前から存在していたようで、有村竜太朗の別名義でのコピーバンド活動では演奏されることもあったらしい。
有村竜太朗自身、猫を飼っているが、この「猫夢」というタイトルがどのくらい飼い猫に根付いているのかは推して測るしかない。
猫が見た夢なのか、猫になりたいという夢なのか。不思議な歌詞だと思う。
先程「演奏実験」と称したように、ライブでは毎回全ての曲のアレンジが変わる。
もちろん「猫夢」も例外ではない。「猫夢」は特にシューゲイザー色が強く、ライブでも盛り上がりが強い曲調だ。
ソロ活動でのライブは、例えばヘドバンで頭を降ったり、拳を力強く振り上げたり、という動作は観客席には見受けられない。
どちらかというとしっとり、じっくり聴こうとするオーディエンスが多い。
しかし「猫夢」の演奏時は、ユルめに腕を振り上げる動作が目立つ。そのくらい、轟音かつノリのいい曲なのだ。
歌詞に目立つ「抽象表現」、そこから見える意図とは
2018年1月には東京から奈良、大阪、名古屋をめぐるツアーが施行され、追加公演として千葉、そして再び東京公演も発表された。「猫夢」は今回のツアー中でも特にアレンジの妙が冴え、轟音具合に拍車がかかったようだ。
ライブを見ていると、歌詞を聴かせる、というよりは、歌詞(つまり言葉)をもっと音楽的に、言葉を音として聴かせたいのかもしれない、という印象がある。
同じ実験でも、「恋ト幻」という曲などは、むしろ歌詞を聴かせたいような印象なのだが、「猫夢」に関しては少し違うようだ。
「猫夢」というタイトルからも感じられる通り、歌詞全体に抽象表現が目立つ。そのことも手伝って、いつもより言葉を音として捉えているのかな、と思われる。
百聞は一見にしかず。2017年最初の「演奏実験」を収めたライブDVDも発売されている。気になる方はぜひチェックして欲しい。
こちらもやはり、随所に「実験」が試された、遊び心に富んだ内容となっている。
「猫夢」をヘッドホンで爆音で聴いて、「演奏実験」の轟音に身を委ねるのも悪くないだろう。
しかしできれば、実地に赴いて、ライブという「遊び場」で、身も心も音と混じらせ合ってみて欲しい。
TEXT:辻瞼