冷めているかは置いといて、今でも、牛丼は食べますよ
3rdアルバム『今日の詩』通常版
──アルバム『今日の詩』へ収録した曲たち、日々の生活の中へ心励ます形で寄り添ってくれる歌ばかりじゃないですか??すごく実感というか、「そうだよなぁ」「自分も頑張らなきゃ」と思える歌ばかりだなと聴いてて感じました。
ファンキー加藤: 自分では、根本的な部分はずーっとFUNKY MONKEY BABYS時代からの延長線上にいる気がしています。今回のアルバムに関しても、ナチュラルという言葉が正しいのかわかりませんけど、ガチガチに肩肘を張って作ったアルバムではないです。というのも、前アルバムの『Decoration Tracks』制作時の僕自身が、鬼気せまるような感じと言いますか、外からの雑音を一切受けつけない環境の中、頭のてっぺんまでどっぷりと音楽制作へ浸った環境に身を置いて作品を作っていました。結果、その環境にちょっと息苦しさも覚えたからなんでしょうね。今回は、程よく音楽制作へ身を浸し、楽しくアルバム制作を行えた感触や手応えがありました。
──前作でそこまで自身を追い込んだからこそ、その揺り返しがあったんでしょうね。
ファンキー加藤:それはあったと思います。だからと言って、今までとはまったく違う何かを作り上げようという意識ではなく、今回も前作の延長線上というか、物語はしっかり続いてるなという感触は持っています。
──収録した曲たちはどれも、酸いも甘いもではないですが、いろんな人生経験を重ねたからこそ出てくる想いたちだなぁと触れながら感じていました。
ファンキー加藤:それも、自然に出てくる言葉や想いたちなんです。僕は楽曲を作るうえで、変なフィルターをかけないように心がけています。歌詞に関しても、ナチュラルにと言いますか、自然と沸き上がる気持ちを言葉へしたためていれば、ここに書いた歌たちだって、誰もが当たり前に日常の中で感じている想いばかりですからね。
──今でも、冷めた牛丼をほおばることもあるのでしょうか?
ファンキー加藤:冷めてるかは置いといて(笑)、今でも、牛丼は食べますよ。とくに『冷めた牛丼をほおばって』をシングル発売した時期は、けっこう食べてました。ただし牛丼も、僕にとっては一つの表現としてのアイコンなんですよ。誰しも一度は経験したことのある事柄を題材に、その間口を広げながら、誰もが歌の主人公として入っていける物語であること。そのための表現のアイコンとして、たまたまこの歌では牛丼を使わせていただいたということなんです。
──加藤さんの歌へ強く共感を覚えるのも、その視点をしっかり持っているからなんですね。
ファンキー加藤:そう感じてもらえたら嬉しいですね。今回、アルバムタイトルへ『今日の詩』と名付けたのも、このアルバムに収録した歌たちが聴いてくださるみなさんにとって日々の主題歌や登場曲になって欲しいという願いを込めているからなんです。まぁ、そこのスタンスもFUNKY MONKEY BABYS時代からずっと変わらないことですけど。
たとえその言葉を綺麗事と揶揄されようが、それを出来るのが音楽
──昔も今も、加藤さんの想いは常に真っ直ぐですよね。ファンキー加藤:逆にいうと、それ以外は書けないというか。僕にとっての音楽の原体験が、そういうものだったんですよ。中学生の頃からの思春期や反抗期という、気持ちをこじらせて「わーっ!」となっていた時期。それって、みんな経験していることだと思うんですけど。そんな時期に、悲しい気持ちから嬉しい感情までを何倍にも膨らませてくれたのが、あの頃に出会ったTHE BLUE HEARTSや尾崎豊さん、長渕剛さん、桑田佳祐さんらの音楽でした。そういう人たちの歌を聴いて、僕は気持ちをポジティブに持っていけていたというか、どうにか正気を保っていた。そんな時代があったし、その頃に体験した音楽こそが、僕の中での表現したい音楽なんですよ。
──だから『前へ ~My way~』じゃないけど、気持ちを前へ前へと突き動かそうとしてゆくんだ。
ファンキー加藤:そう。たとえその言葉を綺麗事と揶揄されようが、それを出来るのが音楽。昔も今も、そこだけはずっと迷わずに出来ている気がしています。
──綺麗事と言ってましたけど、そういう言葉こそまっすぐ胸に突き刺さるのも間違いないですからね。
ファンキー加藤:たとえばの話、作業部屋で歌詞を書いている時点では、「そんなに世の中上手くいくかよ」「こんな綺事でいいのか」など、どこかクエスチョンマークを抱きながら書くことも正直あるんですよ。ただ、それをライブで歌うじゃないですか。そこには、僕が綺事かもと思った言葉たちを真っ直ぐに受け止めてくれる人たちがたくさんいる。時に笑顔を浮かべながら、時にはその言葉に涙を流しながら。その瞬間だけは、間違いなくその言葉は本物になっている。そこへ僕は希望を見い出しているというか、可能性を感じている気がするんですよね。たとえそれが一瞬だとしても、その瞬間は本気や本当になれる。それって素敵なことだと思います。
──その言葉が本気なら、絶対に胸へ刺さりますからね。
ファンキー加藤:そうなんです。それこそが、音楽の素晴らしさだと思います。
──個人的には『風物詩』がグサッと胸に突き刺されば、力強い励みにもなりました。
ファンキー加藤:『風物詩』は、純粋に「J-POPとして良い歌を作りたい」「一人でも多くの人に愛される歌を作りたい」という想いのみで作りましたからね。
──今回のアルバム制作の中、チャレンジもいろいろとあったのでしょうか。
ファンキー加藤:実験的な要素もいろいろ入れています。『花』は、「僕の大好きな青春パンクっぽい泥臭さや、ちょっと土臭い歌詞やメロディーへ、洗練されたEDMなサウンドをがっちゃんこさせたらどうなるんだろう」と思って作った楽曲だし。『ダイジョウブルース』は先にタイトルだけ先行で生まれたんですけど、プロデューサーと一緒に「タイトルに掲げたワードから、何処までブルースの本質を掘って作れるか」を追求。自分たちなりにブルースの歴史や様式美などを解釈し、咀嚼しながら作り上げた曲。結果的に、自分たちでも納得のいく楽曲になれたなと思っています。
歌詞に登場するVENESやMUTEKI、kawaiiって…
──アルバム『今日の詩』は、人生のいろんな場面に寄り添ってくれるアルバムですね。それだけ自分も、いろんな人生を歩んできたからだと思ってしまいました。ファンキー加藤:聴いた人にとって、そういうアルバムになって欲しいなと思っています。今回のアルバムジャケットで、僕はイヤホンを付けながら駅でたたずんでいます。僕自身、そういう日常の中で聴きたくなるアルバムになって欲しいなと思っています。
──加藤さんって、日常をずっと歌い続けていますよね。
ファンキー加藤:僕自身が、みんなと変わらない日常を送っていますからね。そりゃあ、しょっちゅう牛丼を食べることはなくなったけど(笑)、日々の中、苦しいことや悲しい経験を重ねるたびに、「こういう想いを抱いてるのって、けっして俺だけじゃないよな」「何処かの誰かだって、きっと似たような想いを抱いてれば、それでも頑張って生きていこうとしてるよな」と思いたくなるし、それを僕は心の拠り所にしながら歌にぶつけ続けています。
──『おーい友よ』へ記したような、日々別々の人生を送ってるけど、会った瞬間に昔の仲間になってはしゃぐ経験って、誰だってしていますからね。
ファンキー加藤:そうですよね。
──ちなみに、『急性ラブコール中毒 Solo ver.』についてですが…。
ファンキー加藤:えっ、歌詞サイトのUtaTenさんで、そこまでも触れてしまうんですか!(笑)
──だって、すっごく気になる歌ですもん。
ファンキー加藤:『急性ラブコール中毒 Solo ver.』に関して言うなら、僕らなりの悪ふざけというか。毎回のアルバムごと、僕は面白い楽曲を収録しているんですけど。やっぱり、今回も楽しい悪戯心を発揮したくなり、作ってしまった形なんですよ。
これまで形にしてきた『急性ラブコール中毒』シリーズでは、ロックンロールやEDM、ダンスクラシックなど、その年代を象徴するダンスチューンを楽曲のベースに据えて作り続けてきました。今回取り上げたのが、90年代に世間を騒がせかたパラパラでした。今の時代の中でパラパラをやってしまうところが面白いじゃないですか。ただし、こういうエロソングの場合、どこまでぶっ飛んで良いのか表現のさじ加減が難しい。直接過ぎてもただのアホ丸出しになれば、誰にも気づかれないようでは、それも癪なこと。じつは、こういうおふざけソングこそ、いろいろ頭をひねりながら真面目に作っているんです。
──もしや、歌詞に登場するVENESやMUTEKIって…。
ファンキー加藤:kawaiiも含め、ずばりAVメーカーですよ。そもそもSolo ver.という表記自体がおかしいんです。僕、ずっとソロですから(笑)。そういうのも含め、若干世間の目も気にしつつ遊んでるわけですよ。
──このシリーズを楽しみにしているファンたちも多いんですよね。
ファンキー加藤:めちゃくちゃいます。とくに女性ファンの方々。このシリーズを収録しないとなったら、「お前は丸くなったのか」「ファンキー加藤、ついに落ち着いたか」と怒られますからね(笑)。
それに僕らのチーム自体が、ずっと根詰めてシリアスにアルバム制作をしていると、どっかしんどくなる時期が訪れるんですね。そこで、作っている僕ら自身がゲラゲラ笑いながら作ることで、制作の中へ良い空気感を作っていける。そういう空気感が、実際にアルバムの中には出ているように、聴いてくれた人たちも、「またバカなことやってんなぁ」「加藤さん、この歌作ってるときはしゃいでたんだろうなぁ」と想像してもらえたらなと思っています。実際、楽しかったですからね。